...何のことはない、陽春(ようしゅん)四月頃の花壇(かだん)の中に坐ったような光景だった...
海野十三 「柿色の紙風船」
...何のことはない植木屋のおやじだ...
太宰治 「如是我聞」
...じっさい餓鬼は餓鬼を誘い、弟は兄を、姉は妹を、おふくろは父(とっ)つぁんを、婆さんは爺さまを、鶏は牛を、犬は馬を、みんながみんなを呼び出して来て、隣異と讃嘆をもって遠くから研究的に見物するんだから、こっちで私たちが、ふたりで何か話して笑っても、私が煙草に火をつけても、彼女が鼻へ白粉(おしろい)を叩いても、それがそっくりそのまま、何のことはない、まるで舞台の芝居になっていて、どうも弱ってしまう...
谷譲次 「踊る地平線」
...何のことはない...
谷譲次 「踊る地平線」
...わたしはね、他に何か的(まと)でもあるのかと思つたら、何のことはない、小さなカワラケの皿をね、かうひよつと機械仕掛けでとばしてね、――そいつを射つんでせう...
田畑修一郎 「医師高間房一氏」
...何のことはないもっとも俗物的な国粋ファッショ式な善導案にすぎないという点である...
戸坂潤 「読書法」
...何のことはない、二十代もつづいた大庄屋(おおしょうや)の台所へ来たようなものです...
中里介山 「大菩薩峠」
...それもその心得でさえあれば何のことはないのです...
中里介山 「大菩薩峠」
...何のことはないお蘭さんの投げた株を引受けて...
中里介山 「大菩薩峠」
...ところが、この機敏な頭に何か不幸が降りかかり、彼自身が苦しい羽目に立つようなことになると――そんな人格などはどこかへ雲がくれをしてしまうのだ! その確乎たる人物が、すっかり狼狽してしまい、似ても似つかぬ憐れむべき臆病者に、見る影もない弱々しい子供に変ってしまう、いや、何のことはない、あのノズドゥリョフがよく口癖にいう、助平になってしまうのである...
ニコライ・ゴーゴリ Nikolai Vasilievitch Gogolj(Николай Васильевич Гоголь) 平井肇訳 「死せる魂」
...うん、何のことはない、彼奴らをすっかり煙にまいてやったのさ...
ニコライ・ゴーゴリ Nikolai Vasilievitch Gogolj(Николай Васильевич Гоголь) 平井肇訳 「死せる魂」
...尻をおさえながら我慢して稼ぎ漸く痔瘻と梅毒の手術代を儲けて医学博士の病院へ入院さ何のことはない魚の料理ガラスの手術台へ素っ裸にして乗せられ手も脚も縛って目隠しを当てメス...
細井和喜蔵 「泥沼呪文」
...六義園なら何のことはないし...
宮本百合子 「獄中への手紙」
...私にはさっぱり分らないので、ぼんやり顔を見ていると、何のことはない、そこがつまり、同時にホテル・マルノの前で停っていたのだ...
横光利一 「欧洲紀行」
...何のことはない...
吉川英治 「三国志」
...――会ってみれば、何のことはない、二人は盟軍の盟友だった...
吉川英治 「私本太平記」
...おれは生きた」「どこにも、お負傷(てきず)は」「矢傷の二つや三つ、何のことはない...
吉川英治 「平の将門」
...たしかに、灸で、癒(なお)りましょうか」「癒してやるよ」「そうですか」幇間(たいこもち)の桜川は、桃の樹の下へもどって、花を仰いでいる二十八、九の婦人に、「お嬢さん、やっぱり、そこが灸点師(きゅうてんや)です」「どんな人?」「渋染(しぶぞめ)の頭巾をこう被(かぶ)りましてね、袖無(そでな)しを着て、何のことはない、柿右衛門(かきえもん)が線香を持ったような……だが肥(ふと)っちょな醜男(ぶおとこ)でさ」「男ぶりなんか訊いているんじゃありませんよ...
吉川英治 「松のや露八」
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