...「どうだネ、この両方の指紋は……」水田検事の声は、心なしか、すこし慄(ふる)えを帯びているようであった...
海野十三 「蠅男」
...心なしか母の顔に疲れ切つた様子が薄い膜のやうに出て来はじめたのを民子が気にかけてゐる中に...
田畑修一郎 「鳥羽家の子供」
...どうも心なしか、露西亜語の方はその後はあまり吹聴されなくなったようだった...
中谷宇吉郎 「先生を囲る話」
...心なしか、行手の藪蔭、木立の隙間、百姓家の角などに、時々チラと若い女の後ろ姿を見掛けるような気がしたのでした...
野村胡堂 「江戸の火術」
...そういうあの方の後ろ姿は、私の心なしか、いつになくお辛そうにさえ見えた...
堀辰雄 「かげろうの日記」
...それが私には心なしか...
堀辰雄 「菜穂子」
...それが私には心なしか...
堀辰雄 「楡の家」
...心なしか、少女はもう少し疲れてゐるやうに見えた...
堀辰雄 「四葉の苜蓿」
...「伝四郎どのはごぶじのようですね」そういう姑の声も心なしかふるえていた...
山本周五郎 「日本婦道記」
...心なしかその睫毛のない眼をしばだたいて...
吉川英治 「大谷刑部」
...心なしかワッという鬨(とき)の声(こえ)と共に...
吉川英治 「剣難女難」
...夜に入ると、心なしか、地は常よりも暗く、天は常よりも怪しげな妖星の光が跳ねおどっていた...
吉川英治 「三国志」
...この日、心なしか、薄雲がみなぎって、日輪は寒々とただ紅かった...
吉川英治 「三国志」
...心なしか愁然(しゅうぜん)と...
吉川英治 「三国志」
...心なしか、こよいはことに砦(とりで)のうえに、いちまつの殺気がみち満ちていた...
吉川英治 「神州天馬侠」
...心なしか、暮れかけている泥湖(どろうみ)の水の光も、孤城の影も、何となく寂(じゃく)として、雨の霽(は)れ間(ま)を身に迫る湿(しめ)っぽい風が蕭々(しょうしょう)と吹き渡っていた...
吉川英治 「茶漬三略」
...心なしか、いつもの朝のように、清々(すがすが)しくない...
吉川英治 「梅里先生行状記」
...心なしか、こよいは、灯も鮮やかに、翳(くも)りなく点(とも)って、なんとなく胸も花やぐようなと、灯占(ひうら)をたてていたが――花田橋ではお許(もと)に待たせたが、こたびはわしが待つであろう瀬田の湖畔に牛をつないでと、武蔵からの便り...
吉川英治 「宮本武蔵」
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