...覚束(おぼつか)ない行燈の光の中に、象牙の笏(しやく)をかまへた男雛(をびな)を、冠の瓔珞(やうらく)を垂れた女雛(めびな)を、右近の橘(たちばな)を、左近の桜を、柄(え)の長い日傘を担(かつ)いだ仕丁(しちやう)を、眼八分に高坏(たかつき)を捧げた官女を、小さい蒔絵(まきゑ)の鏡台や箪笥を、貝殻尽しの雛屏風を、膳椀を、画雪洞(ゑぼんぼり)を、色糸の手鞠(てまり)を、さうして又父の横顔を、……夢かと思ふと申すのは、……ああ、それはもう前に申し上げました...
芥川龍之介 「雛」
...紫宸殿になぞらえて、左近の桜、右近の橘もあったと聞かされたが、眼に沁みたのは満目の落葉と、昼も解けないでいる御手洗(みたらし)の薄氷...
吉川英治 「随筆 新平家」
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