...四谷の向う正面は...
徳冨健次郎 「みみずのたはこと」
...そうそう、これほどに暮色がせまっていないならば、米友といえども、文字のある男だから、向う正面を、じっと見上げて立っていた時に、碑面にしるされた文字――「天樹院殿栄誉源法松山大禅定尼」が読めなかったはずはない...
中里介山 「大菩薩峠」
...その見物の中には、向う正面の、例のつんぼ桟敷というのに頑張った、五十左右の立派やかな武芸者と見える人物と、白髪白髯の瓢亭たる老人が、一しんに、舞台に見入っているのが見られたが、これが脇田一松斎と、孤軒老人――雪之丞の技芸(わざ)に、すっかり魂を吸われた男女が、道行きぶりの華やかさに、うっとりと見とれているとき、「今度の、あの者の仕事は、わしどもが力を添えねば、仕遂げえぬかと思いましたが、案外スラスラと――」と、孤軒老人が、「あれも、なかなか人間も出来て来ましたの」「はい、拙者も、何かの折は、一肩入れねばと、思い設けていましたが、さすが、おさない折より老師の御教訓――やはり、ほんとうの修業が出来ておりますと、どんな大事も、一人立ちで仕上げますな...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
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