...ふと見ると、我々の前には、警視庁の殺風景な建物が、黒く空を衝(つ)いて聳えてゐた...
芥川龍之介 「あの頃の自分の事」
...ふと見ると高さ二尺ほどの鐘はすぐ眼の先に塵まぶれになって下っていた...
有島武郎 「星座」
...ふと見ると黒部川の向う岸に...
石川欣一 「可愛い山」
...ふと見ると、むこうに大きなテントがはってあって、音楽の音が、にぎやかに聞こえてきました...
江戸川乱歩 「サーカスの怪人」
...ふと見ると王女がいつの間(ま)にかいなくなっているものですから...
鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
...まんりょう夕方ふと見ると...
薄田泣菫 「艸木虫魚」
...ふと見ると、水底の藻の塊を押し分けて、大きな鯉がのっそりと出て来た...
薄田泣菫 「艸木虫魚」
...「今度は医学士の弟の方だが、彼には五歳(いつつ)になる女の子があって、悪漢のお祖父(じい)さんが、非常に可愛がっていたから、それからさきへやったのだ、むせむせする晩春(はるさき)のことだ、その小供が二階の窓の下で遊んでたから、二三本の赤い芥子(けし)の花を見せてやったさ、小供の心はすぐその花へ来た、小供は手を延(の)べて執(と)ろうとしたが執れない、そこで、(春(はる)や、春や)と、小間使(こまづかい)を呼んだが、返事がないので、じれて来て、窓へ掻(か)きあがろうとしたが、あがれない、(春や、春や、春やってば)と、今度は怒って呼んだが、それでも小間使はやって来ない、僕はその花を小供の眼から離さないように努力していたものさ、そこで、小供は小さな頭をひねって、その花を執(と)る法を考えたが、やっと椅子(いす)のことを思いだして、室(へや)の中から、よっちょらよっちょらと引張って来て、窓際(まどぎわ)へ据(す)え、その上にあがって執ろうとしたが、花が掴(つか)めないので、窓の敷居の上へ這(は)いあがって、手を一ぱいに延べたので、そのまま下へ落ちてしまったさ、小供には気の毒だが、悪漢の悲しんでいた容(さま)が痛快だったね、医師はその比(ころ)から神経に故障が出来たのだ、ある夜(よ)、眼を覚してみると、並びの寝台に寝ているはずの細君(さいくん)の姿が見えないのだ、細君の行動に疑問を抱くようになっていた奴(やっこ)さんは、そっと室(へや)を出て、廊下を通って父親の居間になっている日本間の方へ往くと、廊下のとっつきの小座敷(こざしき)で人の気配がするのだ、奴さん、そっと障子際(しょうじぎわ)へ寄って耳を立てると、むし笑いに笑う女の声がするが、それがどうしても細君だ、奴さん頭がかっとなるとともに、体が顫(ふる)ひだしたがすぐ奴さんに自制力が出来た、(ただ亢奮(こうふん)する時でないぞ)と、奴さんは歯をくいしばったのだ、そして、耳を澄まして見ると、女の声は無くなって、父親が何か小さい声で話している声が聞える、(しかし、あの笑い声は、たしかに彼だ)奴さんは近比(ちかごろ)細君の行動の怪しいことから、傍の寝台にいなかったこと、むし笑いに笑った女の声が、たしかに細君の声であったことを思いだして、世界が暗くなったのだ、しかし、(待てよ、このことは、己(じぶん)の身にとって、青木一家にとって、極めて重大な事件だ、これは、好く前後を考えたうえの所置にしなければならん)と、奴さん稍(やや)精神がはっきりしたので、己の寝室へ帰って往ったのだ、そして、室の中へはいってみると、細君は己の寝台の上ですやすや睡(ねむ)っているのだ、奴さんは己の神経の狂(くるい)で奇怪な幻を画(えが)いたことに気が注(つ)かないから、びっくりして眼を(みは)ったのだ、そこで奴さんは、その晩のことは己の邪推であったと思うようになったが、それでも細君に対する疑惑は薄らがなかったさ、それから五六日して、夕方芝口(しばぐち)を散歩していると、背後(うしろ)から一台の自動車が来たが、ふと見ると、それには深ぶかと青い窓掛(まどかけ)を垂れてあった、それが奴(やっこ)さんを追越そうとしたところで、中からちょっと窓掛を捲(ま)いて、白い顔を出した女があった、それが細君(さいくん)さ、細君はその日三時から本郷(ほんごう)の公爵家で催す音楽会へ往っている筈(はず)である、おかしいぞと思って、内を透(す)かすと、男の隻頬(かたほお)が見えた、それは父親の顔であった、奴さんの眼前(めさき)はまた暗んだのさ、(怪(け)しからん、怪しからん)奴さん自暴自棄(やけくそ)になって、もと往ったことのある烏森(からすもり)の待合(まちあい)へ往って、女を対手(あいて)にして酒を飲んでいたが、それも面白くないので、十二時比(ころ)になって自宅(うち)へ帰ったさ、(今日は大変面白うございましたよ)と、奴さんを待っていた細君が悦(うれ)しそうな顔をして云うのを、何も云わずに睨(にら)みつけたさ、細君はその凄(すご)い眼の光を見て、どうしたことが出来たのかと思って、口をつぐんではらはらとして立ったのだ、僕はその時、細君の横手になった大きな姿見(すがたみ)の中へ顔を出していたが、二人とも見なかったのだ、それから五六日経(た)った、奴さんとろとろ睡(ねむ)っていて、眼を開けてみると、また細君がいない、しかし何時(いつ)かの夜のことがあっているので、好く眼を据(す)えて見定めてみたが、たしかにいないと云うことが判った、が、また便所へ往っていないとも限らないと思って、十分ばかり起きあがらずに待っていたが、細君は入って来ない、そこでまた廊下へ出て、廊下を日本間の方へ往ったのだ、往ってみると、怪しい囁(ささやき)のしていた室(へや)の前の雨戸が五六寸開(あ)いているから、それを見ると、その開口(あきぐち)を広くして裸足(はだし)で庭へおりたさ、遅い月が出て、庭は明るかった、池の傍を廻って、新緑の匂(におい)のぷんぷんする植込みの下の暗い処を歩いて、仮山(つきやま)の背後(うしろ)になった四阿屋(あずまや)の方へ往ったのだ、四阿屋の中には、人のひそひそと話す声がしていた、枝葉の間からそっと覗(のぞ)くと、月の陰になって中にいる人は見えないが、あまえるような女の声はたしかに細君(さいくん)で、他の声はがすがすする父親の声なのだ、(なんと云う醜体だ)と、奴(やっこ)さんは顫(ふる)ひだしたが、忽(たちま)ち引返して己(じぶん)の寝室へ入り、机の抽斗(ひきだし)にしまってあった短銃(ぴすとる)を持って、はじめの処へ往き、また、枝葉の間から眼を出して、四阿屋のなかを透(す)かして見た、四阿屋の中では話声はしなかったが、もそりもそりと物の気配がしていた、(畜生(ちくしょう)どもたしかにいるぞ)と、奴さんは眼を(みは)ったさ、白い手や白い顔がはっきりと暗い中に見えた、奴さんの右の手の短銃(ぴすとる)の音が大きな音を立てたのだ、(貴方(あなた)は何をなさるのです)奴さんが短銃(ぴすとる)を持ち出して往く姿をちらと見て、後(あと)をつけて来た細君が抱きついたのだ、四阿屋の中には僕の影がおったさ、そこへ悪漢の青木が来る、書生が来るして、発狂してしまった奴さんを執(と)り押えたのだ、その奴さんは、今至誠病院の一室(しつ)で狂い廻って、悪漢の心をさんざんに掻(か)き乱しているが、もう長いことはないし、悪漢の寿命も今明年(こんみょうねん)のものさ、僕は思いどおりに復讐することができたが、こうなってみると仇(かたき)ながらも可哀そうだ」私にこの話を聞かしてくれた仮名(かりな)の山田三造君は、最後にこんなことを云った...
田中貢太郎 「雨夜草紙」
...橋を渡ろうとしてふと見ると...
田中貢太郎 「荷花公主」
...ふと見ると、おかあさんがこっちを見ながら、さもうれしそうに笑(わら)っている...
フョードル・ドストエフスキー 神西清訳 「キリストのヨルカに召された少年」
...きょうは来ぬかと思うていたが」ふと見ると...
直木三十五 「大衆文芸作法」
...ふと見ると...
根岸正吉 「落ちぬ血痕」
...ふと見るとすこし向うに赤ん坊が浮かんでいる...
牧逸馬 「運命のSOS」
...ふと見ると、内陣の深くは、赤い蜘蛛(くも)の巣がかがやいている...
吉川英治 「江戸三国志」
...その阿娜(あだ)な声と阿娜な姿の持ち主をふと見ると...
吉川英治 「剣難女難」
...……が、ふと見ると、頭目は左の手に、鉾(ほこ)に似た長柄の刀をさげている...
吉川英治 「平の将門」
...ふと見ると!もうその頃は...
吉川英治 「宮本武蔵」
...どうぞその駕、お通しくださいませ』『かたじけない』兵庫は、それを惣七に伝えるつもりで、駕のそばへ戻って来たが、ふと見ると、お市の乗っている底から、血しおのながれが、無数に地を走っていた...
吉川英治 「夕顔の門」
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