...そうかといってその船員には無頓着(むとんじゃく)にもう一度前のような幻想に身を任せようとしてもだめだった...
有島武郎 「或る女」
...伯母さんはまた自分の身がかせになって、貴下が肩が抜けないし、そうかといって、修行中で、どう工面の成ろうわけはないのに、一ツ売り二つ売り、一日だてに、段々煙は細くなるし、もう二人が消えるばかりだから、世間体さえ構わないなら、身体(からだ)一ツないものにして、貴下を自由にしてあげたい、としょっちゅうそう思っていらしったってね...
泉鏡花 「女客」
...そうかといって、アーメンと、あがめたたえられているように、神様の化身でもない...
海野十三 「地底戦車の怪人」
...(夫はそういう点は実に陰険なのである)そうかといって一回々々新しい方法を案出することは不可能に近い...
谷崎潤一郎 「鍵」
...そうかといって余分の小遣いのないわれわれは...
戸坂潤 「現代日本の思想対立」
...そうかといって立身するほどの頭はなし...
中里介山 「大菩薩峠」
...わたしは故郷へ帰れません……そうかといって...
中里介山 「大菩薩峠」
...そうかといって西の出崎の松...
中里介山 「大菩薩峠」
...つまり一両の享保小判の全体の重さは四匁七分あって、混ぜ物が六分三毛あるから差引そのうち正味の純金が四匁九厘七毛だから、これを銀にかえ、小粒(こつぶ)に替え、銭にかえたら幾ら――西暦一九三三年前後、世界各国が、金の偏在と欠乏に苦しんで、それぞれ国家が金の輸出を禁止し、日本の国に於ても、公定相場が持ちきれなくなり、その一匁市価が十円まで飛び上ったとして、右の享保小判の一枚は四十七円に相当するから、五十二枚は二千四百四十円ばかりの勘定となる――それだけの金を、旅費の一部分として無雑作に目の前に出されたことに於て、今更、お雪ちゃんも、この人の実家というものが、底の知れないほどの長者であることを思わせられずにはいないと共に、そうかといって、それを湯水、塵芥(ちりあくた)の如く扱うわけでもなく、量目の存するところは量目として説明し、換算の目算は換算の目算としての相当の常識――むしろ、富に於てはこれと比較にならない自分たちの頭よりも、遥かに細かい計算力を持っている様子に於て、お雪ちゃんは、このお嬢様は金銀の中に生れて来たが、金銀そのものの価値を知らないお姫様育ちの娘ではないということの、頭の働きを見て取ることができました...
中里介山 「大菩薩峠」
...さしもの米友も、追いあぐねるのが当然でしたが、そうかといって、そのまま引返す米友ではありません...
中里介山 「大菩薩峠」
...そうかといって、この場へ齎(もたら)されて花が咲こうとしている向う河岸(がし)から新来の旅客の世間話が、どうしてもこの際、聞きのがせないものの一つとなっているようだ...
中里介山 「大菩薩峠」
...七兵衛は、その鍋の中を判断し兼ねていたが、そうかといって、人間の肝を煮ているわけでもないようです...
中里介山 「大菩薩峠」
...そうかといって、人が畏(おそ)れ敬うものは、相当に会釈をしなければならないと思いましたから、土下座こそきらないが、相当に畏れ敬う素振りを示して、少々出立を控えておりました...
中里介山 「大菩薩峠」
...そうかといって面と向かって...
夏目漱石 「三四郎」
...そうかといって去ってしまったが...
柳田国男 「年中行事覚書」
...そうかといって草取りの時期にいつまで床についてもいられないので...
山本周五郎 「藪落し」
...そうかといって、戦陣の恩賞を辞退するのも主家に対してよろしくない...
吉川英治 「新書太閤記」
...――それは」吉野は、細い眉をちょっとひそめながら、詩を歌う節でもなく、そうかといって、ただの言葉でもない低声で、大絃は々(さうさう)急雨の如く小絃は切々 私語の如し々切々錯雑(さくざつ)に弾(だん)ずれば大珠小珠 玉盤に落つ間関(かんくわん)たる鶯語(あうご)花底に滑(なめら)か幽咽(いうえつ)泉流 水灘(たん)を下る水泉冷渋(れいじふ)絃(げん)凝絶(ぎようぜつ)し凝絶して通ぜず 声暫し歇(や)む別に幽愁 暗恨の生ずる有(あり)此時(このとき)声なきは 声あるに勝(まさ)る銀(ぎんぺい)乍(たちま)ち破れて水漿(すゐしやう)迸(ほとばし)り鉄騎突出(とつしゆつ)して刀槍(たうさう)鳴る曲終つて撥(ばち)ををさめ心(むね)に当てて画(くわく)す四絃一声裂帛(れつぱく)のごとし「――このように一面の琵琶が複雑(さまざま)な音を生みまする...
吉川英治 「宮本武蔵」
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