...君はくすんだガラス板に指先を持って行ってほとほととたたく...
有島武郎 「生まれいずる悩み」
...かぼちゃにもじゃもじゃ毛をはやしたような目の美しくすんだ男――犬山画伯だった...
海野十三 「一坪館」
...くすんだ黄色い地に...
江戸川乱歩 「孤島の鬼」
...馬車が言いつけた番地の前に停った時、霧が少しはれて、くすんだ街や、けばけばしく飾り立てた酒場や、低級なフランス式料理店や、三文雑誌や安サラダを売る店や、あちこちの家の戸口にむれ集まっているぼろ服を着たたくさんの子供たちや、朝酒を飲みに鍵を手にして出てきたいろんな国々の大ぜいの女たちなどが、彼の眼に映った...
スティーヴンスン Stevenson Robert Louis 佐々木直次郎訳 「ジーキル博士とハイド氏の怪事件」
...微かに煙るアーク燈の光りのあちらに五重の塔がくすんだ影を陰欝に浮き立たせてゐた...
武田麟太郎 「一の酉」
...くすんだ地に薄く茶糸(ちゃ)で七宝繋ぎを織り出した例(いつも)のお召の羽織に矢張り之れもお召の沈んだ小豆色(あずきいろ)の派手な矢絣の薄綿を着ていた...
近松秋江 「別れたる妻に送る手紙」
...更(さら)にくすんだ赭(あか)い欅(けやき)の梢(こずゑ)にも微妙(びめう)な色彩(しきさい)を發揮(はつき)せしめて...
長塚節 「土」
...くすんだ半襟(はんえり)の中から...
夏目漱石 「草枕」
...これもくすんだ縞物(しまもの)を...
夏目漱石 「虞美人草」
...くすんだ縞(しま)ものを着て...
夏目漱石 「野分」
...そこの家具の肱掛椅子や椅子がくすんだ色と輝く色が代わる代わる縞をなしている植物繊維の材料で出来ているのを見ることほど物悲しいものはない...
バルザック Honore de Balzac 中島英之訳 「ゴリオ爺さん」
...くすんだ色の浜縮緬(はまちりめん)の座敷着に翁格子(おきなごうし)の帯をしめ...
久生十蘭 「顎十郎捕物帳」
...くすんだ千歳茶(ちとせちゃ)の斜山形が経(たて)つれの疵みたいに浮きあがっているの...
久生十蘭 「猪鹿蝶」
...家(うち)も見窄(みすぼ)らしかったが、主人も襟垢(えりあか)の附た、近く寄ったら悪臭(わるぐさ)い匂(におい)が紛(ぷん)としそうな、銘仙(めいせん)か何かの衣服(きもの)で、銀縁眼鏡(ぎんぶちめがね)で、汚い髯(ひげ)の処斑(ところまだら)に生えた、土気色をした、一寸(ちょっと)見れば病人のような、陰気な、くすんだ人で、ねちねちとした弁で、面(かお)を看合(みあわ)せると急いで俯向(うつむ)いて了う癖がある...
二葉亭四迷 「平凡」
...そのくすんだ黒つぽい服裝が...
ブロンテイ 十一谷義三郎訳 「ジエィン・エア」
...いくぶんくすんだやうな情熱と強い意志をさへ感じさせる...
堀辰雄 「おもかげ」
...丸い大きな太陽がくすんだ地面を照らした...
フレッド・M・ホワイト Fred M. White 奥増夫訳 「四日闇夜」
...くすんだ光が円を描くのである...
本庄陸男 「石狩川」
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