...まだ鐚(びた)一文も...
海野十三 「雷」
...先は足もとを見やがったのか二百ドルが鐚(びた)一文(もん)も負からない...
谷崎潤一郎 「蓼喰う虫」
...これびた公、何か珍しいものを御馳走しろ、どのみち、毛唐(けとう)の食うものだから、人間並みのものを食わせろとは言わねえ、悪食(あくじき)を持って来て、うんと食わせろ」と神尾は、これから持運ばれようとする食物の催促を試みると、金助改め鐚助が、心得顔に、「殿様、とりあえず牛(ぎゅう)を召上れ、まず当節は牛に限りますな、ことに築地の異人館ホテルの牛の味と来ては、見ても聞いてもこたえられねえ高味(こうみ)でげす」「ギュウというのは牛のことか」「左様でげす――」「一橋の中納言は豚を食って豚一と綽名(あだな)をつけられたくらいだから、牛を食っても罰(ばち)も当るめえ」「罰が当るどころの沙汰ではございません、至極高味でげして、清潔無類な肉類でげす、ひとたびこの味を占めた上は、ぼたんや紅葉(もみじ)は食えたものじゃがあせん」「そうか、牛というやつは清潔な肉かい」「清潔でございますにもなんにも、こんな清潔なものを、なぜ日本人はこれまで喰わなかったのでげしょう、西洋では千六百二十三年前から、専(もっぱ)ら喰うようになりやした」「くわしいな、千六百二十三年という年紀を何で調べた」「福沢の書いたものでも読んでごらんあそばせ、あちらではその前は、牛や羊は、その国の王様か、全権といって家老のような人でなけりゃあ、平民の口へは入らなかったものでげす、それほどこの牛というやつは高味なものでげす、それを日本ではまだ野蛮の風が失せねえものでげすから、肉食をすりゃ神仏へ手が合わされねえの、ヤレ穢(けが)れるのと、わからねえ野暮(やぼ)を言うのは、究理学をわきまえねえからのことでげす」「ふーん、日本は野蛮の風が失せねえから、それで肉食をいやがるのだと、これは笑い草だ、生き物の肉をむしゃむしゃ食う毛唐の奴の方が野蛮なんだ、勝手な理窟をつけやがる」と神尾が冷笑しました...
中里介山 「大菩薩峠」
...また物の数ならねどかく申す鐚助」「そいつらがみんな甘いものだ...
中里介山 「大菩薩峠」
...「鐚(びた)が――そそのかしに行ったはずだ」と同人の一人がまた言いました...
中里介山 「大菩薩峠」
...さればこそ、鐚の奴も、命からがらああして逃げては来たが、やっぱり本性は違(たが)わずに、落着くべきところへ落着いたのだ...
中里介山 「大菩薩峠」
...「鐚だ」「鐚が気絶している」「水を吹きかけろ」「鐚――鐚やあーい」呼び続けると...
中里介山 「大菩薩峠」
...「鐚――気がついたか」「鐚――しっかりしろ」「鐚――」広間へ担(かつ)ぎ込んで...
中里介山 「大菩薩峠」
...例の鐚(びた)であります...
中里介山 「大菩薩峠」
...さて、鐚儀(びたぎ)、今日の推参の次第と申しまするは、決して色の酒のと野暮(やぼ)な諫言立(かんげんだ)てのためにあらず――近来稀れなる風流の御相談を兼ねて参じやした」「風流――風通(ふうつう)の間違いだろう、風通の一枚もこしらえたいが、銭がねえというところだろう」主膳も、いささかアクドイ応酬を致しましたが、鐚に於ては洒唖乎(しゃああ)たるもので、「どう致しやして、衣食足って礼節を知る、古人はいいところを言いやした、鐚儀が不肖ながら食物は今朝アブ玉で、とんとお腹いっぱいこしらえて参じやした、食の方は事足りて余りあり、衣の方に於きましては、これごらんあそばせ、上着が空色の熨斗目(のしめ)で日暮方という代物(しろもの)、昼時分という鳶八丈(とびはちじょう)の取合せが乙じゃあございませんか...
中里介山 「大菩薩峠」
...「来たな」と鐚は思いました...
中里介山 「大菩薩峠」
...その姿を見て、鐚が、なるほど姪を孕まして、板下に書いて売出しそうなおやじだ、至極お人よしだなと思いました...
中里介山 「大菩薩峠」
...人肌地藏の臺石の上に置いた青錢や鐚錢(びたせん)は...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...何しろ青銭や鐚銭を...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...全く思い付きだ」「ヘエ――」「青銭や鐚銭(びたせん)を小粒に変えたのも...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...鐚(びた)一文も不審な金はございません」どこで聽いてゐたか...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...逆さにふるったって鐚(びた)一文ありゃしません...
山本周五郎 「其角と山賊と殿様」
...鐚銭(びたせん)一文出しやがらんでお前...
横光利一 「南北」
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