...明治二十四年四月 平文彦この文、もと、稿本の奧に書きつけおけるおのれがわたくし物にて、人に示さむとてのものならず、十七年があひだの痕、忘れやしぬらむ、後の思ひでにやせむ、とて筆立でしつるものなるが、事實を思ひいづるにしたがひて、はかなき述懷も浮びいづるがまに/\、ゆくりなくも、いやがうへに書いつけもてゆけるはて/\の、かうもくだ/\しうはなりつるなり...
大槻文彦 「ことばのうみのおくがき」
...ゆくりなくも斯様な所へ御奉公に罷り出た身のなりゆきの不思議さを驚くばかりでござりましたが...
谷崎潤一郎 「聞書抄」
...その晩は又ゆくりなくも十畳の座敷に妙子と二人...
谷崎潤一郎 「細雪」
...ゆくりなくも蕗のとうを見つけた...
種田山頭火 「松山日記」
...二十八ゆくりなくも...
中里介山 「大菩薩峠」
...庭にはじめてさけりとありうなだれし秋海棠にふる雨はいたくはふらず只白くあれないさゝかは肌はひゆとも單衣きて秋海棠はみるべかるらしゆくりなくも宿のせまき庭なる朝顔の垣をのぞきみて秋雨のひねもすふりて夕されば朝顔の花萎まざりけり十月一日...
長塚節 「長塚節歌集 下」
...ゆくりなくも私は板敷山の宵道をただ一人で降り坂にとりかかった...
服部之総 「加波山」
...第十章読者には先刻お馴染の、この市の慈父であり恩人であるところの警察部長の邸に集まった役人連は、ゆくりなくも、重なる不安と焦燥からげっそり痩せ細った顔を、互いに見合わせた...
ニコライ・ゴーゴリ Nikolai Vasilievitch Gogolj(Николай Васильевич Гоголь) 平井肇訳 「死せる魂」
...或月の好い夜にそれをゆくりなくも思ひ出し...
堀辰雄 「姨捨記」
...ゆくりなくも思ひ出されたりするのである...
牧野信一 「喧嘩咄」
...ゆくりなくもダフウトにめぐり会った...
フィオナ・マクラウド Fiona Macleod 松村みね子訳 「髪あかきダフウト」
...ゆくりなくも私はこの昔の氷屋の硝子暖簾を聯想せずにはゐられなかつた...
正岡容 「旧東京と蝙蝠」
...ゆくりなくもいまここにうれしく蘇ってきたのだった...
正岡容 「小説 圓朝」
...ゆくりなくも彼の子供時代からの体験を思い出していた...
夢野久作 「木魂」
...ゆくりなくも私の家に一晩泊つた時...
吉川英治 「折々の記」
...ゆくりなくもきあわせた巽小文治(たつみこぶんじ)が...
吉川英治 「神州天馬侠」
...ゆくりなくも彼は...
吉川英治 「梅里先生行状記」
...ゆくりなくも今、大蔵の名を見出して、武蔵は茫然――別れた者たちを、思い出しているのだった...
吉川英治 「宮本武蔵」
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