...鶴瀬(つるせ)から本陣の土屋清左衛門の許を立って...
中里介山 「大菩薩峠」
...上酒折(さかをり)の宮、山梨の岡、塩山(ゑんざん)、裂石(さけいし)、さし手(で)の名も都人(ここびと)の耳に聞きなれぬは、小仏(こぼとけ)ささ子(ご)の難処(なんじよ)を越して猿橋(さるはし)のながれに眩(めくる)めき、鶴瀬(つるせ)、駒飼(こまかひ)見るほどの里もなきに、勝沼(かつぬま)の町とても東京(ここ)にての場末ぞかし、甲府はさすがに大厦(たいか)高楼、躑躅(つつじ)が崎(さき)の城跡など見る処(ところ)のありとは言へど、汽車の便りよき頃にならば知らず、こと更の馬車腕車(くるま)に一昼夜をゆられて、いざ恵林寺(ゑりんじ)の桜見にといふ人はあるまじ、故郷(ふるさと)なればこそ年々(としどし)の夏休みにも、人は箱根伊香保(いかほ)ともよふし立つる中を、我れのみ一人あし曳(びき)の山の甲斐(かひ)に峯(みね)のしら雲あとを消すことさりとは是非もなけれど、今歳(ことし)この度みやこを離れて八王子に足をむける事これまでに覚えなき愁(つ)らさなり...
樋口一葉 「ゆく雲」
...上酒折(さかをり)の宮、山梨の岡、鹽山、裂石(さけいし)、さし手の名も都人(こゝびと)の耳に聞きなれぬは、小佛(こぼとけ)さゝ子(ご)の難處を越して猿橋のながれに眩(めくる)めき、鶴瀬(つるせ)、駒飼(こまかひ)見るほどの里もなきに、勝沼の町とても東京(こゝ)にての場末ぞかし、甲府は流石に大厦(たいか)高樓、躑躅(つゝじ)が崎の城跡など見る處のありとは言へど、汽車の便りよき頃にならば知らず、こと更の馬車腕車(くるま)に一晝夜をゆられて、いざ惠林寺(ゑりんじ)の櫻見にといふ人はあるまじ、故郷(ふるさと)なればこそ年々の夏休みにも、人は箱根伊香保ともよふし立つる中を、我れのみ一人あし曳の山の甲斐に峯のしら雲あとを消すこと左りとは是非もなけれど、今歳この度みやこを離れて八王子に足をむける事これまでに覺えなき愁(つ)らさなり...
樋口一葉 「ゆく雲」
...記者曰、一葉女史樋口夏子の君は明治五年をもて東京に生まれ、久しく中島歌子女史を師として今尚歌文を學ばる傍、武藏野、都の花、文學界等の諸雜誌に新作小説多く見えぬ、(上)酒折(さかをり)の宮(みや)、山梨(やまなし)の岡(をか)、鹽山(ゑんざん)、裂石(さけいし)、さし手(で)の名(な)も都人(こゝびと)の耳(みゝ)に聞(き)きなれぬは、小佛(こぼとけ)さゝ子(ご)の難處(なんじよ)を越(こ)して猿橋(さるはし)のながれに眩(めくる)めき、鶴瀬(つるせ)、駒飼(こまかひ)見(み)るほどの里(さと)もなきに、勝沼(かつぬま)の町(まち)とても東京(こゝ)にての塲末(ばすゑ)ぞかし、甲府(かうふ)は流石(さすが)に大厦高樓(たいかかうろう)、躑躅(つつじ)が崎(さき)の城跡(しろあと)など見(み)る處(ところ)のありとは言(い)へど、汽車(きしや)の便(たよ)りよき頃(ころ)にならば知(し)らず、こと更(さら)の馬車腕車(ばしやくるま)に一晝夜(ちうや)をゆられて、いざ惠林寺(ゑりんじ)の櫻見(さくらみ)にといふ人(ひと)はあるまじ、故郷(ふるさと)なればこそ年々(とし/″\)の夏休(なつやす)みにも、人(ひと)は箱根(はこね)伊香保(いかほ)ともよふし立(た)つる中(なか)を、我(わ)れのみ一人(ひとり)あし曳(びき)の山(やま)の甲斐(かひ)に峯(みね)のしら雲(くも)あとを消(け)すこと左(さ)りとは是非(ぜひ)もなけれど、今歳(ことし)この度(たび)みやこを離(はな)れて八王子(わうじ)に足(あし)をむける事(こと)これまでに覺(おぼ)えなき愁(つ)らさなり...
一葉女史 「ゆく雲」
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