...幸子は又、身分とか階級とか云うことは別にしても、板倉と云う人間はどうも私には信用出来ない、それは丁稚(でっち)から写真館の主にまでなったのだから、啓ちゃんのような坊々(ぼんぼん)とは違うだろうけれども、それだけに、そう云っては悪いが、世間擦(ず)れのした狡猾(こうかつ)さを持っているような気がする、頭の程度も、こいさんはそう云うけれども、私達が話して見た工合では、詰まらないことを偉がったり自慢したりする癖があって、非常に単純で、低級のように思われるし、趣味とか教養とか云う方面も、成っていないように感じられる、ああして見ると、あれぐらいな写真の技術は、職業的な才能と器用さがあれば出来ることなのではないか、今のこいさんにはあの男の欠点が眼に付かないのであろうが、ほんとうによく考えて見る必要がありはしないか、私の見るところでは、生活の水準が全然違っている同士結婚して、永続きする訳がない、正直のところ、こいさんのような分別のある人があんな程度の低い人間を、どうして夫に持つ気になったのか、私には不思議で仕様がないが、ああ云う相手では直きに食い足りなくなって後悔することは、分り切っているように思う、私なんぞには、ああ云う騒々しいガラガラした人間は、ちょっとは面白いけれども一二時間も一緒にいたら辛抱がならない、と、そんな風にも云って見たが、妙子に云わせると、少青年時代から奉公に出たり移民になったりして世間を渡り歩いたのだから、多少擦れているような点もあるか知れないが、それは境遇上已(や)むを得ないことである、あれで案外純真な、正直なところもあって、お腹の中はそう猾(こす)っ辛(から)い人間ではない、つまらぬことを自慢する癖があるのは事実で、そのために人に嫌(きら)われることもあるけれども、それも見ようでは、無邪気で子供らしいところのある証拠ではないか、教養が足りないとか、程度が低いとか云うことは、或(あるい)はそうであろうけれども、それは承知の上なのだから構わないで置いて欲しい、うちは高尚な趣味だの理窟(りくつ)だのが分る人でなくてもよいし、ガラガラした粗雑な人間でも差支えない、却(かえ)って自分より低級な相手の方が、扱い易(やす)くて、気を遣わない、と云うのであった...
谷崎潤一郎 「細雪」
...無教育な頭の程度の低い不人情な連中ばかりで...
アントン・チェーホフ Anton Chekhov 神西清訳 「妻」
...もっとも読者の頭の程度が著者の頭の程度の水準線よりはなはだしく低い場合には...
寺田寅彦 「科学と文学」
...その人間の社会的な頭の程度が知れるのである...
戸坂潤 「思想としての文学」
...頭の程度が知れるわね」「それは...
久生十蘭 「あなたも私も」
...いつも司会役の雑誌記者の頭の程度が低くて馬鹿々々しくなる...
古川緑波 「古川ロッパ昭和日記」
...「道徳だの頭の程度の違うものと生活するのはよくない事だ...
宮本百合子 「黒馬車」
...此小天地の中の読者の頭の程度に応じて...
山本宣治 「婦人雑誌と猫」
...めいめい自分の頭の程度に能を解釈して勝手に羽根を伸ばしたい...
夢野久作 「能とは何か」
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