...三予はこう思ったことがある、茶人は愚人だ、其証拠には素人にロクな著述がない、茶人の作った書物に殆ど見るべきものがない、殊に名のある茶人には著書というもの一冊もない、であるから茶人というものは愚人である、茶は面白いが茶人は駄目である、利休や宗旦は別であるが、外の茶人に物の解った人はない様じゃ、こう一筋に考えたものであったが、今思うとそれは予の考違であった、茶の湯は趣味の綜合から成立つ、活た詩的技芸であるから、其人を待って始めて、現わるるもので、記述も議論も出来ないのが当前である、茶の湯に用ゆる建築露路木石器具態度等総てそれ自身の総てが趣味である、配合調和変化等悉く趣味の活動である、趣味というものの解釈説明が出来ない様に茶の湯は決して説明の出来ぬものである、香をたくというても香のかおりが文字の上に顕われない様な訳である、若し記述して面白い様な茶であったら、それはつまらぬこじつけ理窟か、駄洒落に極って居る、天候の変化や朝夕の人の心にふさわしき器物の取なしや配合調和の間に新意をまじえ、古書を賞し古墨跡を味い、主客の対話起座の態度等一に快適を旨とするのである、目に偏せず、口に偏せず、耳に偏せず、濃淡宜しきを計り、集散度に適す、極めて複雑の趣味を綜合して、極めて淡泊な雅会に遊ぶが茶の湯の精神である、茶の湯は人に見せるの人に聴せるのという技芸ではなく、主人それ自身客それ自身が趣味の一部分となるのである、何から何まで悉く趣味の感じで満たされて居るから、塵一つにも眼がとまる、一つ落着が悪くとも気になる、庭の石に土がついたまで捨てて置けないという、心の状態になるのである、趣味を感ずる神経が非常に過敏になる、従て一動一作にも趣味を感じ、庭の掃除は勿論、手鉢の水を汲み替うるにも強烈に清新を感ずるのである、客を迎えては談話の興を思い客去っては幽寂を新にする、秋の夜などになると興味に刺激せられて容易に寐ることが出来ない、故に茶趣味あるものに体屈ということはない、極めて細微の事柄にも趣味の刺激を受くるのであるから、内心当に活動して居る、漫然昼寝するなどということは、茶趣味の人に断じてないのである、茶の湯を単に静閑なる趣味と思うなどは、殆ど茶趣味に盲目なる人のことである、されば茶人には閑という事がなく、理窟を考えたり書物を見たり、空想に耽ったりする様な事は殆どない、それであるから著述などの出来る訳がない、物知りなどには到底なれないのが、茶人の本来である、されば著書などあるものであったらそれは必ず商買茶人俗茶人の素人おどしと見て差支ない、原来趣味多き人には著述などないが当前であるかも知れぬ、芭蕉蕪村などあれだけの人でも殆ど著述がない、書物など書いた人は、如何にも物の解った様に、うまいことをいうて居るが、其実趣味に疎いが常である、学者に物の解った人のないのも同じ訳である、太宰春台などの馬鹿加減は殆どお話にならんでないか...
伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
...今お話した観察に適するやうな...
アンリイ・ファブル Jean-Henri Fabre 大杉栄、伊藤野枝訳 「科学の不思議」
...枕木に適する徑一尺以上の立木のみ撰伐する事も...
岩野泡鳴 「泡鳴五部作」
...「あの岩見澤の陶器に適する土と云ふのは...
岩野泡鳴 「泡鳴五部作」
...禪を修するに適すとて...
大町桂月 「鹿野山」
...別莊地に適する處也...
大町桂月 「白河の七日」
...且つ身体が或る一定の生活法に適する様に専門的に遠く変化すると総べて他の方面には...
丘浅次郎 「人類の将来」
...もってその時代の嗜好に適するように工夫せねばならぬ...
相馬愛蔵 「私の小売商道」
...柱作りに適するローヤル・スカーレットという薔薇がある...
寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
...今は姿を変えて清浄な秘密をかばうに適するようになったものらしかった...
ビクトル・ユーゴー Victor Hugo 豊島与志雄訳 「レ・ミゼラブル」
...余の呼吸に適する一種の瓦斯(ガス)が含まれているような気がし出した...
夏目漱石 「思い出す事など」
...この家はレデー(このレデーという字の下に棒が引いてある)の所有にて室内の装飾の立派なるはもちろん室々はことごとく電気灯を用いよき召使を雇い高尚優雅なる生活に適するように意を用い候...
夏目漱石 「倫敦消息」
...次に作曲に適する歌の長さの問題がある...
信時潔 「歌詞とその曲」
...この教を奉ずる国民の公議輿論に適すべき部分にかぎりて働を呈し...
福沢諭吉 「徳育如何」
...しかし農業に適する土地に住むものも...
トマス・ロバト・マルサス Thomas Robert Malthus 吉田秀夫訳 「人口論」
...国の人口を増加するに適すると思われるあらゆる手段に没頭している...
トマス・ロバト・マルサス Thomas Robert Malthus 吉田秀夫訳 「人口論」
...おそらく象嵌(ぞうがん)の手法が適するであろう...
柳宗悦 「樺細工の道」
...特に屋根に適する性質のものを中から選ぶのはいうまでもない...
柳宗悦 「野州の石屋根」
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