...これも返事がないのだ...
江戸川乱歩 「お勢登場」
...いくら室の戸をノックしても返事がない...
大杉栄 「日本脱出記」
...「今度は医学士の弟の方だが、彼には五歳(いつつ)になる女の子があって、悪漢のお祖父(じい)さんが、非常に可愛がっていたから、それからさきへやったのだ、むせむせする晩春(はるさき)のことだ、その小供が二階の窓の下で遊んでたから、二三本の赤い芥子(けし)の花を見せてやったさ、小供の心はすぐその花へ来た、小供は手を延(の)べて執(と)ろうとしたが執れない、そこで、(春(はる)や、春や)と、小間使(こまづかい)を呼んだが、返事がないので、じれて来て、窓へ掻(か)きあがろうとしたが、あがれない、(春や、春や、春やってば)と、今度は怒って呼んだが、それでも小間使はやって来ない、僕はその花を小供の眼から離さないように努力していたものさ、そこで、小供は小さな頭をひねって、その花を執(と)る法を考えたが、やっと椅子(いす)のことを思いだして、室(へや)の中から、よっちょらよっちょらと引張って来て、窓際(まどぎわ)へ据(す)え、その上にあがって執ろうとしたが、花が掴(つか)めないので、窓の敷居の上へ這(は)いあがって、手を一ぱいに延べたので、そのまま下へ落ちてしまったさ、小供には気の毒だが、悪漢の悲しんでいた容(さま)が痛快だったね、医師はその比(ころ)から神経に故障が出来たのだ、ある夜(よ)、眼を覚してみると、並びの寝台に寝ているはずの細君(さいくん)の姿が見えないのだ、細君の行動に疑問を抱くようになっていた奴(やっこ)さんは、そっと室(へや)を出て、廊下を通って父親の居間になっている日本間の方へ往くと、廊下のとっつきの小座敷(こざしき)で人の気配がするのだ、奴さん、そっと障子際(しょうじぎわ)へ寄って耳を立てると、むし笑いに笑う女の声がするが、それがどうしても細君だ、奴さん頭がかっとなるとともに、体が顫(ふる)ひだしたがすぐ奴さんに自制力が出来た、(ただ亢奮(こうふん)する時でないぞ)と、奴さんは歯をくいしばったのだ、そして、耳を澄まして見ると、女の声は無くなって、父親が何か小さい声で話している声が聞える、(しかし、あの笑い声は、たしかに彼だ)奴さんは近比(ちかごろ)細君の行動の怪しいことから、傍の寝台にいなかったこと、むし笑いに笑った女の声が、たしかに細君の声であったことを思いだして、世界が暗くなったのだ、しかし、(待てよ、このことは、己(じぶん)の身にとって、青木一家にとって、極めて重大な事件だ、これは、好く前後を考えたうえの所置にしなければならん)と、奴さん稍(やや)精神がはっきりしたので、己の寝室へ帰って往ったのだ、そして、室の中へはいってみると、細君は己の寝台の上ですやすや睡(ねむ)っているのだ、奴さんは己の神経の狂(くるい)で奇怪な幻を画(えが)いたことに気が注(つ)かないから、びっくりして眼を(みは)ったのだ、そこで奴さんは、その晩のことは己の邪推であったと思うようになったが、それでも細君に対する疑惑は薄らがなかったさ、それから五六日して、夕方芝口(しばぐち)を散歩していると、背後(うしろ)から一台の自動車が来たが、ふと見ると、それには深ぶかと青い窓掛(まどかけ)を垂れてあった、それが奴(やっこ)さんを追越そうとしたところで、中からちょっと窓掛を捲(ま)いて、白い顔を出した女があった、それが細君(さいくん)さ、細君はその日三時から本郷(ほんごう)の公爵家で催す音楽会へ往っている筈(はず)である、おかしいぞと思って、内を透(す)かすと、男の隻頬(かたほお)が見えた、それは父親の顔であった、奴さんの眼前(めさき)はまた暗んだのさ、(怪(け)しからん、怪しからん)奴さん自暴自棄(やけくそ)になって、もと往ったことのある烏森(からすもり)の待合(まちあい)へ往って、女を対手(あいて)にして酒を飲んでいたが、それも面白くないので、十二時比(ころ)になって自宅(うち)へ帰ったさ、(今日は大変面白うございましたよ)と、奴さんを待っていた細君が悦(うれ)しそうな顔をして云うのを、何も云わずに睨(にら)みつけたさ、細君はその凄(すご)い眼の光を見て、どうしたことが出来たのかと思って、口をつぐんではらはらとして立ったのだ、僕はその時、細君の横手になった大きな姿見(すがたみ)の中へ顔を出していたが、二人とも見なかったのだ、それから五六日経(た)った、奴さんとろとろ睡(ねむ)っていて、眼を開けてみると、また細君がいない、しかし何時(いつ)かの夜のことがあっているので、好く眼を据(す)えて見定めてみたが、たしかにいないと云うことが判った、が、また便所へ往っていないとも限らないと思って、十分ばかり起きあがらずに待っていたが、細君は入って来ない、そこでまた廊下へ出て、廊下を日本間の方へ往ったのだ、往ってみると、怪しい囁(ささやき)のしていた室(へや)の前の雨戸が五六寸開(あ)いているから、それを見ると、その開口(あきぐち)を広くして裸足(はだし)で庭へおりたさ、遅い月が出て、庭は明るかった、池の傍を廻って、新緑の匂(におい)のぷんぷんする植込みの下の暗い処を歩いて、仮山(つきやま)の背後(うしろ)になった四阿屋(あずまや)の方へ往ったのだ、四阿屋の中には、人のひそひそと話す声がしていた、枝葉の間からそっと覗(のぞ)くと、月の陰になって中にいる人は見えないが、あまえるような女の声はたしかに細君(さいくん)で、他の声はがすがすする父親の声なのだ、(なんと云う醜体だ)と、奴(やっこ)さんは顫(ふる)ひだしたが、忽(たちま)ち引返して己(じぶん)の寝室へ入り、机の抽斗(ひきだし)にしまってあった短銃(ぴすとる)を持って、はじめの処へ往き、また、枝葉の間から眼を出して、四阿屋のなかを透(す)かして見た、四阿屋の中では話声はしなかったが、もそりもそりと物の気配がしていた、(畜生(ちくしょう)どもたしかにいるぞ)と、奴さんは眼を(みは)ったさ、白い手や白い顔がはっきりと暗い中に見えた、奴さんの右の手の短銃(ぴすとる)の音が大きな音を立てたのだ、(貴方(あなた)は何をなさるのです)奴さんが短銃(ぴすとる)を持ち出して往く姿をちらと見て、後(あと)をつけて来た細君が抱きついたのだ、四阿屋の中には僕の影がおったさ、そこへ悪漢の青木が来る、書生が来るして、発狂してしまった奴さんを執(と)り押えたのだ、その奴さんは、今至誠病院の一室(しつ)で狂い廻って、悪漢の心をさんざんに掻(か)き乱しているが、もう長いことはないし、悪漢の寿命も今明年(こんみょうねん)のものさ、僕は思いどおりに復讐することができたが、こうなってみると仇(かたき)ながらも可哀そうだ」私にこの話を聞かしてくれた仮名(かりな)の山田三造君は、最後にこんなことを云った...
田中貢太郎 「雨夜草紙」
...何べんも呼んでみるが返事がない...
永井隆 「長崎の鐘」
...伯母さん」さっぱり返事がない...
中里介山 「大菩薩峠」
...ところが一方、斎藤をここへ置き放して、一歩先に進んだ伊東甲子太郎は、これはまた斎藤よりも一層いい心持で、ぶらりぶらりと橋の袂(たもと)まで来ると、そこに一人の人間が立っているのを認めて、「おい、誰だ、そこにいるのは」酔眼をみはって誰何(すいか)したが、返事がない...
中里介山 「大菩薩峠」
...返事がないから、無断でずっと這入(はい)って、床几(しょうぎ)の上へ腰を卸(おろ)した...
夏目漱石 「草枕」
...すんとも返事がない...
夏目漱石 「二百十日」
...デュー夫人はまず四階のメネルー夫妻の室の戸を叩いたが返事がない...
浜尾四郎 「殺人狂の話」
...ええ御返事がないところはひきょうみれん……...
林芙美子 「新版 放浪記」
...返事がないので、もう一度りよが呼ぶと、正面の梯子段の上から、「いらないよツ」とつつけんどんな若い女の声がした...
林芙美子 「下町」
...乳母は、さきほど私を残しておいた場所に戻ってみると、私がいないし、いくら呼んでみても、返事がないので、気狂のようになって探しまわっていたところでした...
ジョナサン・スイフト Jonathan Swift 原民喜訳 「ガリバー旅行記」
...おやすみになっていらっしゃるの」返事がない...
久生十蘭 「肌色の月」
...ない」「返事がないのは...
久生十蘭 「平賀源内捕物帳」
...」返事がない...
牧逸馬 「浴槽の花嫁」
...一向に返事がないので...
牧野信一 「南風譜」
...何度レターを差し上げても御返事がないから...
夢野久作 「東京人の堕落時代」
...そこに居(お)るか?……返事がないぞ……こりゃ大変だ……殺(や)られたかもしれんぞ……オイそこに居るか?……どうしたどうした?……オイ確乎(しっかり)せい……警察からも出かけたぞ……警官も……憲兵も出かけたぞ……』『エイ...
モウリス・ルブラン 新青年編輯局訳 「水晶の栓」
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