...その、山の根を畝(うね)り、岩に躍り、渚(なぎさ)に飜(かえ)って、沖を高く中空に動けるは、我ここに天地の間に充満(みちみち)たり、何物の怪しき影ぞ、円(まどか)なる太陽(ひ)の光を蔽(おお)うやとて、大紅玉の悩める面(おもて)を、拭(ぬぐ)い洗わんと、苛立ち、悶(もだ)え、憤れる状(さま)があったが、日の午に近き頃(ころおい)には、まさにその力尽き、骨萎(な)えて、また如何(いかん)ともするあたわざる風情して、この流動せる大偉人は、波を伏せ※(しぶ)きを収めて、なよなよと拡げた蒼き綿のようになって、興津、江尻、清水をかけて、三保の岬、田子の浦、久能の浜に、音をも立てず倒れたのである...
泉鏡花 「婦系図」
...振り向きもせずに苛立ち切った調子で癇声を張り上げた...
橘外男 「陰獣トリステサ」
...別所は妙に苛立ち...
豊島与志雄 「浅間噴火口」
...訳の分らない憤りと苛立ちとを覚えてきた...
豊島与志雄 「或る男の手記」
...焦躁不安の余りの意欲の痲痺と神経の苛立ちからである...
豊島与志雄 「意欲の窒息」
...中にはいって行くことの出来ない自分自身を苛立ちました...
豊島与志雄 「化生のもの」
...かすかな苛立ちがあった...
豊島与志雄 「潮風」
...彼の苛立ちはさらに激しくなった...
ロマン・ローラン Romain Rolland 豊島与志雄訳 「ジャン・クリストフ」
...周平は軽い苛立ちを覚えた...
豊島与志雄 「反抗」
...その苛立ちの念から...
豊島与志雄 「反抗」
...この家の細君はいつも何か烈しい苛立ちを身うちに潜めてゐた...
原民喜 「火の子供」
...ウージェーヌは激しい苛立ちの中にいたので...
バルザック Honore de Balzac 中島英之訳 「ゴリオ爺さん」
...どうしたらよかろうという苛立ちと当惑の色がたがいの眼差のなかにあった...
久生十蘭 「無月物語」
...私の神経は永遠に湧き上がる不快感と苛立ちの源だ...
A. ブラックウッド A. Blackwood The Creative CAT 訳 「盗聴者」
...そのために苛立ち焦燥し...
北條民雄 「柊の垣のうちから」
...わけもない亢奮に腕が震えて不思議な苛立ちに駆られるのであった...
牧野信一 「ゼーロン」
...兎も角夏以来のあれの苛立ちは酷かつたよ...
牧野信一 「鶴がゐた家」
...発砲係りのことを考へると滝はもう凝つとして居られない位ゐな苛立ちを覚えました...
牧野信一 「舞踏会余話」
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