...酒は天の美禄(びろく)だと云うじゃねえか」と云うようなことを云って笑う者もあった...
田中貢太郎 「火傷した神様」
...うれしい酒をのむがよい、酒は涙でもなければ溜息でもない、天の美禄だ、おいしい酒をおいしく飲まなければ嘘だ...
種田山頭火 「其中日記」
...そこに酌(く)みかわされる美禄(びろく)に酔うのである...
寺田寅彦 「映画時代」
...本当にこれこそ天の美禄というものだろう...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...斯((か))くて半年を経たりし後は、父もむかしの父に非ずなりぬ、見かぎりて出((いで))にし妻を、あはれ賢こしと世の人ほめものにして、打((うち))すてられし親子の身に哀れをかくる人は少なかりき、夫((そ))れも道理、胸にたゝまるもや/\の雲の、しばし晴るゝはこれぞとばかり、飲むほどに酔ふほどに、人の本性はいよいよ暗くなりて、つのりゆく我意((がい))の何処((いづこ))にか容((い))れらるべき、其年((そのとし))の師走には親子が身二つを包むものも無く、ましてや雨露をしのがん軒もなく成りぬ、されども父の有けるほどは、頼む大樹のかげと仰ぎて、よしや木ちんの宿に蒲団はうすくとも、温かき情の身にしみし事もありしを、夫((それ))すら十歳と指をるほどもなく、一とせ何やらの祝ひに或る富豪(ものもち)の、かゞみを抜いていざと並べし振舞((ふるまひ))の酒を、うまし天の美禄、これを栞((しを))りに我れも極楽へと心にや定めけん、飢へたる腹にしたゝかものして、帰るや御濠の松の下かげ、世にあさましき終りを為しける後は、来よかし此処へ、我れ拾ひあげて人にせんと招くもなければ、我れから願ひて人に成らん望みもなく、はじめは浮世に父母ある人うらやましく、我れも一人は母ありけり、今は何処((いづこ))に如何なることをしてと、そゞろに恋しきこともありしが、父が終りの悲しきを見るにも、我が渡辺の家の末をおもふにも、母が処業(しわざ)は悪魔に似たりとさへ恨まれける...
樋口一葉 「琴の音」
...美禄(びろく)に美人に美肴(びこう)と...
久生十蘭 「顎十郎捕物帳」
...天の美禄とは思えなかったが...
正岡容 「寄席」
...盍(なん)ぞ美禄を得て天年を終らざる...
山本周五郎 「新潮記」
...一点ぽとりと滴り落ちて来た天の美禄を承けた気持ちで...
横光利一 「夜の靴」
...美禄(びろく)を獲(え)てのめのめと自己のみ半生の栄耀(えいよう)を偸(ぬす)むような鹿之介幸盛であろうはずはない...
吉川英治 「黒田如水」
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