...紫摩金(しまごん)の栄(はえ)を尽して...
上田敏 上田敏訳 「海潮音」
...紫の袋にはいった君の軍刀を僕にあずけて...
太宰治 「未帰還の友に」
...紫蘇の穂を採る、すこしおくれたが、香気あたりにたゞよふ...
種田山頭火 「其中日記」
...ここなる二ひらの帆立貝(ほたてがい)のひとつは藤紫(ふじむらさき)に白をぼかし...
中勘助 「小品四つ」
...幾度も幾度も小紫人形の前に立たなければ承知しないという執心です...
野村胡堂 「新奇談クラブ」
...可愛や雪はづかしき膚(はだ)に紫の生々しくなりぬ...
樋口一葉 「大つごもり」
...太陽光線の紫外線に強い電流を通じると...
平田晋策 「昭和遊撃隊」
...その紫葩(はな)を飜えす花時にはすこぶる風流な光景を見せている...
牧野富太郎 「植物一日一題」
...今日では美麗な新染料に圧倒せられてこのユカリの色の紫を紫根で染める事は実に稀れになってしまった...
牧野富太郎 「植物記」
...且つ日光浴も紫外線にあたる事も不充分ゆえ...
牧野富太郎 「牧野富太郎自叙伝」
...紫の羽織を着てゐた頃の綾さんの姿を思浮べると...
三島霜川 「昔の女」
...お城にはすばらしく大きな二つの石の塔が一方の端と、も一方の端とに、一つづゝ立つてゐて、その高い煙突からは、毒々しい、みどりやら、紫やら、黒やらの煙がもく/\とあがつてゐました...
宮原晃一郎 「虹猫の大女退治」
...紫夫人はその賀宴をしたいと思って仕度(したく)をしているのを見て...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...「あさみどりわか葉の菊をつゆにても濃き紫の色とかけきやみじめな立場にいて聞いたあなたの言葉は忘れないよ」と朗らかに微笑して言った...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...紫の女王を二条の院へお迎えになった時と院は思い比べて御覧になっても...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...紫川(むらさきがわ)の左岸(さがん)の狭い道を常磐橋(ときわばし)の方へ歩いていると...
森鴎外 「鶏」
...辱知 江東生夕の光堤にもえし陽炎(かげろふ)は草の奈邊(いづこ)に匿(かく)れけむ緑は空の名と爲りて雲こそ西に日を藏(つゝ)めさゝべり淡き富士が根は百里(ひやくり)の風に隔てられ麓に靡く秋篠の中に暮れ行く葦穗山雨雲覆ふ塔(あらゝぎ)に懸れる虹の橋ならで七篠(なゝすぢ)の光、筑波根の上を環(めぐ)れる夕暮や雪と輝く薄衣(うすぎぬ)に痛める胸はおほひしか朧氣(おぼろげ)ならぬわが墓の影こそ見たれ野べにして雲捲上(まきあぐ)る白龍(はくりう)の角も割くべき太刀佩きて鹿鳴(かな)く山べに駒を馳せ征矢鳴らしゝは夢なるかわれかの際(きは)に辛うじて魂、骸を離るまで寂しきものを尾上には夜は猿(ましら)の騷がしく水に映らふ月の影鏡にひらく花の象(かたち)あこがれてのみ幻の中に老いたるわが身なり月無き宵を鴨頭草(つきくさ)の花の上をも仄(ほの)めかし秀峰(ほつみね)光(て)らす紅の光の末の白きかな縋(すが)りて泣かん妹の萎(しを)れし花環(はなわ)投げずとも玉の冠か金光(きんくわう)のせめては墓に輝かば殯宮(本尾秋遊の死を悼む)東の海に出づる日は西なる山に沒(かく)るれど沒(かく)れぬ光(かげ)は天雲(あまぐも)の五百重(いほへ)の遠(をち)に射渡るを虚(むな)しき空に紅の霞流るゝ沙(すな)の上丘の高きに石を敷いて築きし墓は荒れにたれ獵矢(さつや)手挾み鹿(かこ)追ふと森に落(おと)しけむ久米(くめ)の子が耳朶(ほたれ)に懸けし金(こがね)の鐶(たまき)は雨に腐(くた)されて丹(に)を頬(ほ)に粉(ぬ)りし未通女子(をとめご)の文(あや)ある袖も黒髮と殯(あらき)の宮に歛(をさ)めしより千年(ちとせ)の土となりにけり櫻が下の曙に春の旅こそ終りけめ秋は如何なる風吹きて露より霜と結ぶらむ行けども行けども歸らざる人を送りて野は青く野は青くして亂れ飛ぶ花の行方は幻の〜〜〜〜〜〜〜森の家なる(姉の行きたるは十五歳の春なりき)母が乳房の珠ならで許されざりし唇は巖が根纏ふ山百合の皎(しろ)き花にも觸れずして二歳(ふたつ)まさりの姉君は月圓(まとか)なる春の夜を栗毛の駒に鞍おきて森の館(やかた)に嫁ぎけり鶉(うづら)隱れし叢(くさむら)に卵探すと掌(たなそこ)を茨(ばら)にひきさく野人(のゝひと)のわれは雄々しき兒なりしか寂(さび)しさ知りて麥笛を霞の丘に鳴らせども美し人は青麥の青きを分けてあらはれず水涸々(かれ/″\)の石川に秋は肥たる鮠(はえ)の子を小笹に貫(ぬ)きてさげかへるも匂へる眉は戸に見えで沼にて蓮の浮葉かきわけて棹さしめぐる湖や落る日天の雲染めて夕の浪は靜なり筑波も暮れぬ野も暮れぬ唄も暮れぬる藻刈船しなへる棹を操りて行くべき方も暮れにけり柳垂れたる江のほとり橋かけ通る裸馬うち放(はな)らかす鬣の黒きも水に洗はれて手綱控ふる若者の鉢卷白し秋の風橋と舟との上にして戀もあれかし耻かしの〜〜〜〜〜〜〜落し水(山内冬彦をいたむ)夏野の露の朝ぼらけ靈夢(くしぶるゆめ)はさめにけり喚(よ)べどかへらぬ隼の深山の雲に鳴くと見て宵の燎火(かゞりび)白々と土橋の爪に消えのこり蜘手に開く小田の路野は露ならぬ草も無し堰に落ち込む落(おと)し水秋は小川に迫り來て黒髮(くろかみ)山は朝曇曇りて北に見ゆれども花は子(み)となるうす櫻彌生(やよひ)をかけて夏草の霧の深きを踏む程(まで)の命は神のゆるしけむに何しに人の今日死して雲の薄きに泣かすらむわれは常陸の野(やら)にして風に吹かるゝ身なるもの白日(まひる)の光かくれたる石の柩の底深う夕の影に伴ひて人はくらきにかくれけり獨木舟雲ならでかよふものなき石狩のみ岳の奧に錦なすかつら閉して谷々は紅葉しにけり霧の海に森の島浮き島の森を霧またこめて大瀧や雨龍(うりう)に落つる石多き川の面白し洞(ほら)の上に霜はおけども野に迷ふ熊はかへらず白柳(どろやなぎ)の枝を綰(わが)ねて弓弦(ゆづる)ならす愛奴(あいぬ)も見ぬに金風(あきかぜ)の渡らふ川に空高みひとりし立てば枯芦(かれあし)の鳴るは汀か霧晴れて船の跡なき夜の水に瞳輝く川獺の猛きはすめど斷崖(きりきし)の迫れるふちに妹がかざす珠も沈きて雨に曝(さ)れて白(しら)める岩の岩蔭に『火(ひ)の珠(たま)』さきぬ俤は浪にくづれつ花片は霜にいためり太古(いにしへ)より煙のぼらね此山の良木(よきき)ゑらびて妻籠(つまごめ)に臺(うてな)建(た)てんか八重垣の森に聳ゆる落葉たく萱屋が軒に新妻のはしきは籠めじ思ひ出の花無き里は紅の袂ぬれなん月朧(つきおぼろ)擧羽(あげは)の海(うみ)の陽炎(かげろふ)は夢ときえしを閨の戸に櫻ゑがいて山翠(やませみ)は籠にかふべく裡(うち)にしてさゝやき交す窓懸の絹の薄きに朝朗明(あさぼらけ)流るゝ星の碧(あを)きをか寫し留めむ棹(さを)さし上る獨木船(まるきぶね)路は遠し百七十里歸らぬ水に枕重ねて秋となりぬる旅路哉石狩岳の麓より流れて落る大川の下つ瀬遙かにたなびく雲は明くればみ岳の腰をめぐりて浪際(はてし)無き津輕灘海門(うみのと)近く櫂(かい)行(や)るも炎ひらめく宇曾利山(うそりやま)見ゆるは奧(おく)の煙のみ光さやけき黄金(わうごん)の月を浮ぶる那智(なち)の海北の島根に遠(さ)かり來て迷ふと憂しやたゞ一人我に梓(あづさ)の弓あらば白羽の征矢(そや)を手挾みて殘んの星の影白む岩見の澤に鳥狩(とがり)せむ雨はね反(かへ)す冬(ふき)の葉を※(かひろ)ぐ船におほひては手捕(てどり)にすべき鱒の子の淺瀬の水にをどれども潛龍沙魚(てふざめ)追うて遡れば川狹うして楡(にれ)の木を驚き立つか嘴長く羽翠なる水鳥の浪湧き囘る瀧壺に夕ばえさして虹立てば瀧の面(おもて)にわが影の紫金(しこん)の色と映るなり紫菫匂ふ野の胡蝶は花に醉ひしのみ紀路(きぢ)に遍(あまね)き金風(あきかぜ)に破(や)れし翼をかへさねど醉へば手馴し横笛を空知の月にしらべつゝさめては暗き夕張の猿飛ぶ岳に咽ぶか宗谷(きた)の岬に浪立てば天鹽の雲も凍るらむ五つの指の龜(かぢ)けては棹執るにすら力無き猿間(さるま)の海の水に鳴く雎鳩の聲は聞かねども小衾冴ゆる曉を今は昔の夢戀し歸らんか南海(ふるさと)に歸れば峰に雪は無く歸れば川に花流る歸らんか紀(き)の海に黒き狐の裘(かはごろも)肩の紕(まよひ)は任他(さもあらばあれ)下には離(か)れし憂人(うきひと)の縫ひける衣(きぬ)を纏(まと)ひたり雪まだ降らぬ石狩の山にも野にも風吹きて地(つち)に動くは雲の影天(あめ)に映るは草の色〜〜〜〜〜〜〜天なる光光は沖にあらはれて闇は海より退(しぞ)きけり星まだ殘る北の海の浪は碧(みどり)に騷ぐらむ南の丘に蝶飛んで薔薇の花の匂ふ時湧きもめぐらふ新潮に島は輝き見ゆるかな尾上の櫻野の霞花の帷(とばり)の中絶えて火の環(わ)かざれる秀(ほ)つ峰の朝の空に立つ見れば靈嶽(くしぶるたけ)の頂に虹の七重は踏まねども仰げば額(ぬか)に天(あめ)なる光の添はる心地して人故妻を逐はれて水の上飛ぶかげろふの羽を(やまめ)の透かし視て尾上の花や散りくるとひれ振り尾振り跳るらむ雲のはたてに月沒(い)りて沼に光の消えにけり濕れる棹を手にすれどさすは無き藻苅舟月波に燃ゆる紅の八雲は山の陰毎に殘れる夜の雲染めて二つの峰は清らなり堤は低し木は荒し西北(いぬい)に亘る山浪の黒髮山に誰妻のうす絹被(かづ)く眉にせむ朝(あした)たなびく夏霞不二は夏より見ゆるてふ沼の半に漂ひて霞にきらふ船路かな菱の實落つる沼なれば白羽の鳥も翔るなり羨ましきは羽すりて雌雄共に棲む白鳥よ船の動くにつと迯げて葦間の杙に鳴き交す鳥には輕き羽あればさしまねけども寄らずして憎しとも思ふ浪の上の鳥の如くにいたはりし人はわが家を去りて後寂しき秋となりにけり朝髮梳る床の上眉根粧(つくら)ふ閨の裡袂にくゝる八房の若紫の色も濃く雨降る夕、わが前に裁縫(はぬい)をすとていねむりて廣くとりたる前髮を机にあてゝ壞せしも頬に突くかゞち、知らぬ間に鳴らさむとして覺られて笹紅匂ふ唇にふたゝび珠を返せしも人故妻を逐はれて知るは二人の涙のみ(羨ましきは羽すりて雌雄共に棲む白鳥よ)美しき物、はなたじと握りし鳥は奪はれぬ人故妻を逐はれてさめぬ白日(まひる)の夢に耄(ほ)れ雲流れ行く東路に何しに來ぬる我ならむ松稀にして榛多き常陸は山も高からず(菱の實(み)おつる沼なれば白羽の鳥も翔るなり)ぬなはの若芽掻きよせて摘めども船の慰まで思へば鳥の逐はるゝも逐はれて草に隱るゝも大路を過ぐる花車少女は花の小車かさす手にひらく春の花ひく手に飜(かへ)る秋の波灯影ゆらめく細殿に扇(あふぎ)飜(かへせ)し舞姫と――伊賀より落つる木津川の石皆圓き川の上雪と漲る浪の戸に赤裳かゝげて立ちたると――西京(みやこ)に近き荒寺の崩(やれ)し築土(ついぢ)に身を寄せて森の公孫樹(いてふ)に落る日の光に泣きし尼君も――燈籠舊りし石階(きざはし)を鹿に恐れて驅け上り紅潮しゝ頬の色の花の如くに光(て)りたると――人は往けり還りけりとゞろと渡る花車蜘手の道の遠くしてのこるは暗き花の影野守の鏡面銹びて形象(かたち)を落す雲も無し還らぬ人の一人にのみ神は戀ふるを許せども葭原雀鬼怒川に近き小村に、母のゆかりを尋ねて、さすらひ來しポルチカル人の孤兒あり、夕ぐれ其門を過りて夕靜けき菅生野(すがふの)をたなびきかくす旗雲の紅きを見てはしかすがにもろき涙も落しけむ千重敷(ちへしく)浪(なみ)に漂ひて眞舵(まかぢ)しゞぬき漕がんともテグスの川に入らんには餘りに遠き旅なれば有明の月の消えかゝる鬼奴(きぬ)の河原にさまよひてかぎろひ燃ゆる紫尾(しを)が嶺(ね)の峰照る星を仰ぎ見ば空より來にし天使(みつかひ)の翼に乘りて天國(あまぐに)に歸りし母の俤は花環の中にあらはれむ腰に三重卷く綾織の帶は結ぶに輕くとも繪にのみ見てし矢がすりの振の袂は馴れたりや(かはらよもぎ)を摘まんとて籠を片手に獨木橋(まろきばし)眞青(さを)なる水に陷らば浪にや袖のなづさはむかざすに馴れし白ばらはさてもあらんを花の君肩に渦(うづま)くかち色の髮誰がために梳る(月さす閨に丸寢してわが見し夢は花なりき仄(ほのか)に宿る電の露の命となりぬれば心痛むる秋風にたゞ戀しきは母なるを都の雲を西に見て川を常陸に越す舟のおぼつか無しや夕闇に棹かすむるは葭剖(よしきり)か)〜〜〜〜〜〜〜石廊崎に立ちて(月島丸をおもふ)八重立つ雲の流れては紅匂ふ曉(あけ)の空夜すがら海に輝きし鹹(しほ)の光も薄れけり南に渡る鴻(おほかり)の聲は岬に落つれども島根ゆるがす朝潮の瀬に飜る秋の海牡蠣殼曝れし荒磯の巖の高きに佇みて沖に沈みし溺れ船悲しきあとを眺むれば七十五里の灘(なだ)の上浪は白く騷げども玉藻の下(した)に埋れし船は浮ばずなりぬかな戰鬪(たゝかひ)は終りたり檣(ますと)も今は倒れたり奔るははやき雲の影響くは大海(あら)の浪の音かくれし岩に乘り上げて裂けし龍骨(きーる)のあらはなる戰鬪(たゝかひ)は終りけり嵐の聲を名殘にて霧のまがひにひらめきし白帆も旗もやぶれては夕やみ迫る海の上に『のろし』の色の力(ちから)なき見よ空を蹴(け)る荒浪に船は覆(かへ)りて渦(うづ)ぞ卷く渦卷く中に漂ふは最後(をはり)の影か泡沫(うたかた)か朝(あした)巖手(いはて)の山の上に蕪菁(かぶ)虹(にじ)立つを夢にして夕(ゆうべ)、鹿島(かしま)の沖合に根浪(ねなみ)の湧くを見つらんに花もて飾る墳墓(おくつき)の小(ち)さきを野べに遺(のこ)さずして水づく屍は紅の珊瑚(さんご)の礁(いは)に沈みたり八洲(やしま)を環(めぐ)る大瀛(おほわだ)の浪に生れし男(を)の子とて秋風渡る伊豆の海にはしき骸をさらしたりけむ彌生子に(醉茗がいとし兒に)煙に似たる花咲いて土橋(どばし)に白き烏瓜(からすうり)匂へる花を彌生子(やよひこ)の産毛(うぶけ)の髮にかざゝまし山の西よりおく霜にやがては瓜の染まる時紅きを割りて彌生子の櫻色なる頬(ほ)にぬらむ種子(たね)を常陸の野にとりて都に移(うつ)せ烏瓜春に生れし彌生子の花なる袖に纏(まと)ふべく〜〜〜〜〜〜〜沈める星(子を失ひし人に)花は根になる春の暮かへらぬ吾子(あこ)の魂(たましひ)を櫻が下の墓(おくつき)に呼びし涙は乾かじな朝明(あさけ)の名殘みだれたるちぬの浦曲の虚舟(おぼろぶね)沈める星の光(かげ)見れば思ひよ空にさわぐらむ靜かにそゝぐ水にすら地(つち)ぬらさじと心して葬りにけむ春くれて山時鳥鳴かんとす白露しげき秋の夜は軒(のき)の褄(つま)なる燈籠の淡(あは)き光に誘はれておもかげにして歸らんになれし添寢の手枕に生(い)けりと見しは夢にして柔肌(やははだ)凍(こほ)る地の下の暗きに吾子はかくれたり〜〜〜〜〜〜〜やまめとり(女)曉の夢を落(おと)して白雲の衾被(かづ)きて一夜さは關路に睡れ旅ながら君も少女の玉匣箱根の谷に(やまめ)捕るわれは賤の子早川の水上遠く木賀にこそ秋はたけたれ白玉の沈(しづ)く淺瀬にかゝぐれど褄はぬれつゝ春風に散るや前髮わきばさむ畚(ふご)の重きに相摸の海月は通ふも高殿に琴なしらべそ夢にして偸(ぬす)みも聽かば君により睫(まつげ)しめらむ水色の袖の長きを飜(か)へす手に指輪きらめき胸高に帶を結べば歩むにも花のこぼれむ行く水に散浮く花の悲きは花の行方かそよわれと都大路に銀の鞭も振りしを行く水に散浮花のいつまでか面(おもわ)輝くうすものに伽羅をきしめ唇に紅はさせども行く水に散浮花の花なれや匂むなしき溺れんか淵に水あり碎けんか河原の石に辛かりし夢よりさめて幻の雲にかくれん葦の海に影さす月も秋よりや光澄むらむ春日野の白き葉はさながらに君の色なれ湖の小舟棹さし曉を星に泣くとも山桃の花咲く頃は新月の眉を剃るらむ足柄の山をめぐりて行く水にわれは散る花行く水にわれは花とぞ散りぬべき足柄山の春の夕ぐれ星のまびき(辱められし少女あり)矢獨蜜(しどみ)の花の緋に咲きて鐘樓(しゆろう)朽ちたる山寺に肩に亂れし髮剃りて耻(やさ)しや尼となりにけり鏡の下の刷毛(はけ)をとり今はた色は粧(つく)らねど枕に殘る曉の雲の俤寒きかな春雨纖(ほそ)き廊(わたどの)に檜扇あげてさしまねき散りかふ花にまがひたる胡蝶の魂をかへすとも額にかゝる前髮の丸(まろ)がれたるもかゝげねば秋の風吹く中空に迷へる夢はかへらじ星の凶光(まびき)のあらはれて根浪轟く淡路島舟(うきはし)通ふ由良の戸の跡無き浪も追はなくに洲本(すもと)松原(まつばら)中絶えて虹(をふさ)かゝれる白濱の滿潮(やえ)に溺れて蘇へりわれから爲りし新尼(にひあま)の白雪降れる宮中(みやぬち)に簾(をす)を掲げし女嬬(はなづま)は南の海に沈み入りて憂き名を磯に流したり月の入方(いるさ)に漂ひて潮と落ちし竺志舟面影光(て)りし姫君の形見も浪も葬りて思へばわれは璞(あらたま)の石に碎けし片(かけら)なり涙を花の振袖に藏(つゝ)みて遠く嫁ぐとも杯(さかづき)含(ふく)む唇(くちびる)の褪(あ)せなん程(ほど)の紅(べに)は不知(いさ)胸にうつらふ幻をいかなる色につくろはむ鴛鴦(をしどり)縫(ぬ)ひし蒸衾(むしぶすま)なごやが下に帶(おび)解(と)くと戰(をのゝ)く指を握(と)られなば夢にや死なんうつゝなの伽羅(きやら)立ち馨る閨の戸に背向(そがひ)に臥して懶(しどけな)く亂るゝ衣(きぬ)をおさへつゝ泣くとも知らん涙かは霞に迷ふ雁が音の鳴門の迫門(せと)に聞ゆるは藻汐の煙なつかしき撫養(むや)の浦曲に渡るらん内海(うちうみ)照らす月代(つきしろ)の光めぐれる島なれば巖が根まどふ浪の音は島の奧にも聞えつゝ樒の露にしほたれて影衰へし新尼(にひあま)を野守の鏡いくそたび淺き山べに泣かすとか紅もるゝうすぎぬにおほひし乳も傷つきぬ忘れがたきも忘れては涙のなかに死にもせで破れし築地蕾ふくるゝ曉は玉なす露の色添へば花を踏みゆくよきひとの長き裳裾もみだれけり嫩草(わかくさ)青き「こりんず」の野に入相の露罩めてはつかに暮れし花の上に月の光のほのめけど刺(はり)は花より刺多き北咲きめぐる高殿の窓もうばらに閉されて野はたゞ花となりぬかな破(や)れし築地(ついぢ)にみだれたるくれなゐの下は栗鼠(りす)啼きて白日(まひる)の花に飛びまどふ胡蝶の羽の懈(たゆ)げなる大理石(いし)の扉も埋れては花の扉となりぬれば迷ひの宮か花の扉(と)を入りて歸りし人ぞ無き栗毛の駒を乘りすてゝ門をくゞりし武士もかへらずなりて銀の鞭は野末に錆びたりき五月雨髮(さみだれがみ)をときいろのりぼんにとめし未通女子(をとめご)の籃を腕(て)にして垣の中に入りにし跡は花に問へ花のやかたと名に立ちて匂へるばらのおのづから裡(うち)にいませる姫君のまもりと築(つ)きし城なれば瑤(たま)の臺(うてな)に咲き纏ふ花や栞(しをり)をおほふらん池の八つ橋渡り來る人をも薔薇の埋みつゝ裁(た)たまくをしき唐綾(からあや)のふすま襲(かさ)ぬる姫君の夢驚かす風の音は閨のほとりに騷がねば紅匂ふ唇にやさしき息のかよへりや花ぐしおちしまへ髮に光を投げん灯(ひ)は消えぬ錦の帳(とばり)奧ふかくまろねの袖をかたしきて月はさせども身じろがず花は散れどもさめずして若紫(わかむらさき)の房(ふさ)ながき籠の鸚鵡も餌(え)を呼ばで苑に對(むか)へる渡殿(わたどの)の褄(つま)はうばらにおほはれぬ湯殿に懸けし姿見の鏡に花の這(は)ひよるまで荒(あれ)たる館(たち)の花妻の夢よ醉ふらん薔薇の香に南の空に秋立ちて常世の雁はかへれどもまぼろしなれやうたゝねの夢にも魂のかへらざる南の空にあきたちて常世のかりは歸れども〜〜〜〜〜〜〜かたち浮べる雲の一綫(ひとすぢ)は碧きが中にたゆたひて覆輪(さゝべり)着けし銀の天の島とも見ゆるかな潮の底より月出でゝ影、中空に盈ち來れば浪靜かなる大和田の月は舟とも見ゆるかな舟か水門(みなと)の舟ならばせめては長き秋の夜を際(はて)なき水に流されて灼(もゆ)る枕を浸(ひた)さんに毒ある鏃足に受けて野べに嘯(うそぶ)くことをすら停(とゞ)められたる我なれば唯舟こそは戀しけれ負ひたる傷の深ければ物に觸るゝを厭へども寢ぬに綾無(あやな)き幻の花の象(かたち)の眼に見えて緑、紫、紅の花は、電、空の虹環りて、消えて、美しの人の顏さへ浮き來るを千草に渡る金風の露吹きこぼす朝ぼらけ花の苑生(そのふ)を眺むれば長しとも思ふ命かな今日も落ちたる花片のしめれる地(つち)に香を留めて* ** *香取(かとり)の海は川となりて浪逆(なさか)の浪はよも逆らじ行かんか旅に病みぬとも今は悲む夢も無し〜〜〜〜〜〜〜旅にして山秀でたる吾妻路の平野(たひら)の水をあつめ來て南に落つる利根川の浪は寂(しづか)に翻(かへ)るかな行くともわかぬ白雲のかゝりて長き眞砂地や蘆邊に立ちて眺むれば浪逆の浦は雨晴れて日光(ひかり)あまねき湖の上を遙に渡る尾長鳥ま白き翼(はね)は搖(うご)かさで鳴く音は空の秋の風鏡に映(かよ)ふ花ならば異(け)なる影にも慰まむ思へば旅の果にして新たに戀ふる人は無きを蝦捕り舟の漕ぎなづむ八十(やそ)の水門(みなと)はへだつれど霧に浮べる月波根の眉なす根ろは北に在り〜〜〜〜〜〜〜野の花東白(しのゝめ)の野べに生れて朝露を頬の上に置き夕されば地球(つち)の腕に抱かれて眠る野の花唇に誰かふれけむ接吻(きつす)の痕微かにとめて夕榮のうつらふ丘に紅を含みて立てり彷徊(さまよ)ひし羊の群は薄霧の遠(をち)に歸りぬ口笛の鳴りしやいづら花の野はやゝに暮れけり秀峰(ほつみね)めぐる薄雲の靜かに岫(ほら)に歸る見てわれ露原に立ちし時紫尾野(しをの)の秋はつらかりし汀に散らふ浪の花白帆上げたる瀬越(せご)し舟(ぶね)國府津(こふづ)の浦にわが立ちし旅の情を忘れねば星かすかなる中空にあこがれたりしわが魂もやさしき花を地(つち)に見て新たに灑ぐ涙あり北の光の野をかけて輝きかへる雪の上に凍りし花を春解かば痩せたる巖も馨るらん橋(はし)反(そ)らせけむ高樓の甍くづれしバビロンの大城(おほき)の跡に咲き殘る花の色こそさだかならね珊瑚洋の島人も花の環をつくりてはあからさまなる乳のしたに錦の帶をまとひたりビヱンの湖の朝凪に槎(うきゝ)あやつる美人の腕(かひな)に佩べる珠鳴りて匂へる花は胸の上に咲きて散り、散りて咲く野末の花のなつかしく露にぬれたる秋の花を渡殿朽ちし西の壺に人の贈りし春の花を蝦夷菊枯れたる池の畔に褄紅の撫子は露霜(つゆしも)降(お)りてめげたれど名よ脆かりし虞美人草(ひなげし)のやがて媚(いろ)ある花咲かん眉秀でたる妹あらばりぼんに(さ)すを惜まねど紫菫、白薔薇酷(むご)くは摘まじ苑にして新たに歸(とつ)ぐ町(いち)の子の車に花は投ぐるとも小坪(つぼ)に吊(つる)す花籠に切りてさゝんはあたらなり明星が岳に立ち迷ふ雲に思ひの馳する時曉くらく園に降りて幽かに花の香をげば深山の奧にひとりのみ立つに似たる悲みは忘るゝからにわりなくも落る涙のとゞまらで常陸より(人の武藏に居るに)玉藻被(かつ)ぎて美人(たをはめ)の狐と化ける篠原や奈須野の南石裂けて常陸に落つる小貝(こかひ)川物皆沈む誰彼(たそがれ)の霞の底を流れてはほの/″\明くる東雲の柳の蔭に渦きて翠の山を山比女(やまひめ)の帶とれる川なれば葦茅(あしかび)萠えて芹(せり)秀(ほ)きて川にも春の光あれ朽木の洞(うろ)に隱れたる蝴蝶の夢は長うして羽拔けかへし連雀(をながどり)翔るも舞ふも雲の上菜種の花に圍まれて寂(しづ)けき森の北南村と村とは長橋の橋を隔てゝ望めども南の村にわれ生れ北の村より君出でゝ額に垂れし放髮(かぶきり)の髮の端にも觸れずしてわれまだ君の眉を見ず見しは堤の花すゝき君亦われの顏相らず知るは堤の木瓜(ぼけ)の花あゝ幾年青き草濡れて堤を花の飾るらむ雨はしづかにそゝげども人は歸らぬ故郷に櫟(くぬぎ)の林分け入りてわれ山繭(やままゆ)を採りし時萱野(かやの)の末にうそぶきて君はとがみを飛ばしけむぬすめる芋を野に燒いて(ゑぐ)きに吻(くち)を腫(は)らしては七日の月の影踏んで小篠の笛も鳴らしゝかおもかげに見るあげまきの友と呼ばんはうらみなり世にはぐれたる一人子の君は悲しき弟よさもあれ空の雲すらもやがては洞に歸るもの歸れ月波(つくば)のふところに君ゆゑ泣かむ人もありはとがみ、草の名、形通草の實に似たり、みのりて莢裂くれば中におびたゞしき有毛痩果あり、試みに之を吹けば、風に乘り森を越え林を過りて、漂々として終にゆくところを知らず〜〜〜〜〜〜〜征矢の光『無弦弓』を讀む鳥鳴き過ぐる巖の上に黄金の弓を携へて征矢の行方を見送れば光はそれか入相の西に聚まる紫の霞の底に潛みては白羽の影を中天に漂ふ雲の縁(へり)に投げ浪靜かなる大和田の八重の潮路に煌めけば沖行船も紅の流れし中に隱れけり鏃は天にとゞまりて新たに星と生(な)りにけむおぼめかしくも北の方に落る光の弱きかな野火により來る小牡鹿の外山に啼くは聞ゆれど鴎下り居し白濱の潮に朝の聲絶えて貴艶(あて)なる嫦娥(ひめ)の顏はさし出づる月の色に見えて露置きそめし秋の野に夕の聲のかすかなり哀歌羅綾(られう)の裳裾(もすそ)かへしては春を驕(おご)りし儷人(れいじん)の腰に佩(お)びたる珠(たま)鳴りて秋燕京(ゑんきよう)にたけてけり霜こそ置かね天津の橋に見馴れぬ旗立ちて紫深き九重の雲もかへるか峽西に陽明園(はこやのやま)に炬(ひ)入(い)りては玉の宮居も燒けつらん蓮葉枯れし夕暮の池に舟行(や)る人もなし金房垂れし鞦韆(ふらこゝ)にみだせし髮はをさめじな西に流るゝ天の川曉(あかつき)浪(なみ)の驚けば永安門(えいあんもん)の階段(きざはし)に落ちたる花は誰が妻か脛も血潮に染めなして劒ぞ胸に刺されたる〜〜〜〜〜〜〜五月雨髮見しはたゞ淀の川瀬の水車淀の川舟のりもせず峰の白雲ふみわけて終に吉野の花も見ず見しは青葉の嵐山保津の流に筏して岸つたひ行く舞姫にしぶきかけたる川をとこ知恩院春酣にして大輪の牡丹咲いたる欄干や徃き來の人も紅の花には泥(なづ)む知恩院石と化(な)りぬる楠の橋越えがてにして振袖の長きは肩に※(つまど)りて躊躇(やすら)ふ君よ、こちら向け春日軒の褄なる蝉燈籠(とうろう)の蝉の羽くらき若葉蔭まだ角も出ぬ小牡鹿(さをしか)に驚かされし儷人(よきひと)よ苔緑なる石の上に右手なる菓子を投げたまへ戀はせじものふたゝびは君が袂もひかざらむ夕眉をひらいて歸れとや君、己が上を知らずして夕ぐれ一人荒磯の暗きに立つを危むか心やすかれ、引汐に沈むとすれど立ちかへる浪は仇なる白濱の砂(いさご)は終(つい)の墓ならずやちまた芒を亂す原の風小霧に濕る丘の草騷しかりし青山の秋は今はや暮れぬかな光にうとき夕顏の花と見えしに孤兒(ひとりご)の空しき骸を歛めたる柩は穴に落されぬ風の通へる八千俣に涙の顏を吹かれけむ斯の子前髮黒くして瞳の色の澄めりしが夢ほの/″\の有明に母やも見えし小枕の乾かで終に美はしき眉は動かずなりしてふ霜より先きに人散りてかけたる土は凍りけり草に隱(いでい)る月を追うて聲なき死人(ひと)は墓にかくれぬ〜〜〜〜〜〜〜その夜更けて水ほの白き湖(みづうみ)の汀(みぎは)の櫻花散(ち)りて嫁(とつ)ぐか君は筑波根の八重立つ雲の奧深(おくふか)く蘭麝(らんじや)馨(かを)れる閨(ねや)の戸(と)に尾呂(をろ)の鏡(かゞみ)を手にすれば影に溺(おぼ)るゝ山鳥(やまどり)の頬(ほ)に紅(くれなゐ)の色(いろ)潮(さ)すを花やかなりし獨寢(ひとりね)の夢の浮橋(うきはし)中絶(なかた)ちて丸(まろ)がれ易き黒髮に瑠璃(るり)の簪(かんざし)かゞやかし歸(とつ)ぐかあはれ月波根の群立雲(むらたつくも)の遠方(をちかた)に山影(やまかげ)落(おつ)る湖の浪間の月を形見にてしるしなき戀をもするか夕さればひとの手卷きてねなん子ゆゑに〜〜〜〜〜〜〜なづさふ野火白雲低き足柄の山は遙に亙(わた)れるをいかゞ越えけむ西風に雁鳴く野とはなりにけり緑(みどり)沈(しづ)める川上(かはかみ)の峽(かひ)よりかけて斷續(きれ/″\)に見ゆる林のおぼろ/\秋際無(はてしな)き霧の海踏(ふ)むに音せぬ曉の茅萱(ちかや)の露に眉ぬれて行けども寢(いぬ)る家無き子の慰藉(なぐさめ)失(う)せし野に立てば光をつゝむ青雲の向伏(むかぶ)す極み秋は來て長(なが)き堤(つゝみ)の東(ひんがし)に殘れる月の纖(ほそ)きかな「今は別れとなりにけり母よ」と呼べど言(ものい)はで父と並べる墓(おくつき)の涙は終に見ざりしか路遠くして獨(ひとり)行(ゆ)く旅は心のさびしきを尾花亂るゝ古里に遺(わす)れし妻を戀ふれどもさもあれ馴れし小月波(おつくば)の山は霧より現はれぬ山は霧より現はれて朝(あさ)はふたゝび此(こゝ)に在(あ)り風は胡蝶の羽翼(はね)を裂(さ)き霜は猿(ましら)の食(かて)を奪(うば)ひ秋老(お)いにける朝毎(あさごと)にうつろふ空の高けれど垂尾地(たりをち)に摺(す)る山禽(やまどり)の出(い)で入(い)るあたり草枯れてなづさふ野火(のび)の煙(けむり)のみ動(うご)くと見えて日(ひ)は寂寞(しづか)に〜〜〜〜〜〜〜星夜腰にからめる紅(くれなゐ)の帶(しごき)は虹(にじ)に似たるかな衿にほのめく白妙(しろたへ)は谷につゝめる雪と見ん美(うつく)しき舞姫(まひひめ)よ鳥は霞の天(そら)に舞ひ蝶は花野(はなの)の地に迷(まよ)ふ君(きみ)若草(わかくさ)を枕して夢見(ゆめみ)る勿れ春の野に美しき舞姫よ笄(かうがい)光(ひか)る黒髮は解(ほど)かば風に亂れなむせめてはかくせ扇もて月の影ある眉の跡(あと)美しき舞姫よ星の夜、姉に伴(ともな)ひて祇園(ぎをん)の町をさまよへば櫻はちんぬ、しかれどもおさなかりけるうき人の俤(おもかげ)に似(に)し君(きみ)を見(み)てうらぶれわたるわれさへも西の京の去りかねてやれだいこ(烏水の家に宿りて)花なる人のこひしとて月に泣いたは夢なるものたて綻(ほころ)びしころも手に涙の痕のしるくともうき世にあさき我なれば君もさのみはとがめじ――花なる人の戀しとて月に泣いたはゆめなるもの――つらけれど、紅葉綾なす葦穗ろの麓に今は歸らうよ破れ太鼓は叩けどならぬ落る涙を知るや君〜〜〜〜〜〜〜竺志舟新妻の卷浪を離るゝ横雲の壞(くづ)れて騷ぐ松浦や※(かいつぶり)飛ぶ姫島の沖より白む朝ぼらけ片帆下せし港江につらなる水の青うして影消え殘る一つ星北の海こそ遙かなれ煙は迷ふ島原の野母(のも)の岬の潮さゐに小舟やるとて腰みのを絞るになれし我ならん鴎(かもめ)かくるゝ荒磯に蝉口(せみぐち)しめて眺むれば石迸る火の山の照先(ほさき)閃めく海の上卒倒婆(そとば)流せし薩摩潟小島の沖に漂ふも竹もて編みし小枕にゆらるゝ夢の安きかな艫(とも)より落ちていくそ度母の熊手にかゝりけん凧をへさきに飛ばしては糸は潮にぬらせしを榕樹(あこう)の枝に秋たけて雎鳩(みさご)夜鳴く蹉の島珊瑚の床のなめらかに千重敷(ちへしく)浪ぞ限り無き西へ西へと行く月を見れば流石に泣かるれど青石(あをいし)築(きづ)く墓ならで陸には居らむ家も無く南に遠き八重山の島根を洗ふ黒潮に流れも寄るか橘(たちばな)の花は常世(とこよ)に馨るらん月に天(あま)ぎる明方(あけがた)の峰の花こそこぼれ來ね浮べる舟の閨(ねや)の外(と)に綾の霞の繞(めぐ)れるを海(うみ)の門(と)渡る雁金の翼を空に羨むも八重の汐路のいづれにか浪を凌(しの)ぎて歸るべき行かんか舟は輕かるに錨の綱を捲きあげて碎かば石に金色(こんじき)の輝く島も無からずや角いかめしき馴鹿(となかひ)に橇(そり)を引かせて雪の野に天をかざれる紅の北の光を仰ぐべく月落ちかゝる黒龍江(あむーる)の巖の上に虎吼えて君柔肌(やははだ)に粟立たばわが手に縋(すが)れ劒あり行方跡無き不知火(しらぬひ)の筑紫の海に生れては氷の山に海豹(あざらし)の牙を磨くに膽消えん砂にまみれし青貝(あをがひ)を拾ひて憂(うさ)を遣らんとも松浦(まつら)戀しくなりぬ時あはれならまし花の妻翼しをれし五位鷺(ごいさぎ)の雨を怨みて帆柱に鳴くは濱べの雌をや呼ぶかすめる山は笹島か手箱に秘めし花ぐしを忘るともなく君さゝであたらほつれし前髮よ白き額はかくさゞれ思へばつらき浮寢にも花なる人にともなひて行きて別るゝ涙無く後(おく)れてぬらす衣(きぬ)無きに空も水なる大海(わだつみ)にわが漕(こ)ぐ舟を誰か遮(さへぎ)る浮寢の卷羨まし誰をみ空の流れ星暮るれば出て光知るらん暮るれば出る星ならで篷をおほへる浮舟の千鳥鳴く夜を妹許と知らじな親は船にして尾花が袖に露しげき朱雀(すじやく)の野べの秋は不知(いさ)のれる星棧(うきゝ)は輕かれどたやすく浪にかへらんや龍頭(みよし)にかゝる九曜星(すまるぼし)光は霧にまよひつゝ櫓(ろ)の音(と)ぬすみて笹島の澳(おく)に入り行く小舟ありきあじさし翔(か)ける白濱(しらはま)に沈める珠を探るとて若き乳房も仇浪のなぶるになれし海士(あま)の子よ額(ひたひ)にかゝる前髮のみだれそめしが戀ならば京の紅(べに)とや唇にさゝねど人を戀しけむ秋雨そゝぐ(ふなまど)に彈(ひ)くべき琴も持たねども三重卷く帶の端(はし)長くけぶれる髮の美しう* ** *めぐるに早き春の夜の月は東に歸りけり八重の潮路のたゞ白く秋は光の寒きかな手繰(たぐ)りし綱に枕してひそかに衿(えり)をぬらすとも春かへり來る中空に夢のおもかげ殘るらん終に別るゝ殘懷(なごり)なき星合(ほしあひ)の空にはろ/″\とあこがれ渡る釣人(つりびと)の涙は頬(ほゝ)に流るれど※(かし)振り立て纜(もや)ひせしあまのはしぶね音づれて燎火(かゞりび)白む曉の鐘こそかすかに響きたれ水より淡き月(しまぼし)の影は仄(ほの)かに殘りたり輪廓(さゝべり)燃ゆる紫の八雲(やくも)棚引く和田の原朝日(あさひ)を洗ふ浪の穗に輝く光くづれては空を貫(つらぬ)く金色(こんじき)の百筋(もゝすぢ)の箭と閃めきて湧きもめぐらふ新潮(にひしほ)の巖(いは)うつ音(おと)の高ければ降(お)りん隙なき鶚(しながどり)聲は磯曲(いそわ)にかすみつゝ湖の畔にて天(あま)飛(と)ぶ雲に秋立ちて浪に聲ある湖や關(せき)の跡(と)舊(ふ)りし東路(あづまぢ)の騰波(とば)の湖(あふみ)は暮にけり伏樋(ふせひ)を漏(も)れて行く水の小川(をがは)の末にほの白く新墾小田(にひはりをだ)を劃(かぎ)りたる堤に松の聲もして曉ひらく葩(はなびら)の汀の浪に綾織(あやお)りし蓮(はす)の浮葉も秋風の劒(つるぎ)に觸(ふ)れて裂(さ)かれたり光(ひかり)寂(さび)しき森の蔭露は瞼(まぶた)に落(おつ)れども睡(ねむ)りてさめぬ野の花の夢にや月を迎(むか)ふらむ傾(かたむ)きかゝる天(あま)の河(かは)星より先(さ)きに散る花の雪と輝(かゞや)く色を帶(お)びて秘(ひそ)かに咲くは夜顏(よるがほ)か紅(くれなゐ)褪(あ)せしさふらんの蕋(しべ)の細きを拔かんとて蜂飛惑ふ花園に眉をひそむる妻無きも雁が音遠き信濃路の霧に埋れし山百合を瓶にせし夜はまろびねの枕も夢も香りしを額(ひたひ)に垂るゝ前髮の油(あぶら)かほりてすれ/\に眉を被(おほ)ふをなつかしみ頭(かざし)あたへし子もあれどいかゞ書くらん紅筆(べにふで)の艶(なま)めく文字は知らぬ身の露に臥すてふ女郎花見るに心の慰まで千草の花を培へば色にはなれし袖ながら痛(いた)める胸にそと觸(ふ)れて渡(わた)らふ風のつらきかな菱取小舟(ひしとりをぶね)跡(あと)絶(た)えて月は曇れる浪の上にみ空を繞(めぐ)る七色(なゝいろ)の花の環(たまき)よ懸(かゝ)れかし立つとはすれど朧夜(おぼろよ)の月に消(け)さるゝ面影(おもかげ)をせめて花環(はなわ)の中ならばゑがくを人も許すべく〜〜〜〜〜〜〜富士を仰ぎて大野の極み草枯れて火は燃え易くなりにけり水せゝらがず鳥啼かず動くは低き煙のみ落日力弱くして森の木の間にかゝれども靜にうつる空の色翠はやゝに淡くして八雲うするゝ南に漂ふ塵のをさまりて雪の冠を戴ける富士の高根はあらはれぬ返らぬ浪に影見えて櫻は川に匂ふらむ霞みそめたる天地に遍きものは光かな涙こほりし胸の上に閉じたる花も咲かんとして亡びんとせしわが靈(たま)の今こそ蘇(い)きて新しき人は旅より歸るとき花なる妻を門に見むわが見るものは風荒ぶ土橋の爪の枯柳人は旅路に出るとき美し人を※(ませ)に見むわが行く路に在るものはやみを封(こ)めたる穴にして筑波の山に居る雲の葉山繁山おほへるも春は蝶飛ぶ花園に立つべき足の痿へたるをやゝともすれば雲の奧にかくれんとするいとし兒を悲む母のふところに退(の)かせじとする枷(かせ)にして千代もとわれは祈れども母は子故に死なんといふ世に一人なる母をおきてわが有(も)つものは有らじと思ふに...
横瀬夜雨 「花守」
...街端(まちはず)れの紫石街(しせきがい)へ出向いて行った...
吉川英治 「新・水滸伝」
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