例文・使い方一覧でみる「空」の意味


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...気もこれと同じやうな事をする...   空気もこれと同じやうな事をするの読み方
アンリイ・ファブル Jean-Henri Fabre 大杉栄、伊藤野枝訳 「科学の不思議」

...はだんだんに低く垂れてきて...   空はだんだんに低く垂れてきての読み方
伊藤野枝 「転機」

...あちらこちらとを駈けずりまはる途すがら...   あちらこちらと空を駈けずりまはる途すがらの読み方
薄田泣菫 「久米の仙人」

......   の読み方
高見順 「死の淵より」

...限りないから限りなく降っているとしか思われない...   限りない空から限りなく降っているとしか思われないの読み方
田山花袋 「蒲団」

...大正十三年篇 一九二四年(十五歳)◆大正十三年十月二十五日『北国新聞』夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一児静な夜口笛の消え去る淋しさ燐寸(マッチ)の棒の燃焼にも似た生命(いのち)皺に宿る淋しい影よ母よ◆十月二十九日夕刊「北国柳壇」秋日和砂弄(もてあそ)んでる純な瞳思ひ切り笑ひたくなった我無駄な祈りと思ひつゝ祈る心運命を怨んで見るも浅猿(あさま)しさ其の侭に流れんことを願ふ我◆十一月四日夕刊「北国柳壇」日章旗ベッタリ垂れた蒸暑さいい夜先(まず)幾つかの命ゆがめられ子供等の遊びへ暗影迫り来る海鳴りが秋の心へ強く響き表現派の様な町の屋根つゞき悲しい遊戯を乗せて地球は廻る外燈へ雨は光って目がけ来る得意さを哀れさに見る哀れさ滅びゆく生命(いのち)へ滅ぶ可(べ)きが泣(なき)生活へ真剣になれぬある生活一跳ね一跳ね魚(うを)の最後が刻まれる大きな収穫総てを忘れた喜び泣く笑ふそして子等の日は終り◆十一月六日夕刊「北国柳壇」磯馴松(そなれまつ)もう冬近い唸りなり諦めてか諦めずか柿の葉は落なき倒す風総ては大地へしがみ付生きる死ぬ必死の侭を恐怖し地球を封じ込めたやうな夜の幕払はれて地上の無惨なる飯粒を戴いて拾ふ我が母腹が減った時だけ飯が旨い◆十一月七日夕刊「北国柳壇」肥(こえ)臭い侭の身体のある誇り瞬間を求めてゐる子供達思切り笑へなく成(なっ)た悲しい喜び◆十一月十二日夕刊「北国柳壇」人生の努力に疲れた老人の額太陽に雲と地球が染ってゐる秋風が地球の上を嘗めて行く鳥が枝に止まるが如き人の生命儚ないと捨られもせぬ命なり大きな物小さな物を踏みにじり風船玉しかと掴めば破れます◆十一月二十七日夕刊「北国柳壇」束縛なく生きて悲哀なく消え散る菊へ私一人だけが泣く鉄鎖(てつくさり)の解(とけ)る日生活の恵(めぐみ)を見せ何時でも乾き切らない大地なり煙突の煙の行方が知れない世◆十一月三十日夕刊「北国柳壇」悪人の心へ夕陽強う照り争ひを夫(それ)と思はぬ鶏を見る柿の木に雀ふくれる朝となり籠の鳥歌って女工帰るなり桃割の瞳 何も彼(か)も諦める赤とんぼにも生命(いのち)があります小春日に宝達山(ほうたつさん)が痩せてゐる◆十二月六日夕刊「北国柳壇」吹けば飛ぶ物丈(だけ)風は吹き飛(とば)し唯(ゆゐ)一の願ひすべてを忘れてる諦めを知った心へ光りさし女ですと瞳を(くう)へたどらせる光明は見憎い姿を憎まない◆十二月七日夕刊「北国柳壇」区切られた丈(たけ)は小川に押されカサリと落葉は大地へ微か也海鳴りが弓張り月を凄くする鶏よ猫よ痛ましい事実なり弱き者よより弱きを虐げる◆十二月九日夕刊「北国柳壇」小春日を鳥が肥(こえ)をつついてる外燈が闇の目のやうに光り真すぐな小松へ風の吠え狂ひ念仏が忘れられます金(かね)の事踏石を欲がってゐる人間等(にんげんら)◆十二月十三日夕刊「北国柳壇」微笑(ほほえみ)の刹那暗さが消えてゐる笹舟は反抗も無く流れてゐる一滴の涙は光り受けて落ち許されぬ罪の心へ涙する落(おち)る葉は地へも溝へも屋根へでも銀貨の音耳と目とが光ってる重たさが失せてズルズル引摺られ停電へ蝋燭の燈(ひ)の有難さ真暗な街 外燈が凍りつき◆十二月十八日夕刊「北国柳壇」独り息子泥濘(ぬかるみ)に転んで起きず縮まって女工未明の街を行く女工達 声を合せて唄ひ出す秋の朝荷車ひきのしろい息裸木に雀ふくれて細く鳴き女将(ぢょしょう)の瞳(ひとみ)は乾き切ってゐる◆十二月十九日夕刊「北国柳壇」世間を動かせず熱い涙なり蹴倒して一階段を踏みあがり親の命日を知ってる妓(こ)の瞳沈みゆく陽に人間は皆哀れ打(ぶつ)かって跳返されて泣いてゐる一筋の光り淋しさの色に負け◆十二月二十日夕刊「北国柳壇」踏台の高さ大地へ目がくらみドン底に立ってる者の強さ也足許を忘れて星を憧がれる淋しがる二つ静かに抱(いだ)き合ひ赤蜻蛉人間の上を泳いでる求めずして子等は与へられ正月を指をってゐる子の瞳◆十二月二十五日夕刊「北国柳壇」有丈(あるたけ)でまだ物足らぬ日を送り赤とんぼ飛ばぬ日太陽かげる運命は目をつぶった侭流し失恋は生命(いのち)へシカとしがみ付突き当って水は曲って行く着物が一番華やかな唖の子よ土蔵の影に育って実を結ばず思ひ切り笑ったあとの(むな)しさ真暗に提灯(ちょうちん)一つ見付け出し子供等の表情を唖の子は追ひ飯事(ままごと)に唖の子つくねんとして立(たち)◆十二月二十六日夕刊「北国柳壇」恵まれざる瞳(ひとみ)涙が乾(ほ)せて見え涙流す人笑ふ人日は暮る大正十四年篇 一九二五年(十六歳)◆大正十四年一月八日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一児暗闇に灯を探しつつ突き当り母親の影に連れ子は淋しさう連子の名呼び捨てにもされず泥沼にのた打ち廻る真剱さ打(う)たれてから打(う)つ心を考へる◆一月九日夕刊「北国柳壇」大へ笑ひしく消えて行き第三者には労働は神聖なり丘に立つ人の眼(め)は雲を見詰る時々にへのぼりたいここち桃割れへ夕陽(ゆふひ)はしばし鋭し◆一月十三日夕刊「北国柳壇」一銭(せん)銅貨(どうくわ)子供(こども)は確乎(しっかり)握(にぎ)ります綱渡り危ない綱がたよりなり幻影に人間の瞳(め)は恐怖し断崖をよぢ登る人落ちる人◆一月十四日夕刊「北国柳壇」繋(つな)ぐ手は人込の勢(きほ)ひ離される階段の上からつばが飛で来る暗闇に顔と顔とをすかし合ひ抱合ふと指でつつく世間です抱合ったものの涙砂に消ゆるこの大地この人の群この太陽肉あって血あって抱く暖かさ眼をつむり念仏する真っ暗さ足許を見詰めて二人あるく也(なり)◆一月十七日夕刊「北国柳壇」太陽の光り人間の影うすし芽を出した牡丹へ冬の陽(ひ)の囁き真暗な大地まで低く垂れ酒と舌額(ひたひ)の皺の伸びる刹那酒を売る店は酒を売るだけ知り過ぎる程知って悶えあり振翳(ふりかざ)す腕の先から何んか逃げ◆一月二十一日夕刊「北国柳壇」艶っぽい事を臨検見せられる別世界ある気で二人毒を嚥(の)み鶏を飼(か)ひ恩給に日を送り五燭光亭主のながい病なり面白く火事を見てゐる旅心番傘が明るく過ぎて油の香◆二月八日夕刊「北国柳壇」幻影のほほえみに力(ちから)する男裏長屋押潰されたやうに低い遠くから見ると血の色美しい嵐に勝って帰(き)た男に妻がゐる風と波の 奮闘に泣く浜の女悲鳴が聞えるやうで聞えない◆二月十八日夕刊「北国柳壇」嫁の姿日に日につつましい狂ひ踊る足へ疲れが纏ひつき夜の寒さ足を伝ってはひ上り目を閉(つぶ)れば物の触合ふ音のする暗さから出ると陽差(ひざし)へ目が眩み飛ぶ方へ止める力は引摺(ひきず)られ◆二月二十二日夕刊「北国柳壇」藁二本縺れからまる強さなり飯の味忘れた男の眼(め)がくぼむ眼(め)へうつる堕落の渕の美しさ階段からもんどり打て下へ落(おち)◆二月二十六日夕刊「北国柳壇」驀然(まっしぐら)に飛び行く力突きあたる生(いけ)る者へ死は悠然(ゆっくり)と慌てない死んでも赤の他人は泣ません死の背景生(いき)てる者が浮てゐる◆三月十二日夕刊「北国柳壇」もがけばとて只一本の道で有(あり)泣く姿陽はさんさんと輝いた真四角(ましかく)の角(かど)とれば又角が出来一滴の涙白紙に跡をつけ諦めてから其道(そのみち)を行くときめ◆三月十八日夕刊「北国柳壇」太陽が只一つしか見えません第一線血みどろなのが地へ倒れ地平線それから先(さき)は解らない三角の尖(とん)がりが持つ力なり舞ひ狂ふ足音に頼る生きる力◆三月十九日夕刊「北国柳壇」魂(たましひ)がふと触れ合った或日(あるひ)です真ン中を覘(ねら)って矢先(やさき)に力あり孤独の静けさ軈(やが)てさびしかり地球が円(まる)く人達は辷(すべ)ります◆三月二十六日夕刊「北国柳壇」現実と理想に両手引っ張られ育まれた殻を破った力なり沈黙の力大きな音を立て力と力散る火花をが呑み凍った朝気を解(とか)す車夫の汗◆三月二十七日夕刊「北国柳壇」林のやうに拳(こぶし)が立ってゐる沈黙の侭迫り沈黙にて叫び生きる音遥かに遥か谺(こだま)する桃割の妓(こ)の瞳だけ欲(ほ)しいです悲しみがゆるむと涙ほとばしり◆四月二十二日夕刊「北国柳壇」白壁に子供のかいた絵がある止(とま)り木をシカと掴んで鳴く小鳥誰(だれ)が死(し)と舞踏(ぶたふ)をしましたか元の処へ帰って来たのに疲(くたび)れる◆四月二十八日夕刊「北国柳壇」仏像を爪(つま)んで見ると軽かったドン底を踏んで初めて音がする魂(たましひ)が一つに溶けない悩みです一滴づつ雨は瓦に音を立て蒼へ私がとける春、白砂流れゆく水に瞳(ひとみ)を流した日人が居ないと籠の鳥は唄ふ◆五月五日発行『影像』十九号(石川)喜多 一児ショーウインド女の瞳が飛び出した暴風と海との恋を見ましたか水平線の上で太陽を立てた日だ大切に抱いてゐるから黙って居やう生と死を車輪の力切りはなし死の背景に生きてるものが浮いてゐる太陽が輝いてゐる奇怪な朝どれだけを舞ふたかは地球も知らず◆六月五日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一児小(ささ)やかな塔を立てては毀(こは)す也淫蕩な気の中に立って居た悪魔と善魔とは並んで来るちょこちょこと大地を歩く鳥を見よふと水平線から雲が湧いた振返るとパッと首を引込めた◆六月十三日夕刊「北国柳壇」荷車(にぐるま)ひきが荷車に追はれ香水買(かひ)に来た少女(せうぢょ)は工女(こうぢょ)です2+2が5である事も有(ある)のです兵隊ごっこ男の子等(ら)計(ばか)りです突てゐる奴は後(あと)から又突かれ◆七月五日発行『影像』二十一号(石川)一児墓石を刻む男がこわかったひょこひょこと大地を歩るく鳥を見よ振り返るととたんに首を引っこめた眼の軽く軽くなるまで嘆きたし延び上る果敢(はかな)い生が延びるもよい銭呉れと出した掌は黙って大きい◆七月十一日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一児太陽の光(ひかり)を真二つに割る尖端悲しさよ 水と油の恋でした裏となり 表となりて 赤き線剃刀(かみそり)の刃の冷さの上におどれ一遍に灰になる様に死に度い◆七月十二日夕刊「北国柳壇」吐息と歩調を合せたり曲った道で 石ころを 蹴れりひたすらに 巡礼を 見おくる「また会はう」はかなき 契り◆七月二十三日夕刊「北国柳壇」佛(ほとけ)さまと呼べど答へなし数珠に手首を締められたり満腹に苦しむ日を慾(ほ)し舞妓の瞳(ひとみ)の中に住みたし子(こ)と金(かね)と女に狂ひたし金(かね)はなくとも首を持ちたりこの宵限りの星を恋せり咽喉(のど)の奥にうそをためてる◆八月八日夕刊「北国柳壇」鮒の眼は飯粒だけを見付たり時計の針の影にゐる影電柱が嘆きを緑へ呼びかける掌(て)の中に撒(ま)き残された種子(たね)取出した金庫の鍵が錆て居た◆八月九日夕刊「北国柳壇」一銭では不服か老巡礼の瞳(め)此の振(ゆら)ぎ一滴の涙ゐたまらず◆八月十五日発行『影像』二十二号(石川)一児さんらんの陽を破ったる塔の尖端三角定規の真ン中に住める裏となり表となりて赤き線剃刀の刃の冷たさの上に躍れ白衣など嫌だ私は生きてゐる恋愛と胃病と神経衰弱だ真赤な真赤な血の落書き刃の裏にくっついて冷笑風船玉を売っとる男◆八月二十二日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一児蝉鳴くは夏のおのれの肯定か人形の瞳(ひとみ)の閉ぢる時ありやにこやかな朝の心に従はん毒剱をひそめて蜂は花を訪ふ◆『百萬石』五十四号十月号(高松)喜多 一児鮒の眼は飯粒だけを見つけたり巡礼の唄華やかな人生なり◆十月六日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一児茲(ここ)宇宙の果よと星の云(いひ)得ざる鉄筋(コンクリート)の 固さは死んだ侭(まま)なりき恋人をしめ殺したく抱(だき)すくめ脱(のが)れたが抱(いだ)いた物の色に染(そ)み◆十月十三日夕刊「北国柳壇」日暦(カレンダ)の桃色の日に死にました地を噛まん夜の海々の白き歯よ◆十月十五日発行『影像』二十三号(創刊二周年記念号)(石川)一児どかと座せば椅子そのものもひた走る凝視の尖端に幸福を漂はす伏す針の鋭き色をひそめ得ずひとときを積木の家の中に居る可憐なる母は私を生みましたレッテルを信じ街々の舞踏する蝉鳴くは夏のおのれの肯定か人なれば白黒の織物肯定す偶然と日本の国に生れ出で神々は赤き部屋ぬちに死ねり死の底に髑髏の破片もなかりけり電柱より蝉鳴くところ無くなりし大の字になって明日へ送られる死の使者よ地上の酒を召し上れカレンダの桃色の日に死にました星降れば古き観念の屋根がもる磁石なく枯野の髑髏に教へらる手をつなぐものなく縦列さへし得ず鉛筆のあと芯の幾倍ぞ地を噛まむ夜の海海の白き歯よ五と五とは十だと書いて死にました飢え果てゝ悲しむ力失せにけり警鐘の赤き響に地のゆるぎ◆十月十六日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一児釈迦と耶蘇(やそ)の合掌さも似たり磁石なく枯野の髑髏(どくろ)に教(をしへ)らる死と生と衝(うっ)て詩が湧く生が咲時を追ひ立て煽風器はめぐるレッテルを信じ街街舞踏する◆十月二十日発行『氷原』十六号(石川)喜多 一児薄桃色の花の呼吸の乱れたりぴたと閉づ扉に鍵のある哀れ性慾といふ細い掛橋だセカンドの刻みのすきに足を入れ大地迄もんどり打って貴族の死◆十月二十四日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一児蟋蟀(こほろぎ)とはさみ虫とがふと出会(であひ)甲(かぶと)虫の首の細さを知り得まい千万年菊の花春の陽を知らず殿堂に神は今日しも留守なりき死の底に髑髏の破片もなか鳧(けり)救はれてそれ神仏の意識なし輪を描く願を「幸福」逃失せる◆十一月十二日夕刊「北国柳壇」散る時に嘆く力も失せにけり散るべきを散らすが秋の心也仏像の虚栄は人の虚栄なる芯折れた鉛筆生(せい)を秘めてゐる蒼穹と蔵との間つらなれり秘めたるはただ限りある沈黙◆十二月二十日発行『新興川柳詩集』喜多 一児セカンドの刻みの隙に足を入れ死の底に髑髏の破片(かけ)もなかりけり暴風と海との恋を見ましたか伏す針の鋭き色をひそめ得ず銭呉れと出した掌は黙って大きい大正十五年篇 一九二六年(十七歳)◆一月二十四日夕刊「北国柳壇」旅人へ吹雪に消えた里程標雪片(ゆきくれ)の土に吸はるる音をきく福村信正兄に泥濘(ぬかるみ)はあなたの涙血と汗と一滴の涙と一粒の白砂と◆二月一日発行『影像』二十五号(石川)喜多 一児唖と話せば原始的になる晴れ渡る其の日燕は旅に立ち崖見下ろす王の頭上を白き雲雪片の土に吸はれる音をきく恋人の微笑に髑髏の表情が運命は四十八手を使ひ分けむなしやな音の行衛を見失ひ旅人と吹雪と里程標の先新年試吟純心の赤子二歳に老ひにけり◆二月五日発行『氷原』十七号喜多 一児的を射るその矢は的と共に死す仏像はあはれ虚栄を強いられて警鐘も落つべき日をば知らざりき先に立つ一羽を信じ群れて逃ぐ鳥籠の間と蒼穹の奥の奥蒼穹の色を信ずるのみでよし◆二月十四日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一二むなしやな音の行方を見失ひフイルムが尽れば白き幕に成残紅の瘠蝶(やせてふ)最後までおどる経文へ老僧水洟(みずばな)ぽとりぽとり枯枝に昼の月が死んでる風景◆三月二日夕刊「北国柳壇」セコンドの刻み数ふる声ありき流る水一つの哲理を持たざりき寒竹の春には枯木ばかりなる電線の燕こしらへ物のよな股引に小便をする技巧あり生殖器切り捨度き日もありき仏像を木切と思って食った鼠花の咲く頃気狂ひにした運命猫の眼は遂に闇をば知ず果つ岬晴れて春の渚のひろびろと電線に唸り伝へてあらし過ぐ王冠の宝石と幾万の血の色とふれもせで別れし恋を忍ぶ春合掌をさせて棺へと封じ込み童貞にあれば少女の笑(えみ)ぞよき影を踏む通りに影も影を踏み便所から出て来た孔雀のよな女枯れ果た様な牡丹に芽の微笑命つぐ呼吸に命刻まるる◆三月五日発行『氷原』十八号喜多 一児枯れ枝に昼の月の死んでゐる風景真理にかびの若芽が生えて来るバットのけむりに幻想の魚が泳ぐ鏡の音のひろごる波は胸に寄す仏像を木にして噛る鼠なり猫の眼はつひに闇をば知らで果て避雷針のねらふ大宇宙の一点触れもせで別れし恋を忍ぶ春唇と唇、電気の味と知らず酔ふ便所から出て来た孔雀の女海鳴りが床の下から背へひびく迷宮の罪にふれて神を言ひ病葉の中にみじめな花の顔過去の背中に運命が笑った(「バット」は煙草のゴールデンバット――編者)◆三月五日発行『影像』二十六号(石川)一児星へキリストの眼と望遠鏡セコンドの刻みを数ふ声ありき凋むべきさだめに張り切ったパラソル五本の指は宿命論者だ円周を早く廻って一等だ死だ去勢してさあ革命を言ひたまへ◆三月十二日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一二泥に住むみみずは泥を食(はん)で生(いき)妖女は髑髏の首かざりしてバットの煙と幻想の魚およぐ真理にかびの芽生えた奇蹟去勢してサア革命を云ひ玉へ◆三月十七日夕刊「北国柳壇」棒杭と水さようなら左様なら合掌は祈るこころの姿なる蒼と草の蒼さに染むこころ蚯蚓(みみず)鳴く只忍びよる夕やみよ◆三月二十日夕刊「北国柳壇」尺八の音ぞ青竹の死の唄よ海鳴りの音絶雪女郎の衣ずれ星へ基督の眼と望遠鏡去勢してさア革命を云ひ玉へ凋むべき運命に張切パラソル◆三月二十四日夕刊「北国柳壇」血を吸ふて血を吸て死ぬ蛭だ玉の輿に乗るのと棺に乗事と◆四月一日夕刊「北国柳壇」人死して目出度神となり玉ふ花紅(くれない)、柳緑と太陽の認識大風を飛べども燕流さるる揺るごと梢の星の見えかくれ白雲を千切って風のその行方◆四月五日発行『氷原』十九号喜多 一児日あたり、うっとりと寺男の俗謡塩鮭の口ぱっくりとを向く尺八の音ぞ青竹の死の唄よ性未だリボンつけたき少女なる草に寝る、草の青さに染む心人類史の頁めくって風窓に逃げ鉛筆の芯幾人の舌にふれ◆四月二十日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一二菩提樹の蔭に釈尊糞たるる宿命の軌道を汽車は煙り吐き人のゐぬ部屋に殻のよな外套春を吸ふ白砂の歓喜に腹這て月澄めりしみじみ語る女慾し骨を噛む小猫の牙にふと怯ゆせせらぎの底の真底に月白き炉火ちらちらと仏説く老人白墨に描ける如く星流る光明の一線の先闇をさすそも虚東西南北さだめなき瞳を閉ぢて月の歩める音を聞く琴の音をかたへの猫も聞如し絃切れた響き未来へ続きけり敵対す猫の瞳にうつる我れ何物の2に割出せし雄と雌掌(たなぞこ)にまりの虚を握り得しニッケルの主観ゆがんだ風景虚無時代、恋、心底に冬眠す◆五月五日発行『氷原』二十号喜多 一児何物の二に割り出せし雄と雌ニッケルの主観ゆがんだ風景フイルムの尽くれば白き幕となり地図描く刹那も怒濤岸を噛む滅無とは非我の認識なりしよなトタン屋根さんらんとして陽の乱舞波、闇に怒るを月に見つけられ万年筆にインクをつめる資本家の工場にニヒリストの煙突寒竹の春には枯木ばかりなる淫売婦共同便所、死、戯場ウインドの都腰巻目をうばひ掌にまりの虚に握りしめ棒杭と水、さやうなら、さやうなら◆五月五日発行『影像』二十八号(石川)一二花紅、柳緑と太陽の認識宿命の軌道を汽車は煙吐きつ骨を噛む仔猫の牙にふとおびゆ音楽家がつんぼになった鐘の音のひろごり二つ遂に触れ眼を閉ぢて月の歩める音を聞く資本主義の工場ニヒリストの煙突虚無時代恋心底に冬眠す神をきく椅子に尾骨のうづきけり光明の一線の先闇を指すニッケルの主観ゆがんだ風景絃切れた響未来へ続きけり流水れ一の哲理を持たざりき(「流水れ」は「水流れ」の誤植か――編者)敵対す猫の瞳に映るわれ◆六月五日発行『影像』二十九号(石川)一二尺蠖のあゆみは時をさしはかり半球の闇を地球は持ち続け神代史男神けものと恋をする角度を圧して樹が倒れる七色を捨てゝ太陽白を秘むレッテルに街掩はれて窒息せむ夜を追ひて新らしき陽の朝の舞ひ芽の双葉まろき虚を抱き上げる落葉の一転二転無我無三界のからくり見よや円き窓神様は花火線香をもてあそび流星のあとを拭へる時の手よ死の魚の瞳の底の青き廻転の速さの極み時、、絶ゆ蒼ざめたバットの殻の瞳に匂ふ白魚の指にコップの人生観新聞にうつる二十世紀の顔まろ玉を綴れるむすびの傑作猫遂に家族主義者の群に入る◆六月十三日夕刊「北国柳壇」(高松)喜多 一二病床に瞑(めい)すむくむく死の温(ぬく)み夜と昼を集め無明(むめい)の闇に帰(き)す尿すれば我夜(わがよ)くまなく尿の音◆六月二十二日夕刊「北国柳壇」理想への軌道人夫のコップ酒糞(くそ)の上に陽(ひ)の七色や蠅の羽根尺蠖(しゃくとり)の歩みは時をさしはかるレッテルに掩はれて街窒息せん落葉の一転二転無我無(むがくうむ)月光の矢先をあぶる身の痛さ◆六月二十六日夕刊「北国柳壇」猫遂に家族主義者の群に入る蒼ざめたバットの殻(から)に神(しん)を閉づ人肉血の酒卅世紀 カフエー文明の私生児トッカピンニズムあと蚯蚓(みみず)潜(もぐ)れど知らぬ地の深み註・「トッカピンニズム」のトッカピンは精力強壮剤として売り出されていた売薬名...   大正十三年篇 一九二四年◆大正十三年十月二十五日『北国新聞』夕刊「北国柳壇」喜多 一児静な夜口笛の消え去る淋しさ燐寸の棒の燃焼にも似た生命皺に宿る淋しい影よ母よ◆十月二十九日夕刊「北国柳壇」秋日和砂弄んでる純な瞳思ひ切り笑ひたくなった我無駄な祈りと思ひつゝ祈る心運命を怨んで見るも浅猿しさ其の侭に流れんことを願ふ我◆十一月四日夕刊「北国柳壇」日章旗ベッタリ垂れた蒸暑さいい夜先幾つかの命ゆがめられ子供等の遊びへ暗影迫り来る海鳴りが秋の心へ強く響き表現派の様な町の屋根つゞき悲しい遊戯を乗せて地球は廻る外燈へ雨は光って目がけ来る得意さを哀れさに見る哀れさ滅びゆく生命へ滅ぶ可きが泣生活へ真剣になれぬある生活一跳ね一跳ね魚の最後が刻まれる大きな収穫総てを忘れた喜び泣く笑ふそして子等の日は終り◆十一月六日夕刊「北国柳壇」磯馴松もう冬近い唸りなり諦めてか諦めずか柿の葉は落なき倒す風総ては大地へしがみ付生きる死ぬ必死の侭を恐怖し地球を封じ込めたやうな空夜の幕払はれて地上の無惨なる飯粒を戴いて拾ふ我が母腹が減った時だけ飯が旨い◆十一月七日夕刊「北国柳壇」肥臭い侭の身体のある誇り瞬間を求めてゐる子供達思切り笑へなく成た悲しい喜び◆十一月十二日夕刊「北国柳壇」人生の努力に疲れた老人の額太陽に雲と地球が染ってゐる秋風が地球の上を嘗めて行く鳥が枝に止まるが如き人の生命儚ないと捨られもせぬ命なり大きな物小さな物を踏みにじり風船玉しかと掴めば破れます◆十一月二十七日夕刊「北国柳壇」束縛なく生きて悲哀なく消え散る菊へ私一人だけが泣く鉄鎖の解る日生活の恵を見せ何時でも乾き切らない大地なり煙突の煙の行方が知れない世◆十一月三十日夕刊「北国柳壇」悪人の心へ夕陽強う照り争ひを夫と思はぬ鶏を見る柿の木に雀ふくれる朝となり籠の鳥歌って女工帰るなり桃割の瞳 何も彼も諦める赤とんぼにも生命があります小春日に宝達山が痩せてゐる◆十二月六日夕刊「北国柳壇」吹けば飛ぶ物丈風は吹き飛し唯一の願ひすべてを忘れてる諦めを知った心へ光りさし女ですと瞳を空へたどらせる光明は見憎い姿を憎まない◆十二月七日夕刊「北国柳壇」区切られた丈は小川に押されカサリと落葉は大地へ微か也海鳴りが弓張り月を凄くする鶏よ猫よ痛ましい事実なり弱き者よより弱きを虐げる◆十二月九日夕刊「北国柳壇」小春日を鳥が肥をつついてる外燈が闇の目のやうに光り真すぐな小松へ風の吠え狂ひ念仏が忘れられます金の事踏石を欲がってゐる人間等◆十二月十三日夕刊「北国柳壇」微笑の刹那暗さが消えてゐる笹舟は反抗も無く流れてゐる一滴の涙は光り受けて落ち許されぬ罪の心へ涙する落る葉は地へも溝へも屋根へでも銀貨の音耳と目とが光ってる重たさが失せてズルズル引摺られ停電へ蝋燭の燈の有難さ真暗な街 外燈が凍りつき◆十二月十八日夕刊「北国柳壇」独り息子泥濘に転んで起きず縮まって女工未明の街を行く女工達 声を合せて唄ひ出す秋の朝荷車ひきのしろい息裸木に雀ふくれて細く鳴き女将の瞳は乾き切ってゐる◆十二月十九日夕刊「北国柳壇」世間を動かせず熱い涙なり蹴倒して一階段を踏みあがり親の命日を知ってる妓の瞳沈みゆく陽に人間は皆哀れ打かって跳返されて泣いてゐる一筋の光り淋しさの色に負け◆十二月二十日夕刊「北国柳壇」踏台の高さ大地へ目がくらみドン底に立ってる者の強さ也足許を忘れて星を憧がれる淋しがる二つ静かに抱き合ひ赤蜻蛉人間の上を泳いでる求めずして子等は与へられ正月を指をってゐる子の瞳◆十二月二十五日夕刊「北国柳壇」有丈でまだ物足らぬ日を送り赤とんぼ飛ばぬ日太陽かげる運命は目をつぶった侭流し失恋は生命へシカとしがみ付突き当って水は曲って行く着物が一番華やかな唖の子よ土蔵の影に育って実を結ばず思ひ切り笑ったあとの空しさ真暗に提灯一つ見付け出し子供等の表情を唖の子は追ひ飯事に唖の子つくねんとして立◆十二月二十六日夕刊「北国柳壇」恵まれざる瞳涙が乾せて見え涙流す人笑ふ人日は暮る大正十四年篇 一九二五年◆大正十四年一月八日夕刊「北国柳壇」喜多 一児暗闇に灯を探しつつ突き当り母親の影に連れ子は淋しさう連子の名呼び捨てにもされず泥沼にのた打ち廻る真剱さ打たれてから打つ心を考へる◆一月九日夕刊「北国柳壇」大空へ笑ひ空しく消えて行き第三者には労働は神聖なり丘に立つ人の眼は雲を見詰る時々に空へのぼりたいここち桃割れへ夕陽はしばし鋭し◆一月十三日夕刊「北国柳壇」一銭銅貨子供は確乎握ります綱渡り危ない綱がたよりなり幻影に人間の瞳は恐怖し断崖をよぢ登る人落ちる人◆一月十四日夕刊「北国柳壇」繋ぐ手は人込の勢ひ離される階段の上からつばが飛で来る暗闇に顔と顔とをすかし合ひ抱合ふと指でつつく世間です抱合ったものの涙砂に消ゆるこの大地この人の群この太陽肉あって血あって抱く暖かさ眼をつむり念仏する真っ暗さ足許を見詰めて二人あるく也◆一月十七日夕刊「北国柳壇」太陽の光り人間の影うすし芽を出した牡丹へ冬の陽の囁き真暗な空大地まで低く垂れ酒と舌額の皺の伸びる刹那酒を売る店は酒を売るだけ知り過ぎる程知って悶えあり振翳す腕の先から何んか逃げ◆一月二十一日夕刊「北国柳壇」艶っぽい事を臨検見せられる別世界ある気で二人毒を嚥み鶏を飼ひ恩給に日を送り五燭光亭主のながい病なり面白く火事を見てゐる旅心番傘が明るく過ぎて油の香◆二月八日夕刊「北国柳壇」幻影のほほえみに力する男裏長屋押潰されたやうに低い遠くから見ると血の色美しい嵐に勝って帰た男に妻がゐる風と波の 奮闘に泣く浜の女悲鳴が聞えるやうで聞えない◆二月十八日夕刊「北国柳壇」嫁の姿日に日につつましい狂ひ踊る足へ疲れが纏ひつき夜の寒さ足を伝ってはひ上り目を閉れば物の触合ふ音のする暗さから出ると陽差へ目が眩み飛ぶ方へ止める力は引摺られ◆二月二十二日夕刊「北国柳壇」藁二本縺れからまる強さなり飯の味忘れた男の眼がくぼむ眼へうつる堕落の渕の美しさ階段からもんどり打て下へ落◆二月二十六日夕刊「北国柳壇」驀然に飛び行く力突きあたる生る者へ死は悠然と慌てない死んでも赤の他人は泣ません死の背景生てる者が浮てゐる◆三月十二日夕刊「北国柳壇」もがけばとて只一本の道で有泣く姿陽はさんさんと輝いた真四角の角とれば又角が出来一滴の涙白紙に跡をつけ諦めてから其道を行くときめ◆三月十八日夕刊「北国柳壇」太陽が只一つしか見えません第一線血みどろなのが地へ倒れ地平線それから先は解らない三角の尖がりが持つ力なり舞ひ狂ふ足音に頼る生きる力◆三月十九日夕刊「北国柳壇」魂がふと触れ合った或日です真ン中を覘って矢先に力あり孤独の静けさ軈てさびしかり地球が円く人達は辷ります◆三月二十六日夕刊「北国柳壇」現実と理想に両手引っ張られ育まれた殻を破った力なり沈黙の力大きな音を立て力と力散る火花を空が呑み凍った朝空気を解す車夫の汗◆三月二十七日夕刊「北国柳壇」林のやうに拳が立ってゐる沈黙の侭迫り沈黙にて叫び生きる音遥かに遥か谺する桃割の妓の瞳だけ欲しいです悲しみがゆるむと涙ほとばしり◆四月二十二日夕刊「北国柳壇」白壁に子供のかいた絵がある止り木をシカと掴んで鳴く小鳥誰が死と舞踏をしましたか元の処へ帰って来たのに疲れる◆四月二十八日夕刊「北国柳壇」仏像を爪んで見ると軽かったドン底を踏んで初めて音がする魂が一つに溶けない悩みです一滴づつ雨は瓦に音を立て蒼空へ私がとける春、白砂流れゆく水に瞳を流した日人が居ないと籠の鳥は唄ふ◆五月五日発行『影像』十九号喜多 一児ショーウインド女の瞳が飛び出した暴風と海との恋を見ましたか水平線の上で太陽を立てた日だ大切に抱いてゐるから黙って居やう生と死を車輪の力切りはなし死の背景に生きてるものが浮いてゐる太陽が輝いてゐる奇怪な朝どれだけを舞ふたかは地球も知らず◆六月五日夕刊「北国柳壇」喜多 一児小やかな塔を立てては毀す也淫蕩な空気の中に立って居た悪魔と善魔とは並んで来るちょこちょこと大地を歩く鳥を見よふと水平線から雲が湧いた振返るとパッと首を引込めた◆六月十三日夕刊「北国柳壇」荷車ひきが荷車に追はれ香水買に来た少女は工女です2+2が5である事も有のです兵隊ごっこ男の子等計りです突てゐる奴は後から又突かれ◆七月五日発行『影像』二十一号一児墓石を刻む男がこわかったひょこひょこと大地を歩るく鳥を見よ振り返るととたんに首を引っこめた眼の軽く軽くなるまで嘆きたし延び上る果敢い生が延びるもよい銭呉れと出した掌は黙って大きい◆七月十一日夕刊「北国柳壇」喜多 一児太陽の光を真二つに割る尖端悲しさよ 水と油の恋でした裏となり 表となりて 赤き線剃刀の刃の冷さの上におどれ一遍に灰になる様に死に度い◆七月十二日夕刊「北国柳壇」吐息と歩調を合せたり曲った道で 石ころを 蹴れりひたすらに 巡礼を 見おくる「また会はう」はかなき 契り◆七月二十三日夕刊「北国柳壇」佛さまと呼べど答へなし数珠に手首を締められたり満腹に苦しむ日を慾し舞妓の瞳の中に住みたし子と金と女に狂ひたし金はなくとも首を持ちたりこの宵限りの星を恋せり咽喉の奥にうそをためてる◆八月八日夕刊「北国柳壇」鮒の眼は飯粒だけを見付たり時計の針の影にゐる影電柱が嘆きを緑へ呼びかける掌の中に撒き残された種子取出した金庫の鍵が錆て居た◆八月九日夕刊「北国柳壇」一銭では不服か老巡礼の瞳此の振ぎ一滴の涙ゐたまらず◆八月十五日発行『影像』二十二号一児さんらんの陽を破ったる塔の尖端三角定規の真ン中に住める裏となり表となりて赤き線剃刀の刃の冷たさの上に躍れ白衣など嫌だ私は生きてゐる恋愛と胃病と神経衰弱だ真赤な真赤な血の落書き刃の裏にくっついて冷笑風船玉を売っとる男◆八月二十二日夕刊「北国柳壇」喜多 一児蝉鳴くは夏のおのれの肯定か人形の瞳の閉ぢる時ありやにこやかな朝の心に従はん毒剱をひそめて蜂は花を訪ふ◆『百萬石』五十四号十月号喜多 一児鮒の眼は飯粒だけを見つけたり巡礼の唄華やかな人生なり◆十月六日夕刊「北国柳壇」喜多 一児茲宇宙の果よと星の云得ざる鉄筋の 固さは死んだ侭なりき恋人をしめ殺したく抱すくめ脱れたが抱いた物の色に染み◆十月十三日夕刊「北国柳壇」日暦の桃色の日に死にました地を噛まん夜の海々の白き歯よ◆十月十五日発行『影像』二十三号一児どかと座せば椅子そのものもひた走る凝視の尖端に幸福を漂はす伏す針の鋭き色をひそめ得ずひとときを積木の家の中に居る可憐なる母は私を生みましたレッテルを信じ街々の舞踏する蝉鳴くは夏のおのれの肯定か人なれば白黒の織物肯定す偶然と日本の国に生れ出で神々は赤き部屋ぬちに死ねり死の底に髑髏の破片もなかりけり電柱より蝉鳴くところ無くなりし大の字になって明日へ送られる死の使者よ地上の酒を召し上れカレンダの桃色の日に死にました星降れば古き観念の屋根がもる磁石なく枯野の髑髏に教へらる手をつなぐものなく縦列さへし得ず鉛筆のあと芯の幾倍ぞ地を噛まむ夜の海海の白き歯よ五と五とは十だと書いて死にました飢え果てゝ悲しむ力失せにけり警鐘の赤き響に地のゆるぎ◆十月十六日夕刊「北国柳壇」喜多 一児釈迦と耶蘇の合掌さも似たり磁石なく枯野の髑髏に教らる死と生と衝て詩が湧く生が咲時を追ひ立て煽風器はめぐるレッテルを信じ街街舞踏する◆十月二十日発行『氷原』十六号喜多 一児薄桃色の花の呼吸の乱れたりぴたと閉づ扉に鍵のある哀れ性慾といふ細い掛橋だセカンドの刻みのすきに足を入れ大地迄もんどり打って貴族の死◆十月二十四日夕刊「北国柳壇」喜多 一児蟋蟀とはさみ虫とがふと出会甲虫の首の細さを知り得まい千万年菊の花春の陽を知らず殿堂に神は今日しも留守なりき死の底に髑髏の破片もなか鳧救はれてそれ神仏の意識なし輪を描く願を「幸福」逃失せる◆十一月十二日夕刊「北国柳壇」散る時に嘆く力も失せにけり散るべきを散らすが秋の心也仏像の虚栄は人の虚栄なる芯折れた鉛筆生を秘めてゐる蒼穹と蔵との空間つらなれり秘めたるはただ限りある沈黙◆十二月二十日発行『新興川柳詩集』喜多 一児セカンドの刻みの隙に足を入れ死の底に髑髏の破片もなかりけり暴風と海との恋を見ましたか伏す針の鋭き色をひそめ得ず銭呉れと出した掌は黙って大きい大正十五年篇 一九二六年◆一月二十四日夕刊「北国柳壇」旅人へ吹雪に消えた里程標雪片の土に吸はるる音をきく福村信正兄に泥濘はあなたの涙血と汗と一滴の涙と一粒の白砂と◆二月一日発行『影像』二十五号喜多 一児唖と話せば原始的になる晴れ渡る其の日燕は旅に立ち崖見下ろす王の頭上を白き雲雪片の土に吸はれる音をきく恋人の微笑に髑髏の表情が運命は四十八手を使ひ分けむなしやな音の行衛を見失ひ旅人と吹雪と里程標の先新年試吟純心の赤子二歳に老ひにけり◆二月五日発行『氷原』十七号喜多 一児的を射るその矢は的と共に死す仏像はあはれ虚栄を強いられて警鐘も落つべき日をば知らざりき先に立つ一羽を信じ群れて逃ぐ鳥籠の空間と蒼穹の奥の奥蒼穹の色を信ずるのみでよし◆二月十四日夕刊「北国柳壇」喜多 一二むなしやな音の行方を見失ひフイルムが尽れば白き幕に成残紅の瘠蝶最後までおどる経文へ老僧水洟ぽとりぽとり枯枝に昼の月が死んでる風景◆三月二日夕刊「北国柳壇」セコンドの刻み数ふる声ありき流る水一つの哲理を持たざりき寒竹の春には枯木ばかりなる電線の燕こしらへ物のよな股引に小便をする技巧あり生殖器切り捨度き日もありき仏像を木切と思って食った鼠花の咲く頃気狂ひにした運命猫の眼は遂に闇をば知ず果つ岬晴れて春の渚のひろびろと電線に唸り伝へてあらし過ぐ王冠の宝石と幾万の血の色とふれもせで別れし恋を忍ぶ春合掌をさせて棺へと封じ込み童貞にあれば少女の笑ぞよき影を踏む通りに影も影を踏み便所から出て来た孔雀のよな女枯れ果た様な牡丹に芽の微笑命つぐ呼吸に命刻まるる◆三月五日発行『氷原』十八号喜多 一児枯れ枝に昼の月の死んでゐる風景真理にかびの若芽が生えて来るバットのけむりに幻想の魚が泳ぐ鏡の音のひろごる波は胸に寄す仏像を木にして噛る鼠なり猫の眼はつひに闇をば知らで果て避雷針のねらふ大宇宙の一点触れもせで別れし恋を忍ぶ春唇と唇、電気の味と知らず酔ふ便所から出て来た孔雀の女海鳴りが床の下から背へひびく迷宮の罪にふれて神を言ひ病葉の中にみじめな花の顔過去の背中に運命が笑った◆三月五日発行『影像』二十六号一児星空へキリストの眼と望遠鏡セコンドの刻みを数ふ声ありき凋むべきさだめに張り切ったパラソル五本の指は宿命論者だ円周を早く廻って一等だ死だ去勢してさあ革命を言ひたまへ◆三月十二日夕刊「北国柳壇」喜多 一二泥に住むみみずは泥を食で生妖女は髑髏の首かざりしてバットの煙と幻想の魚およぐ真理にかびの芽生えた奇蹟去勢してサア革命を云ひ玉へ◆三月十七日夕刊「北国柳壇」棒杭と水さようなら左様なら合掌は祈るこころの姿なる蒼空と草の蒼さに染むこころ蚯蚓鳴く只忍びよる夕やみよ◆三月二十日夕刊「北国柳壇」尺八の音ぞ青竹の死の唄よ海鳴りの音絶雪女郎の衣ずれ星空へ基督の眼と望遠鏡去勢してさア革命を云ひ玉へ凋むべき運命に張切パラソル◆三月二十四日夕刊「北国柳壇」血を吸ふて血を吸て死ぬ蛭だ玉の輿に乗るのと棺に乗事と◆四月一日夕刊「北国柳壇」人死して目出度神となり玉ふ花紅、柳緑と太陽の認識大風を飛べども燕流さるる揺るごと梢の星の見えかくれ白雲を千切って風のその行方◆四月五日発行『氷原』十九号喜多 一児日あたり、うっとりと寺男の俗謡塩鮭の口ぱっくりと空を向く尺八の音ぞ青竹の死の唄よ性未だリボンつけたき少女なる草に寝る、草の青さに染む心人類史の頁めくって風窓に逃げ鉛筆の芯幾人の舌にふれ◆四月二十日夕刊「北国柳壇」喜多 一二菩提樹の蔭に釈尊糞たるる宿命の軌道を汽車は煙り吐き人のゐぬ部屋に殻のよな外套春を吸ふ白砂の歓喜に腹這て月澄めりしみじみ語る女慾し骨を噛む小猫の牙にふと怯ゆせせらぎの底の真底に月白き炉火ちらちらと仏説く老人白墨に描ける如く星流る光明の一線の先闇をさすそも虚空東西南北さだめなき瞳を閉ぢて月の歩める音を聞く琴の音をかたへの猫も聞如し絃切れた響き未来へ続きけり敵対す猫の瞳にうつる我れ何物の2に割出せし雄と雌掌にまりの空虚を握り得しニッケルの主観ゆがんだ風景虚無時代、恋、心底に冬眠す◆五月五日発行『氷原』二十号喜多 一児何物の二に割り出せし雄と雌ニッケルの主観ゆがんだ風景フイルムの尽くれば白き幕となり地図描く刹那も怒濤岸を噛む滅無とは非我の認識なりしよなトタン屋根さんらんとして陽の乱舞波、闇に怒るを月に見つけられ万年筆にインクをつめる資本家の工場にニヒリストの煙突寒竹の春には枯木ばかりなる淫売婦共同便所、死、戯場ウインドの都腰巻目をうばひ掌にまりの空虚に握りしめ棒杭と水、さやうなら、さやうなら◆五月五日発行『影像』二十八号一二花紅、柳緑と太陽の認識宿命の軌道を汽車は煙吐きつ骨を噛む仔猫の牙にふとおびゆ音楽家がつんぼになった鐘の音のひろごり二つ遂に触れ眼を閉ぢて月の歩める音を聞く資本主義の工場ニヒリストの煙突虚無時代恋心底に冬眠す神をきく椅子に尾骨のうづきけり光明の一線の先闇を指すニッケルの主観ゆがんだ風景絃切れた響未来へ続きけり流水れ一の哲理を持たざりき敵対す猫の瞳に映るわれ◆六月五日発行『影像』二十九号一二尺蠖のあゆみは時をさしはかり半球の闇を地球は持ち続け神代史男神けものと恋をする角度を圧して樹が倒れる七色を捨てゝ太陽白を秘むレッテルに街掩はれて窒息せむ夜を追ひて新らしき陽の朝の舞ひ芽の双葉まろき虚空を抱き上げる落葉の一転二転無我空無三界のからくり見よや円き窓神様は花火線香をもてあそび流星のあとを拭へる時の手よ死の魚の瞳の底の青き空廻転の速さの極み時、空、絶ゆ蒼ざめたバットの殻の瞳に匂ふ白魚の指にコップの人生観新聞にうつる二十世紀の顔まろ玉を綴れるむすびの傑作猫遂に家族主義者の群に入る◆六月十三日夕刊「北国柳壇」喜多 一二病床に瞑すむくむく死の温み夜と昼を集め無明の闇に帰す尿すれば我夜くまなく尿の音◆六月二十二日夕刊「北国柳壇」理想への軌道人夫のコップ酒糞の上に陽の七色や蠅の羽根尺蠖の歩みは時をさしはかるレッテルに掩はれて街窒息せん落葉の一転二転無我空無月光の矢先をあぶる身の痛さ◆六月二十六日夕刊「北国柳壇」猫遂に家族主義者の群に入る蒼ざめたバットの殻に神を閉づ人肉血の酒卅世紀 カフエー文明の私生児トッカピンニズムあと蚯蚓潜れど知らぬ地の深み註・「トッカピンニズム」のトッカピンは精力強壮剤として売り出されていた売薬名の読み方
鶴彬 「鶴彬全川柳」

...従って間の三次元性を予想することを強要される...   従って空間の三次元性を予想することを強要されるの読み方
戸坂潤 「物理的空間の成立まで」

...広い間です...   広い空間ですの読み方
豊島与志雄 「碑文」

...一面にひろがった魔雲は赤くあやしく輝いている...   空一面にひろがった魔雲は赤くあやしく輝いているの読み方
永井隆 「長崎の鐘」

...真掃除器の話をしたという噂をきいたこともある...   真空掃除器の話をしたという噂をきいたこともあるの読み方
中谷宇吉郎 「捨てる文化」

...雲がに薄暗く被(かぶ)さった時...   雲が空に薄暗く被さった時の読み方
夏目漱石 「行人」

...あの(から)っ尻(けつ)の毛唐が...   あの空っ尻の毛唐がの読み方
野村胡堂 「呪の金剛石」

...蒼味をおびた夜に金色の火花を吹き散らしながら...   蒼味をおびた夜空に金色の火花を吹き散らしながらの読み方
久生十蘭 「ノンシャラン道中記」

...剣を鳴らす夢を描いて思はず腕を挙げてを切ると...   剣を鳴らす夢を描いて思はず腕を挙げて空を切るとの読み方
牧野信一 「武者窓日記」

...がくがくと気を吸おうとしながら...   がくがくと空気を吸おうとしながらの読み方
室生犀星 「香爐を盗む」

...いている席へすぐ坐った...   空いている席へすぐ坐ったの読み方
吉川英治 「新編忠臣蔵」

...身うごきのつかない谷間のの朽木橋に置かれた権之助が...   身うごきのつかない谷間の空の朽木橋に置かれた権之助がの読み方
吉川英治 「宮本武蔵」

...暮れの遲いには尚ほ一抹の微光が一片二片のありとも見えぬ薄雲のなかに美しう宿つて居る...   暮れの遲い空には尚ほ一抹の微光が一片二片のありとも見えぬ薄雲のなかに美しう宿つて居るの読み方
若山牧水 「一家」

「空」の読みかた

「空」の書き方・書き順

いろんなフォントで「空」

「空」の英語の意味

「空なんとか」といえば?   「なんとか空」の一覧  


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第二次性徴   郷士   勇気をふるって  

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