...やや痩せぎすのしなやかさは十六七の娘という方が適当かもしれないが...
有島武郎 「星座」
...馬鍬にとりついて行く男の上半身シヤツ一枚の蟷螂(かまきり)みたいな痩せぎすな恰好はたしかに秀治にちがいなかつた...
伊藤永之介 「押しかけ女房」
...もとは苦勞人だけの垢拔けがしてゐるお豐をもこのヒステリ的な痩せぎすにしたのだと考へる...
岩野泡鳴 「泡鳴五部作」
...そこへ一人の痩せぎすの...
海野十三 「火星兵団」
...其処へ蹣跚(まんさん)と通りかゝつた痩せぎすの和服の酔客を呼び止めて...
谷崎潤一郎 「泉先生と私」
...痩せぎすなブロンドの青年が...
アントン・チェーホフ Anton Chekhov 神西清訳 「決闘」
...側には鉄灰色(てっかいしょく)の頭髪をした痩せぎすな男が...
チェスタートン Chesterton 直木三十五訳 「作男・ゴーの名誉」
...女は痩せぎすな弱(ひよわ)いような体つきで...
徳田秋声 「足迹」
...鼻筋の通った痩せぎすな顔に品があり...
徳田秋声 「仮装人物」
...淋しい痩せぎすな後姿などが...
徳田秋声 「爛」
...丈(たけ)の高い痩せぎすなその姿が...
徳田秋声 「爛」
...痩せぎすの食い辛棒だなんて...
豊島与志雄 「蛸の如きもの」
...三十四五の痩せぎすのちよいと良い男で...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...下さやけき月に風のおと添ひて、虫の音たえ/″\に物がなしき上野へ入りてよりまだ一町もやう/\と思ふに、いかにしたるか車夫はぴつたりと轅(かぢ)を止めて、誠に申かねましたが私はこれで御免を願ひます、代は入りませぬからお下りなすつてと突然(だしぬけ)にいはれて、思ひもかけぬ事なれば阿關は胸をどつきりとさせて、あれお前そんな事を言つては困るではないか、少し急ぎの事でもあり増しは上げやうほどに骨を折つてお呉れ、こんな淋しい處では代りの車も有るまいではないか、それはお前人困らせといふ物、愚圖らずに行つてお呉れと少しふるへて頼むやうに言へば、増しが欲しいと言ふのでは有ませぬ、私からお願ひです何うぞお下りなすつて、最う引くのが厭やに成つたので御座りますと言ふに、夫ではお前加減でも惡るいか、まあ何うしたといふ譯、此處まで挽(ひ)いて來て厭やに成つたでは濟むまいがねと聲に力を入れて車夫を叱れば、御免なさいまし、もう何うでも厭やに成つたのですからとて提燈を持しまゝ不圖脇へのかれて、お前は我まゝの車夫(くるまや)さんだね、夫ならば約定(きめ)の處までとは言ひませぬ、代りのある處まで行つて呉れゝば夫でよし、代はやるほどに何處か邊(そこ)らまで、切めて廣小路までは行つてお呉れと優しい聲にすかす樣にいへば、成るほど若いお方ではあり此淋しい處へおろされては定めしお困りなさりませう、これは私が惡う御座りました、ではお乘せ申ませう、お供を致しませう、嘸お驚きなさりましたろうとて惡者(わる)らしくもなく提燈を持かゆるに、お關もはじめて胸をなで、心丈夫に車夫の顏を見れば二十五六の色黒く、小男の痩せぎす、あ、月に背けたあの顏が誰れやらで有つた、誰れやらに似て居ると人の名も咽元まで轉がりながら、もしやお前さんはと我知らず聲をかけるに、ゑ、と驚いて振あふぐ男、あれお前さんは彼のお方では無いか、私をよもやお忘れはなさるまいと車より濘(すべ)るやうに下りてつく/″\と打まもれば、貴孃(あなた)は齋藤の阿關さん、面目も無い此樣(こん)な姿(なり)で、背後(うしろ)に目が無ければ何の氣もつかずに居ました、夫れでも音聲(ものごゑ)にも心づくべき筈なるに、私は餘程の鈍に成りましたと下を向いて身を恥れば、阿關は頭(つむり)の先より爪先まで眺めていゑ/\私だとて往來で行逢ふた位ではよもや貴君と氣は付きますまい、唯た今の先まで知らぬ他人の車夫さんとのみ思ふて居ましたに御存じないは當然(あたりまへ)、勿體ない事であつたれど知らぬ事なればゆるして下され、まあ何時から此樣な業(こと)して、よく其か弱い身に障りもしませぬか、伯母さんが田舍へ引取られてお出なされて、小川町(をがはまち)のお店をお廢めなされたといふ噂は他處(よそ)ながら聞いても居ましたれど、私も昔しの身でなければ種々(いろ/\)と障る事があつてな、お尋ね申すは更なること手紙あげる事も成ませんかつた、今は何處に家を持つて、お内儀さんも御健勝(おまめ)か、小兒(ちツさい)のも出來てか、今も私は折ふし小川町の勸工場見物(み)に行まする度々、舊のお店がそつくり其儘同じ烟草店の能登(のと)やといふに成つて居まするを、何時通つても覗かれて、あゝ高坂(かうさか)の録(ろく)さんが子供であつたころ、學校の行返(ゆきもど)りに寄つては卷烟草のこぼれを貰ふて、生意氣らしう吸立てた物なれど今は何處に何をして、氣の優しい方なれば此樣な六づかしい世に何のやうの世渡りをしてお出ならうか、夫れも心にかゝりまして、實家へ行く度に御樣子を、もし知つても居るかと聞いては見まするけれど、猿樂町を離れたのは今で五年の前、根つからお便りを聞く縁がなく、何んなにお懷しう御座んしたらうと我身のほどをも忘れて問ひかくれば、男は流れる汗を手拭にぬぐふて、お恥かしい身に落まして今は家と言ふ物も御座りませぬ、寢處は淺草町の安宿、村田といふが二階に轉がつて、氣に向ひた時は今夜のやうに遲くまで挽く事もありまするし、厭やと思へば日がな一日ごろ/\として烟のやうに暮して居まする、貴孃(あなた)は相變らずの美くしさ、奧樣にお成りなされたと聞いた時から夫でも一度は拜む事が出來るか、一生の内に又お言葉を交はす事が出來るかと夢のやうに願ふて居ました、今日までは入用のない命と捨て物に取あつかふて居ましたけれど命があればこその御對面、あゝ宜く私を高坂の録之助と覺えて居て下さりました、辱(かたじけ)なう御座りますと下を向くに、阿關はさめ/″\として誰れも憂き世に一人と思ふて下さるな...
樋口一葉 「十三夜」
...と痩せぎすの友田が手拭で首筋を洗いながら云った...
火野葦平 「糞尿譚」
...宵から正面桟敷にいた痩せぎすの刺っ子を着た侠(いなせ)な頭(かしら)がガラリ楽屋の板戸を開けて入ってきて...
正岡容 「寄席」
...颯爽たる姿を現した痩せぎすの青年は...
吉川英治 「剣難女難」
...ここへ上って来た痩せぎすの美しい小娘だ...
吉川英治 「牢獄の花嫁」
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