...わらくずやペンキ塗りの木の片(きれ)が黄緑色に濁った水面を...
芥川龍之介 「出帆」
...が、あの辺は家々の庭背戸が相応に広く、板塀、裏木戸、生垣の幾曲り、で、根岸の里の雪の卯(う)の花、水の紫陽花(あじさい)の風情はないが、木瓜(ぼけ)、山吹の覗かれる窪地の屋敷町で、そのどこからも、駿河台(するがだい)の濃い樹立の下に、和仏英女学校というのの壁の色が、凩(こがらし)の吹く日も、暖かそうに霞んで見えて、裏表、露地の処々(ところどころ)から、三崎座の女芝居の景気幟(のぼり)が、茜(あかね)、浅黄(あさぎ)、青く、白く、また曇ったり、濁ったり、その日の天気、時々の空の色に、ひらひらと風次第に靡(なび)くが見えたし、場処によると――あすこがもう水道橋――三崎稲荷(いなり)の朱の鳥居が、物干場の草原だの、浅蜊(あさり)、蜆(しじみ)の貝殻の棄てたも交る、空地を通して、その名の岬に立ったように、土手の松に並んで見通された...
泉鏡花 「薄紅梅」
...部屋の隅で二三人が低い濁った声で歌いだした...
梅崎春生 「風宴」
...新堀割の濁った水の色や...
江見水蔭 「死剣と生縄」
...垢(あか)だらけに濁った薬湯(くすりゆ)のような連想を起させるのである...
谷崎潤一郎 「蓼喰う虫」
...霧のような濁った空気に充(み)たされて...
谷崎潤一郎 「秘密」
...黄色く濁った川筋がきらきらと光り狂うのを見て言った...
アントン・チェーホフ Anton Chekhov 神西清訳 「決闘」
...その濁った重々しい執拗(しつよう)な風味を...
ロマン・ローラン Romain Rolland 豊島与志雄訳 「ジャン・クリストフ」
...同じ濁った水が交流しているし...
豊島与志雄 「蛸の如きもの」
...突然濁った黄いろの河水が...
永井荷風 「放水路」
...今日は底から濁った...
夏目漱石 「永日小品」
...うす濁った影のようなものが消え...
久生十蘭 「あなたも私も」
...どんよりと濁った魚のような眼をしている...
久生十蘭 「地底獣国」
...濁った頭とに悩まされて...
トオマス・マン Thomas Mann 実吉捷郎訳 「トリスタン」
...それでこのあたしはどうなるんですえ?」濁った目を見すえて...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...空は淋しく濁った一面の白に感じ...
宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
...そこに濁った様々なものがまつわっていたのも見逃すことは出来ぬ...
柳宗悦 「民藝四十年」
...そんな家庭へ、お人形のように貰われて、そして、伯父の傀儡(かいらい)になって、何の生き甲斐(がい)があるでしょう」「あなたの性格は、ああいう、濁った中に、物質的にだけ生きるには、あまりに清純なんですよ」「清純? ……そんなことばを聞くと、私、怖ろしくなりますわ、いつ、今に、あの伯父が私を黄金の犠牲(にえ)にするか……」「奈都子さん」彼女のうつつな感傷は、いつのまにか、今村の両手の中に、つよくゆすぶられていた...
吉川英治 「かんかん虫は唄う」
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