...薔薇の匂(におい)、砂の湿り、――一切は翼のある天使たちが、「人の女子(おみなご)の美しきを見て、」妻を求めに降(くだ)って来た、古代の日の暮のように平和だった...
芥川龍之介 「神神の微笑」
...少なからず湿々(じめじめ)して居た...
石川啄木 「葬列」
...径もなき木蔭地(こさぢ)の湿りを...
石川啄木 「鳥影」
...湿気と饑餓のただなかのその家から幼児の特権をもって見知らない男を不審そうにながめている...
ソーロー Henry David Thoreau 神吉三郎訳 「森の生活――ウォールデン――」
...朝となく夕方となくろんどんを包む湿気の連続なのだ...
谷譲次 「踊る地平線」
...主人はさらに涙に湿った声をひそめながら...
近松秋江 「霜凍る宵」
...湿布はちゃんとしなくちゃいけませんよ...
徳田秋声 「爛」
...「灰が湿(しめ)っているのか知らん」と女が蚊遣筒を引き寄せて蓋(ふた)をとると...
夏目漱石 「一夜」
...彼は冷たい風の吹き通す土蔵の戸前(とまえ)の湿(しめ)っぽい石の上に腰を掛けて...
夏目漱石 「門」
...湿っぽい不愉快な空気が鼻を衝いて...
野村胡堂 「古銭の謎」
...……いま、有馬の湯できいたばかりなんだが、氷を盗んだとか盗まないとかいう浪人者は、じつは、おなじ割長屋にすんでいる男での……」……家には、ことし十歳になる伜が時疫で熱をだして寝たっきりになっていることから、青地が氷をもらいそこねて逆上し、つまらないことを口走ったてんまつを話してきかせると、部屋じゅうは、急に湿りかえり、なかには鼻汁(はな)をすするやつまでいる...
久生十蘭 「顎十郎捕物帳」
...湿った草を榴弾と砲腔の隙間に固く詰めこんだ...
久生十蘭 「ひどい煙」
...黴臭い湿った空気がどんよりと淀んでいて...
久生十蘭 「魔都」
...湿っぽい廊下――内部(なか)には浅間しい二ツの亡きがらが...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...根がないでしょう? 霧の湿気で生きてるんだそうです...
水野葉舟 「帰途」
...必ずしも低湿を避けず...
柳田國男 「地名の研究」
...強薬(ごうやく)の加減だの湿り弾なども交じっているせいである...
吉川英治 「上杉謙信」
...この山間の冷えやら湿(しつ)やらの不養生には耐え難く」「だまれ」「はっ」「不養生とは何事だ...
吉川英治 「私本太平記」
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