...いったい、どこが不服なんだ」賢夫人も、立ち疲れたとみえて、桃尻になって、しゃがみこみながら、「むかしの、古邸の態(さま)しか浮ばなかったので、たしかに、昨夜は、そう申しましたが、今日、見て歩いているうちに、気持が変ったんです……いずれ、千々子を嫁(かた)づけなくてはならないのですが、あんなバラックから嫁にやって、終生、みじめな思いをさせるより、こんな家(うち)から出してやられたら、千々子にしたって、嬉しくないことはないでしょう……虚栄だとおっしゃるかもしれませんが、嫁にやる娘を持つ母の心は、たいていこうしたものなんです……あなたが無理を押してくだすったので、資産再評価のほうも、未決定のまま、先へのばせるわけですから、庭木のほうで、うんと補償金をとってくだされば、女中ぐらいおいても、やって行けると思うのですが、いかがでしょう」三石田氏は、計算尺と鉛筆を使ってコツコツやらなければ気のすまないほうで、問題を細かく分けて、いくつも小さな答をだすが、賢夫人のほうは、ゆっくりと時間をかけて、頭のなかに数表やグラフを貯めこみ、かれこれと睨みあわせ、充分に練りあげたうえ、大局から判断して、おもむろに、まちがいのない答をだす...
久生十蘭 「我が家の楽園」
...補償の程度も未決定のままにある...
久生十蘭 「我が家の楽園」
...未決定のままに残されたのであった...
ミシェル・エーケム・ド・モンテーニュ Michel Eyquem de Montaigne 関根秀雄訳 「モンテーニュ随想録」
便利!手書き漢字入力検索