...将軍家のお歌は、どれも皆さうでございますが、隠れた意味だの、あて附けだの、そんな下品な御工夫などは一つも無く、すべてただそのお言葉のとほり、それだけの事で、明々白々、それがまたこの世に得がたく尊い所以で、つまりは和歌の妙訣も、ただこの、姿の正しさ、といふ一事に尽きるのではなからうかとさへ、愚かな私も日頃ひそかに案じてゐるのでございますが、あまり出すぎたことを申しあげて、当世の和歌のお名人たちのお叱りを受けてもつまりませぬゆゑ、もうこれ以上は申し上げませぬけれど、とにかく、この箱根ノミウミのお歌なども、人によつては、このお歌にこそ隠された意味がある、将軍家が京都か鎌倉か、朝廷か幕府かと思ひまどつてゐる事を箱根ノミウミに事よせておよみになつたやうでもあり、あるいは例の下司無礼の推量から、御台所さまと、それから或る若い女人といづれにしようか、などとばからしい、いろいろの詮議をなさるお人もあつたやうでございましたが、私たちにはそれが何としても無念で私自身の無智浅学もかへりみず、ついこんな不要の説明も致したくなつてまゐりますやうなわけで、私たちは現に将軍家と共にそのとしの二所詣の途次ふと振りかへつてみたあの箱根の湖は、まことにお歌のままの姿で、生きて心のあるもののやうにたゆたうて居りまして、御一行の人たちひとりのこらず、すぐに気を取り直して発足できかねる思ひの様子に見受けられました、ただ、その思ひだけでございます、見事に将軍家はお歌にお現しになつて居られます...
太宰治 「右大臣実朝」
...實に明々白々なり...
坪井正五郎 「コロボックル風俗考」
...」「その泥と石灰が靴の飾革に見えれば、明々白々...
アーサー・コナン・ドイル Arthur Conan Doyle 加藤朝鳥訳 「橙の種五粒」
...もはや明々白々の事実なのだが...
ドストエーフスキイ 米川正夫訳 「地下生活者の手記」
...図書館の窓が明々と輝いていたり...
豊島与志雄 「鯉」
...平和な幸福な堯舜(げうしゆん)のやうな人民に文明々々と怒鳴つて...
永井荷風 「新歸朝者日記」
...離室の一室だけが明々と灯っておりました...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...明々白々の事実にて候...
ニコライ・ゴーゴリ 平井肇訳 「鼻」
...未(いま)だ明々白々の差引(さしひき)をなさず...
福沢諭吉 「旧藩情」
...禍源は一男子の悪徳に由来すること明々白々なれば...
福沢諭吉 「新女大学」
...明々白地(めいめいはくち)...
正岡子規 「古池の句の弁」
...これで告発者たちの私怨と違法とは明々白々である...
ミシェル・エーケム・ド・モンテーニュ Michel Eyquem de Montaigne 関根秀雄訳 「モンテーニュ随想録」
...仏智としてみれば明々白々のことであるに違いない...
柳宗悦 「民藝四十年」
...これを前の新聞記事や、胎児の夢の論文と一緒に読めば、前述の美少年と美少女を材料とする怪実験が、大正十五年の十月十九日……すなわち今日の正午を期して、空前の成功を告げると同時に、絶後の失敗に終ったという、奇々怪々な精神科学の学理原則の活躍が、明々、歴々と判明して来る...
夢野久作 「ドグラ・マグラ」
...燭の明りがその横顔の情熱を明々と焼いている...
吉川英治 「篝火の女」
...明々白々な足利の叛証が...
吉川英治 「私本太平記」
...明々(あかあか)とまだ燭もかがやいていた...
吉川英治 「新書太閤記」
...明々(あかあか)と町家(ちょうか)の灯が往来を照らしている中を...
吉川英治 「牢獄の花嫁」
便利!手書き漢字入力検索