...憚りながら、御一命をお助けしたと云うのは決して某の過言ではない、今申すような訳でござるが、しかし御辺は、実以て何も御存じないのでござるかと、息を凝らし、膝を詰め寄せてのお話に、兵部殿は返す言葉もなく、暫く呆然としておられましたが、全く以て、存じもよらぬことを承る、何を申すも近頃は外様者(とざまもの)のようなお扱いを受け、左様なことの御相談に携わる暇はござりませねど、それを知らずに過したとあっては如何にも罪は免(まぬか)れられぬ、お上のお憎しみはお道理でござる、此のお詑(わ)びにはこれから精々気を附けて御注進に及びましょうと、お答えなされましたとやら...
谷崎潤一郎 「聞書抄」
...さればと申して、此の城に籠り給うとも、長くは支えきれませぬ、遠巻きにして兵粮攻(ひょうろうぜ)めにでもされたなら、味方の兵共は親類縁者を頼って降参し、止まる者はほんの僅かに過ぎないでござろう、憚りながら、君の御為(た)めを思えばこそ隠さず申し上げるのでござる、我等を措(お)いて誰が斯様なことを正直に申し上げようぞ、そこの道理がお分りになったら、今は躊躇(ちゅうちょ)する場合でござらぬ、とく/\お参りあって然るびょう存じ申すと云うのであった...
谷崎潤一郎 「聞書抄」
...閣下の最も憚りたる西郷党を残滅して...
鳥谷部春汀 「明治人物月旦(抄)」
...いささか憚りがあるとされるならば...
豊島与志雄 「自由人」
...何の憚りもなく好奇心もなく...
豊島与志雄 「土地に還る」
...「六年と申せば、短いようで長い――お嬢様が、十二三から、こんなに御成長遊ばしますまで、ええ、その長い間、何うか、よいところへ御縁のきまるを見てと、それを楽しみに――何も、今更になって、手当だの、暇だのと、それは一期、半期の奉公人のことで、手前は、憚りながら、坊ちゃんに、剣術を教えて頂きますのも、こんな時に、又蔵、こうこうこういう訳だが、どう思う、と、旦那様、一言ぐらい仰しゃって下さっても――」又蔵の涙声が、だんだん顫えて来た...
直木三十五 「南国太平記」
...家業は巾着切でも、小藤次なんかたあ、憚りながら、人間の出来がちがうんだ)庄吉は、三田の薩摩屋敷の方へ、歩くともなく歩いて行った...
直木三十五 「南国太平記」
...彼等の憚りも彼等の恐れも一掃にして拭ひ去るを得べきである...
夏目漱石 「文芸とヒロイツク」
...この節は女の子の相場も高くなったよ」「そんな間抜けなものは要らねえ――憚りながら...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...『憚り乍ら金に絲目は附けねエ――』とやるところでしたが...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...憚りながら天地見通しさ...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...――憚りながらこの道ばかりは...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...憚り乍ら私は考えますのでございます...
浜尾四郎 「殺された天一坊」
...あゝ明日は癒りますると憚りもなく言ひけり...
樋口一葉 「うつせみ」
...するてえと、これはどういうことになるんです」ハッチソンは車に頬杖をついて考え耽っているようだったが、何を思いついたか急に喉声を立てて笑い出し、「それはそうと、印東の旦那、山木の窮命の件ですが、憚りながら、このハッチソンがその結末を洞察してみましょう...
久生十蘭 「魔都」
...予には彼の作中に見るが如き叔父も無く又曾て父母を憚りて我が筆を折らんとしたる事も無し...
水上瀧太郎 「貝殼追放」
...憚りながらこれでも辻駕を担いでまっとうに食ってるんだから...
山本周五郎 「長屋天一坊」
...……憚りながら全鮮五十万の漁民を植え付けて来た三十年間には...
夢野久作 「爆弾太平記」
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