...昔を恨み顔な女――出て来るなら今のうちだよ...
中里介山 「大菩薩峠」
...命長きわれを恨み顔なる年寄の如く見ゆるが...
夏目漱石 「薤露行」
...庭なる美登利はさしのぞいて、ゑゑ不器用なあんな手つきしてどうなる物ぞ、紙縷は婆々縷(ばばより)、藁(わら)しべなんぞ前壺(まへつぼ)に抱かせたとて長もちのする事では無い、それそれ羽織の裾(すそ)が地について泥に成るは御存じ無いか、あれ傘が転がる、あれを畳んで立てかけて置けば好(よ)いにと一々鈍(もど)かしう歯がゆくは思へども、此処に裂(き)れが御座んす、此裂(これ)でおすげなされと呼かくる事もせず、これも立尽して降雨袖に侘(わび)しきを、厭(いと)ひもあへず小隠れて覗(うかが)ひしが、さりとも知らぬ母の親はるかに声を懸けて、火のしの火が熾(おこ)りましたぞえ、この美登利さんは何を遊んでゐる、雨の降るに表へ出ての悪戯(いたづら)は成りませぬ、又この間のやうに風引かうぞと呼立てられるに、はい今行(ゆき)ますと大きく言ひて、その声信如に聞えしを耻(はづ)かしく、胸はわくわくと上気して、どうでも明けられぬ門の際(きわ)にさりとも見過しがたき難義をさまざまの思案尽して、格子の間より手に持つ裂れを物いはず投げ出(いだ)せば、見ぬやうに見て知らず顔を信如のつくるに、ゑゑ例(いつも)の通りの心根と遣(や)る瀬なき思ひを眼に集めて、少し涙の恨み顔、何を憎んでそのやうに無情(つれなき)そぶりは見せらるる、言ひたい事は此方(こなた)にあるを、余りな人とこみ上(あぐ)るほど思ひに迫れど、母親の呼声しばしばなるを侘しく、詮方(せんかた)なさに一ト足二タ足ゑゑ何ぞいの未練くさい、思はく耻かしと身をかへして、かたかたと飛石を伝ひゆくに、信如は今ぞ淋しう見かへれば紅入(べにい)り友仙の雨にぬれて紅葉(もみぢ)の形(かた)のうるはしきが我が足ちかく散(ちり)ぼひたる、そぞろに床(ゆか)しき思ひは有れども、手に取あぐる事をもせず空(むな)しう眺めて憂き思ひあり...
樋口一葉 「たけくらべ」
...なほ俳諧時代に入りても元禄より以前にふぐ干や枯(かれ)なん葱(ねぎ)の恨み顔 子英といふあり...
正岡子規 「墨汁一滴」
...わずかだけさした日光に恨み顔な草の露がきらきらと光っていた...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
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