...いきなり目の前へ梟の腹で鬼火が燃えたやうに怯えたかも知れない...
泉鏡花 「遺稿」
...日頃に似合わず虚無的な影に怯えているらしいことを案じて彼の邸まで送って来たのである...
海野十三 「地球発狂事件」
...青ざめた光の不気味さに怯えつつ...
薄田泣菫 「艸木虫魚」
...怯えきった非科学的な人たちに...
C. スミス C. Smith The Creative CAT 訳 「いえ、いえ、ラゴーフにはもう!」
...犬は怯え切ったようにただクウンクウンと啼いているばかりで...
橘外男 「陰獣トリステサ」
...思いつめた怯えた小犬の表情でヒョイと出て来た...
田中英光 「箱根の山」
...何しろ俺が奴に怯えているところが...
ドストエーフスキイ 神西清訳 「永遠の夫」
...恐怖の怯えを眼にたたえながら...
直木三十五 「南国太平記」
...貧窮に怯えるのも厭だと云ふ心理も...
林芙美子 「瀑布」
...先生に褒められると、後がわりい」「まあ、そう怯えるな...
久生十蘭 「平賀源内捕物帳」
...娘は嵐に怯えた小鳥のように...
久生十蘭 「魔都」
...★怯え落しや癪おさへの呪術(まじなひ)もしてみたが――しかし...
ニコライ・ゴーゴリ Nikolai Vasilievitch Gogoli 平井肇訳 「ディカーニカ近郷夜話 前篇」
...その原因を知るために『怯え落し』をやる――それには先づ錫か蝋を溶かして水の中へ流しこむのだ...
ニコライ・ゴーゴリ Nikolai Vasilievitch Gogoli 平井肇訳 「ディカーニカ近郷夜話 前篇」
...凡そもう何処にも怯えた気色のない堂々たるロビンフツドの徒党であつた...
牧野信一 「南風譜」
...それがミサ子の羞かみ怯える姿になっているのである...
松永延造 「職工と微笑」
...君は――怯えたんだよ――暗やみと...
W・W・ジェイコブズ 森郁夫訳 「井戸」
...怯えたように土間へとびおりると...
山本周五郎 「さぶ」
...その注意はむしろ七十郎自身がしなければならなかったものだろう、そう云おうとしたのだが、さすがに、それは死者への礼でないと思って、話をそらした、「――これまでにも、このことは幾たびとなく話しあって、どうしようもないということは、おまえにもよくわかっていると思うがね」「わかっていることと、絶えまのないこの心配とはべつですわ」とおくみは云った、「夜も昼も、怯えて、かたときも心の休まる暇のないこんなくらしには、あたしはもうとても耐えてゆくことはできません」「よくお聞き」甲斐はなだめるように云った、「おまえは私が闇討ちにされることを恐れている、つまり、私がいつ誰かに殺されるかもしれない、ということで怯えている、そうだね」「国老の職を辞任することはできる筈でしょう」とおくみが云った、「松山さまもいちど、御病気という理由で国老職を辞任なすったことがございます」「私の云うことを聞いてくれ」「いいえ、あたしの申上げることも聞いて下さい」おくみの顔は蒼白(あおじろ)く硬ばり、眼尻がつりあがっていた、「船岡にいらっしゃる帯刀(たてわき)さまはもう二十五におなりです、あなたが国老を辞任なさり、帯刀さまに跡目を譲って御隠居をなすっても、決して早すぎはしません、世間ではごくあたりまえのことではございませんか」「それは、そのとおりだ」「ではなぜ、そうして下さらないんですか」「もういちど訊くが、おまえが心配しているのは私の死ぬことだろう」甲斐は穏やかに微笑しながら云った、「私が誰かに殺されはしないか、という心配で怯えている、たしかに、そのおそれがないとは云わないが、人間は女とひとつ寝をしていて死ぬこともあるんだよ」「あなたはすぐそんなふうに」「いや」と甲斐は静かに首を振った、「これは冗談や軽口ではない、現にあることを云っているんだ、人の死にようはさまざまだ、壮健な若者がはやり病で急死することもあり、おそれ多いが天皇の御子(みこ)も将軍家の姫君も、天下の名医を集めながら平凡な病気で亡くなることがある、狂人の刃にかかる者もあるし、転んで頭を打っただけで死ぬ者もある、私はいちど闇討ちをかけられたが、けがもせずに助かった、もし私に寿命があるなら、幾たび闇討ちをかけられてもやすやすと死ぬことはあるまい、また、もし寿命の尽きるときが来たら、おくみの寝間で死ぬかもしれないだろう」「あなたはそういう方よ」とおくみは眼がしらを押えながら、力のない声で云った、「御自分がそのように割り切っているから、女の気持なんか察して下さろうともしないのでしょう、あなたはそういう薄情な方なんです」「そういうことにして、酒を貰おうかね」と甲斐は明るく云った、「死ぬことを気遣われるより、生きているうち大事にされるほうがいいからね」おくみが立ってゆくと、甲斐はなにを見るともなく、じっと空(くう)をみつめた...
山本周五郎 「樅ノ木は残った」
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