...想像も及ばぬパッションにのたうち回ってうめき悩むあの大海原(おおうなばら)――葉子は失われた楽園を慕い望むイヴのように...
有島武郎 「或る女」
...ここには近代青年の『失われたる青春に関する一片の抒情...
太宰治 「虚構の春」
...さて、少将滋幹の日記に依れば、彼の父翁の老大納言も亦、不浄観を行じようとしたのであって、而も老大納言の場合は、かの失われた鶴、―――声を碧雲(へきうん)の外に断ち、影を明月の中に沈めた佳人(かじん)の艶姿が、いつ迄も眼底を去りやらず、断腸の思いに堪えられないまゝに、その幻(まぼろし)に打ち克(か)とうとして一念発起(ほっき)するに至ったことは明かであって、その夜の父は滋幹を相手に、まず不浄観の説明から始めて、自分は何とかして自分に背(そむ)いた人への恨みと、恋慕の情とを忘れてしまいたい、心の奥に映っているかの人の美貌を払拭(ふっしょく)して、煩悩(ぼんのう)を断ち切ってしまいたい、自分の行為は狂的に見えるかも知れないけれども、自分は今、その修行をしているのである、と、そう語ったのであった...
谷崎潤一郎 「少将滋幹の母」
...最後には自分の肉体感まで失われたこと...
田畑修一郎 「石ころ路」
...何ものか失われたる世界への恐れに充ちた承認であり...
中井正一 「物理的集団的性格」
...今失われた連鎖(ミッシング・リンク)がやって来るところよ」と...
中谷宇吉郎 「イグアノドンの唄」
...「と」「の」などの仮名にあたる二音の別が次第に失われたと見えて...
橋本進吉 「国語音韻の変遷」
...その写真も共に失われた...
堀辰雄 「花を持てる女」
...失われた獄(ひとや)の春………返らぬ命を告げられた毒殺と拷問の死刑台での...
槇村浩 「青春」
...戦争で人命が失われた場合には...
トマス・ロバト・マルサス Thomas Robert Malthus 吉田秀夫訳 「人口論」
...かような観念が失われたとき...
三木清 「人生論ノート」
...自分のためにあそばされた数々の御遺言はどこへ皆失われたものであろうと...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...心の自由が失われたためだと説明して...
柳宗悦 「改めて民藝について」
...何ものか頭の中から失われたものが良くなるという風な具合で...
横光利一 「北京と巴里(覚書)」
...亭主の影の見失われた溝(どぶ)から黒い泥飛沫(どろしぶき)がたかくあがった...
吉川英治 「新・水滸伝」
...外世界の夜に親しんでいた極光が失われた埋め合わせとなったのは疑いない...
H. P. ラヴクラフト H.P.Lovecraft The Creative CAT 訳 「狂気の山脈にて」
...室町時代乃至戦国時代が国家の統一の失われた時代...
和辻哲郎 「鎖国」
...町の平和は失われた...
和辻哲郎 「鎖国」
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