...第七章だらだらと退屈な長の道中のあいだ、寒さや、雪融や、泥濘や、寝ぼけ眼の宿場役人や、うるさい鈴の音や、馬車の修理や、啀みあいや、さては馭者だの、鍛冶屋だの、その他いろんな街道筋の破落戸(ごろつき)どものためにさんざん悩まされた挙句、やっとのことで旅人の眼に、自分を出迎えにこちらへ近寄って来るような、懐かしい我が家の灯影がうつりだす――と、やがて彼の目前には見馴れた部屋々々が現われ、迎えに駈け出した人々の歓声がどっとあがり、子供たちがわいわい騒いで駈けまわる、次いで心もなごむような落着いた話に移るのであるが、それが又、旅の憂さをすっかり忘れさせるような熱い接吻でとぎれ勝ちになる――といった具合だったら、まったく申し分はない...
ニコライ・ゴーゴリ Nikolai Vasilievitch Gogolj(Николай Васильевич Гоголь) 平井肇訳 「死せる魂」
...しかし、こうなると、互いに溶けあう親しさの募りにまかせ、人には云えぬ毒舌も熾んになる癖が出て、捻じあい、絡まり、啀みあい、果てしもなく争った外国での二人であった...
横光利一 「旅愁」
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