...霜の月の影冴えて...
泉鏡花 「歌行燈」
...いいえ、二人はお座敷へ行っている……こっちはお茶がちだから、お節句だというのに、三人のいつもの部屋で寝ました処、枕許が賑(にぎや)かだから、船底を傾けて見ますとね、枕許を走ってる、長い黒髪の、白いきものが、球に乗って、……くるりと廻ったり、うしろへ反ったり、前へ辷(すべ)ったり、あら、大きな蝶が、いくつも、いくつも雪洞(ぼんぼり)の火を啣(くわ)えて踊る、ちらちら紅い袴(はかま)が、と吃驚(びっくり)すると、お囃子が雛壇で、目だの、鼓の手、笛の口が動くと思うと、ああ、遠い高い処、空の座敷で、イヤアと冴えて、太鼓の掛声、それが聞覚えた、京千代ちい姐(ねえ)...
泉鏡花 「開扉一妖帖」
...その荒涼たる人影もない山の端(は)に、磨ぎ澄ましたような物凄い下弦の月が、冴えています...
橘外男 「仁王門」
...小柄な顏は黄色味を帶びて青白く冴え...
谷崎潤一郎 「二月堂の夕」
...松虫の声も冴えてゐる...
種田山頭火 「其中日記」
...神冴え何を思うてみても...
近松秋江 「箱根の山々」
...妙に空気がしみじみと冴えて...
豊島与志雄 「或る女の手記」
...ひっそりしてる中に鳥の鳴声だけが冴えていた...
豊島与志雄 「神棚」
...と思うとたんに眼が冴えた...
豊島与志雄 「変な男」
...「寒月」が皎々と冴え返っている中を歩いて帰ったものだよ...
中谷宇吉郎 「先生を囲る話」
...前者は線の細い、頭の冴えた、幾らか神經質ではあるが、靜かな、温厚な、優しみのある紳士型、後者は線の太い、鋭い恐ろしい凝視力を持つ、進撃的な、意志的な、力強い鬪士型、そこに想像される二人の氣質の相違は必然に文章の相違となつて現れてゐる...
南部修太郎 「氣質と文章」
...頭が冴えて眠付(ねつき)が惡かつた...
正宗白鳥 「入江のほとり」
...そうして刀の冴えや塗料の味わいである...
柳宗悦 「工藝の道」
...神経が一遍に冴え返ってしまって...
夢野久作 「狂人は笑う」
...わしも尾州の徳川万太郎だ、彼が日本の将軍として納まるなら、自分は海を蹴って、羅馬(ローマ)の王座を占めて見せる」夜になると、かれの眼は冴え、心はしきりと磨(と)げました...
吉川英治 「江戸三国志」
...尼の面が驚きに冴えたので...
吉川英治 「私本太平記」
...武蔵は高い梢(こずえ)に冴えている月の相(すがた)が聯想された...
吉川英治 「宮本武蔵」
...谷はいまこの冴えた月のひかりを眞正面(まとも)に浴びて...
若山牧水 「姉妹」
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