...唯(たゞ)、今時分、この門の上で、何(なに)をして居たのだか、それを己に話(はなし)しさへすればいいのだ...
芥川龍之介 「羅生門」
...ところが、この小使部屋へは、方々(ほうぼう)の室から、呼鈴(べる)の電線がつづいているので、その室で呼ぶと、此処(ここ)で電鈴(べる)が鳴って、その室の番号のついてる札が、パタリと引繰返(ひっくりかえ)るという風になっているのだが、何しろ、彼も初めての事なので、薄気味悪(わ)るく、うとうとしていると、最早(もう)夜も大分更(ふ)けて、例の木枯(こがらし)の音が、サラサラ相変らず、聞(きこ)える時、突然に枕許(まくらもと)の上の呼鈴(べる)が、けだだましく鳴出(なりだ)したので、おやおや今時分、何処(どこ)の室から、呼ぶのだろう、面倒臭いことだなどと思いながら、思わず、ひょこり頭を擡(もた)げて、それを見上げると、こは如何(いか)に、その札の引繰返(ひっくりかえ)っているのは、正(まさ)しく人も居ない死体室からなので、慄然(ぞっ)としたが、無稽無稽(ばかばか)しいと思って、恐々(こわごわ)床(とこ)へ入るとまたしきりそれが鳴り出して、パタリと死体室の札が返るのだ...
岩村透 「死体室」
...恰(ちやう)ど今時分月が瀬の梅を見に出掛けた事があつた...
薄田泣菫 「茶話」
...「やあ」と塚本は、手は休めずに眼で頷(うなず)いたが、日が暮れぬ間に仕事を片附けてしまおうと、畳へきゅッと針を刺し込んでは抜き取りながら、「今時分、何処へ行きはりまんね?」「別に何処へも行かしまへん...
谷崎潤一郎 「猫と庄造と二人のおんな」
...大抵なら今時分は暖かく床に眠つてゐる頃なのに...
田山録弥 「脱却の工夫」
...毎日毎日心の中ではあの人は今時分はどこにどないしておいやすやろ思うて気にかかっていたのやいうてはります...
近松秋江 「霜凍る宵」
...派出所の巡査は入口に立ったまま、「今時分、何処から来たんだ...
永井荷風 「※[#「さんずい+(壥−土へん−厂)」、第3水準1-87-25]東綺譚」
...なんだって今時分...
中里介山 「大菩薩峠」
...今時分、何のために、どこへ使を出したのか、解(げ)せないことである...
中里介山 「大菩薩峠」
...姉 今時分誰か知ら...
新美南吉 「ラムプの夜」
...夏でもない今時分余程の物好きでなければ夜十時前後に車をとばせる者はありませぬ...
浜尾四郎 「死者の権利」
...」「今時分何か用でもあるのかね...
ブロンテイ 十一谷義三郎訳 「ジエィン・エア」
...今時分からそんなものを持つて来やがる!」滝は...
牧野信一 「籔のほとり」
...季節は丁度今時分で...
正宗白鳥 「月を見ながら」
...今時分はかなり立派な商売人として...
トオマス・マン Thomas Mann 実吉捷郎訳 「道化者」
...「お前どうして今時分こんなところへ来ているのか?」娘は父親のそばへ来て...
室生犀星 「みずうみ」
...今時分仲間はどうしてゐるだらう...
コロレンコ Vladimir Galaktionovick Korolenko 森林太郎訳 「樺太脱獄記」
...「また今時分、どこへ出て行こうとするつもりか」「ヨハン」きっと、榎(えのき)の下を振顧(ふりかえ)って、お蝶はしばらく立ち竦(すく)みましたが、さっき父のいったことばが思い出されると共に、「ヨハン!」むらむらとして、石牢の前へ馳けよりました...
吉川英治 「江戸三国志」
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