...その文句に耳を傾けていますと、それ人間のさかいを聞けば、閻浮(えんぶ)の衆生は命不定(みょうふじょう)なりとは申せども、成人するまで親に添う人の子多く候ものを、如何なる宿執の報いに依って、我等三歳の時父には生きての別れ、母には死しての別れとなりぬらん、今は早や頼む方なくなり果てゝ迷いの心は晴るゝ日もなく、思いの煙は胸を焦がし、悲しみの涙乾く間もなし、我が身のようなる人しあらば、憂いの道を語り慰むすべもあるべきに、まどろむ隙もなき程に夢にだにも逢い奉らず、身に添うものはあるかなきかのかげろうばかり、僅か三日を過したるだに思いは千年萬年を暮らすに似たり、ましてや行く末の悲しきことはいかばかりぞや、露の命、幾秋をか保つべきとも覚え候わず、かように孤児となり果てんよりは、たゞ願わくは、我等二人をあわれみ給い母諸共に一つ蓮のうてなに迎え給え、と、そう書いてある後に、こざかしくも年号や日附までも記して、奥に下のような歌が添えてあるのです...
谷崎潤一郎 「三人法師」
...「いかゞでございましょう? お忙しいところを御迷惑ではございましょうが...
谷崎潤一郎 「蘿洞先生」
...筍粥にしていたゞく...
種田山頭火 「旅日記」
...つゞいて私の心はさうして遠くに行く夫妻のことでまた暫し満たされた...
田山録弥 「北京の一夜」
...舟のかゞりに網(あみ)よりも...
永井荷風 「すみだ川」
...遠く/\の空間に漂(たゞよ)ひ消えて行く有様が...
永井荷風 「黄昏の地中海」
...家賃(やちん)でも滯(とゞこほ)つた日(ひ)にや...
長塚節 「土」
...茶釜(ちやがま)がちう/\と少(すこ)し響(ひゞき)を立(た)てゝ鳴(な)り出(だ)した時(とき)卯平(うへい)は乾(ひから)びたやうに感(かん)じて居(ゐ)た喉(のど)を濕(うるほ)さうとして懶(だる)い臀(しり)を少(すこ)し起(おこ)して膳(ぜん)の上(うへ)の茶碗(ちやわん)へ手(て)を伸(のば)した...
長塚節 「土」
...どうせ唯(たゞ)の鼠(ねずみ)ぢやあるめえ」「御守殿(ごしゆでん)のお茂與(もよ)を親分知りませんか」「何? 御守殿お茂與? あれが御守殿のお茂與の化けたのか...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...たゞ無闇(むやみ)に金(きん)を使(つか)つた趣味(しゆみ)の低(ひく)い品物(しなもの)といふ外(ほか)はないのです...
濱田青陵 「博物館」
...たゞ常緑樹(じようりよくじゆ)のすぎやひのきの木(き)だけが黒(くろ)ずんだ葉(は)をつけたまゝ暖(あたゝ)かい春(はる)の日(ひ)が再(ふたゝ)び廻(まは)つてくるのを待(ま)つてゐます...
本多靜六 「森林と樹木と動物」
...都合に依つては自分だけ滝本の許に幾月でもとゞまつても差支へないといふ話であつた...
牧野信一 「南風譜」
...もう私の声は柚太へはとゞかなかつた...
牧野信一 「剥製」
...ゆく人のさゞめきばかりだつた...
牧野信一 「陽に酔つた風景」
...唯誰かゞ今まで蔭になつてゐた事をあかるみへ出して盛んに發揮するから不思議に見えるに過ぎない...
森林太郎 「混沌」
...啻(たゞ)誠実であつたのみでなく...
森鴎外 「椙原品」
...主權の所在が變つたか否かゞ問題となる...
山浦貫一 「新憲法の解説」
...彼等はやはり全速力で航行をつゞけた...
ピエル・ロチ Pierre Loti 吉江喬松訳 「氷島の漁夫」
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