...可(か)なりむつかしい仕事だからね...
江戸川乱歩 「疑惑」
...とりわけ学者が気むつかしい顔をしてゐる隣りの室(へや)でする盗み食はまた格別のものである...
薄田泣菫 「茶話」
...それでも何かの工合で、ひよつと彼女の表情にも寂しい翳(かげ)のさすことがある、酔つ払ひの声に女の嬌笑(けうせう)がいりみだれてゐ、おしげ自身もいい気になつてお銚子の代りを取りに立つと、ふと料理場の入口でおきよが青白いまでに哀しげな風にこちらの賑かさを見てゐるのだ、何かにつき当つたやうに、おしげははつとしたがその時はもう、おきよはいつもの自分を恃(たの)んだうそぶいた冷さに戻つてゐた、どうかしてもう一度人気をとり戻したいと焦つてゐるのは、気を変へたやうに愛嬌をつくつて客席へ出て行くのでも察しられた、もしも、彼女に幾分気があつたが、相手にされないのでいつか遠ざかつてゐた昔馴染(むかしなじみ)の客がなつかしげに現れたりすると、彼女はすつかり勢づいて声をはずませるのであつた、まア、おめづらしい、と以前はそんなにべたべたしなかつたであらうに、側へくつついて、やつぱり忘れないで来てくれたのねえと、大声で誰の耳にも聞えるやうに、ほら、あの人はどうした、いつも一人でべらべらしやべつて私たちを大笑ひさせてさ、そのくせ、自分はちつともをかしくないつて風で、散々笑はせたあとは、むつつりと苦が虫を噛みつぶしてゐた人さ、なぞと知人をあげて消息をたづねたりした、私にラヴレター呉れた、足の悪い絵の先生だつた人もゐたぢやないの、とわざとしつこく云つたりした、ああ、あれか、あいつは、なぞとその男も答へながら、家の中を見廻して、「たむら」も随分変つたぢやないかと懐旧の念にたへがたさうにすると、調子づいて、ええ、ほんとにねえ、すつかり下卑(げび)て了つたでせう、もとの方がいいんだけど、何だかかうしなければ、大衆的にしないと人が寄りつかないんですつて、だから、お父つあんの頃とは方針、むつかしいわね、経営方針が変更したのよ、田舎者(ゐなかもの)が増えるばかりだからねえ、と言葉を合せるのが習慣になつてゐた、さうしたお客も永くはおきよに興味をつないでゐないのもまた、例になつて了つた、おや、あれはとしちやんぢやないかと、おきよの容貌があまり汚くなつてゐるのに、こんな女にのぼせてゐたのかと白々しくさめる気持を味ひつつ、ふと他のテーブルの客とむだ話してゐる妹娘に眼をとめて云ふ、さうよ、大きくなつたでせうと、おきよも仕方なく、ちよつと振向いて、若い彼女をねたましく思ふ、彼女の馴染客はさうかねえ、まだ小学校の洋服を着てよくここへ出ては、僕に宿題の算術を教へてくれなんて云ったものだが、とし坊、ここへ来ないかと、もうおきよをさし置いて、おしげと同い年の妹の生毛立つた清潔な美しさに誘はれたりした、それが一度や二度のことではなく、おとしでなければ、ほうあれが若旦那のかみさんとあるひはおつね、ある場合は、なかなか浅草つ子ぢやないか、あの気持がうれしいなぞとおしげにと、客は心を移して行つた、おきよはとり残され、孤独のためにひがみが募つてひとの客を奪(と)るなんて、そんなことまだ浅草ぢや聞かないよと喚(わめ)くやうになつたのだ...
武田麟太郎 「一の酉」
...三洞仮寓うらは椿の落ちたままむつかしい因数分解の...
種田山頭火 「道中記」
...この間からえらい病気でむつかしい言うて息子はんたち心配してはりますところへ...
近松秋江 「狂乱」
...バイオリンやセロをひいてよい音を出すのはなかなかむつかしいものである...
寺田寅彦 「「手首」の問題」
...」「それがね、むつかしいんだ...
豊島与志雄 「春」
...実験が非常にむつかしい...
中谷宇吉郎 「アラスカの氷河」
...そして「世の中で一番むつかしいことは...
中谷宇吉郎 「牧野伸顕伯の思い出」
...ついでに下手人を挙げてやっておくんなさい」「それはむつかしい...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...むつかしい事なんか考えちゃいない...
林芙美子 「新版 放浪記」
...むつかしい、苦しいこの一戦!ただ、僕の気強く思うのは、しばらく姿を見せなかった木下大佐の昭和遊撃隊が、戦場の南、百浬のところを、北へ北へと、いそいでいることである...
平田晋策 「昭和遊撃隊」
...むつかしい見方をせずに...
牧野富太郎 「植物一日一題」
...子供たちは我知らず叫ぶでしょう? 叫ばないでいるというのはむつかしいわ...
宮本百合子 「獄中への手紙」
...そこに混同混乱を避けることはなかなかむつかしい...
ミシェル・エーケム・ド・モンテーニュ Michel Eyquem de Montaigne 関根秀雄訳 「モンテーニュ随想録」
...(a)ではこのむつかしい問題にあたって...
ミシェル・エーケム・ド・モンテーニュ Michel Eyquem de Montaigne 関根秀雄訳 「モンテーニュ随想録」
...中間にむつかしい漢語を入れてきかせるのはまったく無茶な話である...
柳田国男 「故郷七十年」
...どんなにむつかしいかを知った...
ルナアル Jules Renard 岸田国士訳 「ぶどう畑のぶどう作り」
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