...それまでは何一つ御失態もなく、故右大将家の頃から、それこそコツンと音のするほど生真面目に御主人大事に勤めて来られたお方のやうで、これは古老から聞いたお話でございますが、故右大将家御壮年の頃、その嬖姫の事から御台所の政子さまとごたごたが起り、御台所は牧のお方の御父、牧三郎宗親さまにお言ひつけになり、姫の寄寓して居られる家をどしどし取毀させてしまつたので姫は驚き、大多和義久とかいふ人のお家へ逃げて行かれて、その時には右大将家も御自身のお立場があまり有利ではございませんでしたので黙つて何事もおつしやらず、やがて、御用事にかこつけなされて、何気ないお顔で義久のお宅へ姫をお見舞ひにおいでになり、ただちに牧の宗親さまをお召しになつて、なぜあのやうな乱暴を働いたか、ばか者め、と大いに罵倒なされ、むずと宗親さまの髻をお掴みになり、お刀でその髻を切り落して坊主にしておしまひになりましたさうで、そのお噂が御台所のお耳にはひつて御台所はいよいよ怒りかつは泣き、牧のお方まで、共にわめきなされ、御台所の父君の時政公も、娘たちには同情したいが、将軍家にも恐縮ですし、閉口し切つて、右大将家には何も告げずに一族を連れて北条の里へ帰つておしまひになつて、その時、右大将家は梶原の景季さまに向つておつしやるには、たかが婦女子の事から一族を引き連れてその里に帰り謹慎するなどとは、時政も大袈裟な男だ、けれども江馬だけはあの一族でもそんな馬鹿な事はしない、父に従はず鎌倉の家にひとり残つてゐるにちがひないから見て来なさい、とおつしやつたとか...
太宰治 「右大臣実朝」
...「このばか者、よく見るのだよ、お前さんの好きな野狐を見せてやる」それは主婦の声であった...
田中貢太郎 「蟇の血」
...どこかのばか者がやって来れば...
ドストエーフスキイ 中山省三郎訳 「カラマゾフの兄弟」
...「どうやら貴様は大ばか者らしいぞ...
ドストエーフスキイ 中山省三郎訳 「カラマゾフの兄弟」
...」私はそのばか者に返事するのもくだらないはずだったが...
ユゴー・ヴィクトル Hugo Victor 豊島与志雄訳 「死刑囚最後の日」
...そんなばか者にそだててはゐません...
豊島与志雄 「太一の靴は世界一」
...私はばか者で、一向理屈はわかりません...
ビクトル・ユーゴー Victor Hugo 豊島与志雄訳 「レ・ミゼラブル」
...ばか者たちははじめて見た獅子の毛――それもたぶん間違ひなのだらうが――に見とれてなにひとつおぼえてゐはしない...
中勘助 「銀の匙」
...ばか者か子供みたいにふるまった自分を恥じ...
アルジャナン・ブラックウッド 森郁夫訳 「秘密礼拜式」
...「ばか者ども」老人は立停った...
山本周五郎 「似而非物語」
...兵庫介は泣いていた、「ばかなことをした、おれはばか者だ、ゆるしてくれ野中」「歩けるか」又五郎は彼を支えながら立たせた...
山本周五郎 「樅ノ木は残った」
...本当に取交わしたようすか」「それはまだはっきりわかりません」「ばか者...
山本周五郎 「樅ノ木は残った」
...「このばか者、落馬ではない、二ノ矢を避けるために下馬(げば)したのだ」――矢ではございませんか...
山本周五郎 「樅ノ木は残った」
...馬謖(ばしょく)のばか者」と...
吉川英治 「三国志」
...「ばか者を捕えろ」と...
吉川英治 「新書太閤記」
...「おいたわしい」と、性善坊は、範宴のかわりに、水を汲んだり、拭き掃除をしようとしたが、他の僧に見つかると、「ばか者、なんで寺へ入れた」といわれる...
吉川英治 「親鸞」
...仇(あだ)をしよう腹だろうが! ば! ばか者奴ッ」「うーむ……」と百助...
吉川英治 「増長天王」
...「ばか者ッ」と、そんな時、加山耀蔵は思わず腹の底から呶鳴りつけた...
吉川英治 「牢獄の花嫁」
便利!手書き漢字入力検索