...こちらは涙がこぼれるのを防ぐ爲め眼をつぶつてゐるので見えなかつた...
岩野泡鳴 「泡鳴五部作」
...夜更けて松の葉のこぼれるのが雨の音に似てゐるからの事で...
薄田泣菫 「茶話」
...あふれこぼれる熱い湯にひたつてゐると...
種田山頭火 「其中日記」
...友情が身心に泌(マヽ)み入つて涙がこぼれる...
種田山頭火 「其中日記」
...「わしにとってはな」と、彼は自分の好きな話題に移ると同時に、まるで一時に酔いがさめてしまったように、ひどく元気づいてきた、「わしはな……こんなことを言っても、おまえらのような子豚同然なねんねにはわかるまいが、わしにはな……これまでの一生を通じて、女に会って見苦しいと思うことはなかったよ、これがわしの原則でなあ! 全体、おまえらにこれがわかるかしらん? どうして、どうして、おまえらにこれがわかってなるものか! おまえらの体内には血の代わりに、まだ乳が流れておるのだ、まだ殻(から)が脱けきらんのだ! わしの原則によるとな、どんな女の中にも、けっして他の男には見つからんような、すこぶる、そのおもしろいところが見つけ出せる――だが、自分で見つけ出す眼がなくてはならん、そこが肝心だ! 何よりも手腕だよ! わしにとってはぶきりょうな女というものがないのだ、女であることが、もう興味の半ばをなしておるのだよ、いや、こんなことはおまえたちにわかるはずがないて! 老嬢などという手合いの中からでも世間のばか者どもはどうしてこれに気がつかずに、むざむざ年を食わしてしまったのかと、驚くようなところを捜し出すことがときどきあるのだよ、はだし女やすべたには、初手にまずびっくりさせてやるのだ――これがこういう手合いに取りかかる秘訣(ひけつ)なのさ、おまえは知らないかい? こういう手合いには、まあ、わたしのような卑しい女を、こんな立派な旦那様(だんなさま)が、と思って、はっとして嬉しいやらはずかしいやらで、ぼうとした気持にしてしまわにゃいかんて、いつも召し使いに主人があるように、いつもこんなげす女にれっきとした旦那がついてるなんて、うまくできておるじゃないか、人生の幸福に必要なのは全くこれなんだよ! ああそうだ!……なあアリョーシャ、わしは亡くなったおまえのおふくろをいつもびっくりさせてやったものだよ、もっとも、別なやり方ではあったがね、ふだんは、どうして、甘いことばひとつかけることじゃなかったが、ちょうどころあいを見はからってはだしぬけに精一杯ちやほやして、あれの前で膝(ひざ)を突いてはいずり回ったり、あれの足を接吻したりして、あげくの果てには、いつでも、いつでも――ああ、わしはまるでつい今しがたのことのように覚えておるが、きっとあれを笑い転げさしてしまったものだよ、その小さい笑い方が一種特別で、こぼれるような、透き通った、高くないが、神経的なやつさ、あれはそんな笑い方しかしなかったんだよ、そんな時は決まって病気の起こる前で、あくる日はいつも、憑(つ)かれた女になってわめきだす始末だ、だから今の細い笑い声もけっして嬉しさの現われではなく、こちらは一杯食わされたことになるのだけれど、それでもまあ嬉しいには違いないさ、どんなものの中からでも特別な興味を捜し出すっていうのは、つまりこれなんだよ! あるときベリャーフスキイのやつが――そのころそういう金持ちの好男子がこの町に住んでいて、あれをつけ回して、家へもよくやって来おったので――そいつが不意に、何かのはずみで、わしの頬桁(ほおげた)を、それもあれの面前で、なぐりつけやがったのだ、すると、あの牝羊みたいな女が、この頬桁一件のために、このわしをひっぱたきかねないばかりのけんまくで食ってかかったのさ、『あなたは今ぶたれましたね、ぶたれましたね、あんな男に頬ぺたをぶたれるなんて! あなたはわたしをあの男に売り渡そうとしてらっしゃるのでしょう……ほんとに、よくもわたしの眼の前であなたをぶったものだ! もうもうけっして、二度とわたしのそばへ寄せつけやしない! さあすぐに追っ駆けて行って、あの男に決闘を申しこんでください』……そこでわしは、あれの心を静めるために、お寺へ連れて行って、坊さんがたに御祈祷(ごきとう)をしてもらったよ、しかし、アリョーシャ、神かけてわしはあの『憑かれた女』を侮辱したためしはないよ! いや、一度、たった一度きりある...
ドストエーフスキイ 中山省三郎訳 「カラマゾフの兄弟」
...厚切りの羊羹(ようかん)とこぼれるばかりの愛嬌とを一緒に持って来ました...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...煮えこぼれるやうな憤懣(ふんまん)を感じて居るのです...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...大つぶの雫(しずく)がこぼれるのを見た...
長谷川時雨 「江木欣々女史」
...こぼれる程ゐやしたな……おれは子供心にもこつちのお母さなとが御年始に來てくれる時なぞ...
水野仙子 「醉ひたる商人」
...院のお涙のこぼれるのを見る女房たちは...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...それだけで色気たっぷりのこぼれる景色のものであった...
室生犀星 「舌を噛み切った女」
...晴れた座敷へこぼれる日ざしに...
室生犀星 「童子」
...「酒がこぼれるばかりだぜ」十兵衛の荒い息が聞えた...
山本周五郎 「あだこ」
...散りこぼれるうす紅の葩が溢れる水にくるくると舞いやがて井桁の口から流れ落ちてゆく...
山本周五郎 「日本婦道記」
...女はにっとこぼれるように笑った...
山本周五郎 「風流太平記」
...また血がこぼれる……」ドカンと...
吉川英治 「鳴門秘帖」
...チョロチョロと温泉(ゆ)が湧きこぼれる音のほか別に人気(ひとけ)もないらしいので...
吉川英治 「鳴門秘帖」
...酒がこぼれる」握られた手の杯を...
吉川英治 「宮本武蔵」
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