...カラン、コロンが直(じ)き其処にきこえたと思いましたのが、実はその何とも寂然(しん)とした月夜なので、遠くから響いたので、御本体は遥(はるか)に遠い、お渡りに手間が取れます、寒さは寒し、さあ、そうなりますと、がっがっごうごうという滝の音ともろともに、ぶるぶるがたがたと、ふるえがとまらなかったのでございますが、話のようで、飛んでもない、何、あなた、ここに月明(つきあかり)に一人、橋に噛りついた男が居るのに、そのカラコロの調子一つ乱さないで、やがて澄(すま)して通過(とおりす)ぎますのを、さあ、鬼か、魔か、と事も大層に聞こえましょうけれども、まったく、そんな気がいたしましてな、千鈞(せんきん)の重さで、すくんだ頸首(くび)へ獅噛(しが)みついて離れようとしません、世間様へお附合ばかり少々櫛目を入れましたこの素頭(すあたま)を捻向(ねじむ)けて見ました処が、何と拍子ぬけにも何にも、銀杏返(いちょうがえし)の中背の若い婦で……娘でございますよ、妙齢の――姉さん、姉さん――私は此方が肝を冷しましただけ、余りに対手(あいて)の澄して行くのに、口惜くなって、――今時分一人で何処へ行きなさる、――いいえ、あの、網代へ皈(かえ)るんでございますと言います、農家の娘で、野良仕事の手伝を済ました晩過ぎてから、裁縫のお稽古に熱海まで通うんだとまた申します、痩せた按摩だが、大の男だ、それがさ、活きた心地はなかった、というのに、お前さん、いい度胸だ、よく可怖(こわ)くないね、といいますとな、おっかさんに聞きました、簪(かんざし)を逆手に取れば、婦は何にも可恐(こわ)くはないと、いたずらをする奴の目の球を狙うんだって、キラリと、それ、ああ、危い、この上目を狙われて堪(たま)るもんでございますか、もう片手に抜いて持っていたでございますよ、串戯(じょうだん)じゃありません、裁縫がえりの網代の娘と分っても、そのうつくしい顔といい容子(ようす)といい、月夜の真夜中、折からと申し……といって揉み分けながらその聞手(ききて)の糸七の背筋へ頭を下げた...
泉鏡花 「遺稿」
...さすがは明智の片腕といわれるほどあって、いい度胸だ...
江戸川乱歩 「怪人二十面相」
...もう手遅れだと言いたいのか」「いい度胸...
高見順 「いやな感じ」
...「先生、いい度胸だね...
太宰治 「ヴィヨンの妻」
...いい度胸(どきょう)さ...
富田常雄 「刺青」
...いい度胸です...
中里介山 「大菩薩峠」
...ちょっといい度胸である...
中谷宇吉郎 「異魚」
...何分、いい度胸だよ...
葉山嘉樹 「乳色の靄」
...いい度胸だってんで感服してるんです」一〇...
久生十蘭 「ノンシャラン道中記」
...いい度胸だ」「雇われているんだったら...
フレッド・M・ホワイト Fred M. White 奥増夫訳 「本命馬」
...いい度胸をしています」「全くえらいよ...
フレッド・M・ホワイト Fred M. White 奥増夫訳 「煉獄」
...短刀は怖くねぇのか」「ねぇ!」「ウムいい度胸だ」ニンマリ笑って...
正岡容 「艶色落語講談鑑賞」
...「へえ、いい度胸だ...
山川方夫 「その一年」
...実にサッパリしたいい度胸だったが...
夢野久作 「近眼芸妓と迷宮事件」
...いい度胸だったかも知れないが...
夢野久作 「焦点を合せる」
...寝ていたらしい」「いい度胸だの...
吉川英治 「大岡越前」
...「いい度胸だなあ...
吉川英治 「大岡越前」
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