...台所で、何もせずに、ただのっそりつっ立っている姿を、私はよく見かけたものであるが、子供心にも、うすみっともなく、妙に疳(かん)にさわって、おい、お慶、日は短いのだぞ、などと大人びた、いま思っても脊筋(せすじ)の寒くなるような非道の言葉を投げつけて、それで足りずに一度はお慶をよびつけ、私の絵本の観兵式の何百人となくうようよしている兵隊、馬に乗っている者もあり、旗持っている者もあり、銃担(にな)っている者もあり、そのひとりひとりの兵隊の形を鋏(はさみ)でもって切り抜かせ、不器用なお慶は、朝から昼飯も食わず日暮頃までかかって、やっと三十人くらい、それも大将の鬚(ひげ)を片方切り落したり、銃持つ兵隊の手を、熊(くま)の手みたいに恐ろしく大きく切り抜いたり、そうしていちいち私に怒鳴られ、夏のころであった、お慶は汗かきなので、切り抜かれた兵隊たちはみんな、お慶の手の汗で、びしょびしょ濡(ぬ)れて、私は遂(つい)に癇癪(かんしゃく)をおこし、お慶を蹴(け)った...
太宰治 「黄金風景」
...ちょっと見ぬ間に非常に大人びた女生徒の田原ひでがにこにこと笑って立っていた...
田山花袋 「田舎教師」
...」主婦(かみさん)は帳場のところへ来てお辞儀をするお庄のめっきり大人びたような様子を見ながら訊いた...
徳田秋声 「足迹」
...二十二にしては大人びたような口の利き方をした...
徳田秋声 「黴」
...前者が現代文壇に於ける最も大人びた信頼のおける理論的文芸評論家であることを誰しも認めるだろう...
戸坂潤 「文芸評論の方法について」
...オリヴィエはつとめて大人びた態度をして...
ロマン・ローラン Romain Rolland 豊島与志雄訳 「ジャン・クリストフ」
...憂鬱な顔をしたり大人びた言葉使いをしたりするのは...
豊島与志雄 「同胞」
...静子は内気な弱々しい大人びた娘であったが...
豊島与志雄 「人間繁栄」
...大人びた物いいで...
林芙美子 「泣虫小僧」
...急に鶴は大人びた顔つきになって...
久生十蘭 「金狼」
...いたく大人びたやうな感じがした...
正岡子規 「病牀六尺」
...帝は御年齢の割に大人びた聡明(そうめい)な方であって...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...もうそんなに大人びた恋愛などのできるようになったかとかわいくお思われにならないでもなかった...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...わりと柄も似合うわ」そんなふうに大人びたことを云った...
山本周五郎 「桑の木物語」
...いや風采といい大人びた態度など十も年上に覚えられる...
吉川英治 「私本太平記」
...仏心の何のというそんな大人びた情や智でなく...
吉川英治 「私本太平記」
...大人びた豪傑気どりを持っていたものでおざったが...
吉川英治 「親鸞」
...例の大人びた高慢顔で...
吉川英治 「宮本武蔵」
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