...さりとてこんなところにぐずぐずしているわけにもいかない...
海野十三 「火薬船」
...さりとて百両といえば少からぬ金額...
太宰治 「新釈諸国噺」
...さりとてこれをこのまま...
橘外男 「ウニデス潮流の彼方」
...午後、晴れて寒い風が吹く、何となく物足らないので、樹明君を招いて一杯やりたいと思ひついたので、湯屋まで出かけた途次、顔馴染の酒屋へ寄つて、一升借入の交渉を試みたが、不調に終つた、私は断られて腹を立てるほど没常識ではないが、さりとて、借りそこねて平然たるほど没感情的でもない、貸して貰つた方がうれしかつたのが本当だ、とにかく酒一升借るだけの銭も信用もないのは事実だつた!だいたい、掛で飲まうなどゝいふ心得は褒めたものぢやないね、もつと物に執する心持を捨てなければなるまいて...
種田山頭火 「其中日記」
...以つて大に自由党の感情を破りたりと雖もさりとて自由党と全く関係を絶てりと謂ふ可からざるは無論なり...
鳥谷部春汀 「明治人物月旦(抄)」
...さりとてマブーフ氏を救うものともならなかった...
ビクトル・ユーゴー Victor Hugo 豊島与志雄訳 「レ・ミゼラブル」
...さりとて焦(せ)き立つ気色(けしき)も見えないで...
中里介山 「大菩薩峠」
...さりとてここでその品物の名を挙げて...
中里介山 「大菩薩峠」
...江戸で三井、鹿島、尾張屋、白木、大丸といったような、大阪で鴻池(こうのいけ)、炭屋、加島屋、平野屋、住友――京の下村、島田――出羽で本間、薩摩で港屋、周防(すおう)の磯部、伊勢の三井、小津、長谷川、名古屋の伊東、紀州の浜中、筑前の大賀、熊本の吉文字屋――北は津軽の吉尾、松前の安武より、南は平戸の増富らに至るまでの分限(ぶげん)を並べて、その頭のよいことに関守氏を敬服させた後、「それですから、ここに相当の金力の実力を持っている者がありとしますと、たとえば三井とか、鴻池とかいう財産のある大家の中に、先を見とおす人があって、これは東方が有望だ、いや西方が将来の天下を取るというようなことを、すっかり見とおして置いて、そのどちらかに金方(きんかた)をしますと、その助けを得た方が勝ちます、勝って後は、そのお金持がいよいよ大きくなります――それに反(そむ)かれたものは破れ、それが力を添えたものが勝つ、戦争は人にさせて置いて、実権はこれが握る、実利はこれが占める、政府も、武家も、金持には頭が上らぬという時節が来はしないか、わたしはそれを考えておりました」「御説の通りでございます――そこで、金持に見透しの利(き)く英雄が現われますと、天下取りの上を行って、この世をわがものにする、という手もありますが、間違った日には武家と共に亡びる、つまり大きなヤマになるから、堅実を旨(むね)とする財閥は、つとめて政権争奪には近寄らない、近寄っても抜き差しのできるようにして置く、さりとて、その機会を外して、みすみす儲(もう)かるべきものを儲けぬのは商人道に外れますから、時代の動きを見て、財力の使用を巧妙にしなければならない、天下の志士共は、今、政権の向背について血眼(ちまなこ)になっておりますが、商人といわず、財力を持つものも懐ろ手をして油断をしている時ではありません、ここで油断をすると落伍する、ここで機を見て最も有効に投資をして置くと、将来は大名公家の咽喉首(のどくび)を押えて置くことになる――ところでお嬢様、三井、鴻池などの身のふりかたはひとごと、これをあなた様御自身に引当ててごらんになると、いかがでございます、このまま財(たから)を抱えて、安閑として成るがままに任せてお置きになりますか、但しは、ここで乾坤一擲(けんこんいってき)――」不破の関守氏が、つまり今までの形勢論は、話の筋をここまで持って来る伏線でありました...
中里介山 「大菩薩峠」
...さりとて教育者が最善手段(ベスト)を尽せりとして現状に甘んずるの不可なるこというまでもない...
新渡戸稲造 「教育の最大目的」
...さりとて文学者に成り済ました気ではない...
二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
...さりとて到底このまま引き下がってしまえるわけのものでもない...
正岡容 「艶色落語講談鑑賞」
...物凄い形に引きしまった痛ましい感情が私の胸に湧き返って座っても居られない様なさりとて足軽くあちらこちらとさ迷えもしない身をたよりなくポツントはかなく咲くはちすのうす紫に目をひかれて居た...
宮本百合子 「悲しめる心」
...さりとて古さへの躇(ため)らいや...
柳宗悦 「多々良の雑器」
...さりとて他所から借金して融通するような器用な真似の出来る翁ではないので...
夢野久作 「梅津只圓翁伝」
...虎を野へ放つも同様ではありませぬか」「さりとて...
吉川英治 「三国志」
...わたくしは曹操の筆蹟は、若い時から見ているので」彼の熱意は容易に聞き届けられなかったが、さりとて、思いとどまる気色もなく、なお懇願をつづけていた...
吉川英治 「三国志」
...味方と味方の負けじ魂は、時にきわどい摩擦(まさつ)を起こすし、全戦局を過(あやま)るような危険もなしとはしないが、さりとて、この気魄(きはく)もないような気魄では、敵と相見(あいまみ)えても、直ちに、霊魂そのものとなって、身を投げこむことはできない...
吉川英治 「新書太閤記」
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