...心の底では、馬鹿にするな、と思ひながら又つい見るのである...
高村光太郎 「美の影響力」
...次郎右衛門は気軽に、なんだ、そんな事は何でもない、こちらの宗旨を変えたらいい、家は代々不信心だから浄土宗だって法華宗だってかまわないんだ、と言って、にわかに総(ふさ)の長い珠数(じゅず)に持ちかえ、父母にもすすめて、朝夕お題目をあげて、父母は何の事かわからぬが子供に甘い親なので、とにかく次郎右衛門の言いつけどおりに、わきを見てあくびをしながら南無妙法蓮華経と称(とな)え、ふたたび伝六は、徳右衛門方におもむき、いまは桑盛様も一家中、日蓮様を信心してお題目をあげていますと得意満面で申し述べたが、徳右衛門はむずかしい男で、いやいや根抜きの法華でなければ信心が薄い、お蘭ほしさの改宗は見えすいて浅間(あさま)し、日蓮さまだっていい顔をなさるまい、ちょっと考えてもわかりそうな事だ、娘は或る知合いの法華の家へ嫁にやるようにきまっています、というむごい返事、次郎右衛門は聞いて仰天して、取敢(とりあ)えずお蘭に、伝六なんの役にも立たざる事、ならびに、お前がよその法華へ嫁(とつ)ぐそうだが、畜生め、私はお前のために好きでもないお題目を称えて太鼓をたたき手に豆をこしらえたのだぞ、思えば私の次郎右衛門という名は、あずまの佐野の次郎左衛門に似ていて、かねてから気になっていたのだが、やはり東西左右の振られ男であった、私もこうなれば、刀を振りまわして百人斬(ぎ)りをするかも知れぬ、男の一念、馬鹿にするな、と涙を流して書き送れば、すぐに折り返しお蘭の便り、あなたのお手紙何が何やら合点(がてん)が行かず、とにかく刀を振りまわすなど危い事はよして下さい、百人斬りはおろか一人も斬らぬうちにあなたが斬られてしまいます、あなたの身にもしもの事があったなら、私はどうしたらいいのでしょう、あまりおどかさないで下さい、よその縁談の事など、本当に私には初耳です、あなたはいつもお鼻や目尻の事を気にして自信が無く、何のかのと言って私を疑うので困ってしまいます、私が今更どこへ行くものですか、安心していらっしゃい、もしもお父さんが私をよそへやるようだったら私はこの家から逃げてもあなたのところへ行くつもり、女の一念、覚えていらっしゃい、という事なので次郎右衛門すこし笑い、しかし、まだまだ安心はならぬと無理に顔をしかめて、とにかくお題目と今は本気に日蓮様におすがりしたくなって、南無妙法蓮華経と大声でわめいて滅多矢鱈(めったやたら)に太鼓をたたく...
太宰治 「新釈諸国噺」
...民衆はいよいよ代議士というものを馬鹿にするだけの結果になるだろう...
太宰治 「パンドラの匣」
...馬鹿にするな! いまに大金持になるのに...
太宰治 「返事」
...あべこべに僕を馬鹿にするんで...
谷崎潤一郎 「痴人の愛」
...いったい何ちゅう気イやろ? 人馬鹿にするのんもほどがあるし...
谷崎潤一郎 「卍(まんじ)」
...時にはこれも畢竟(ひっきょう)妹夫婦があんまり意気地がないから親類までが馬鹿にするのだと独りで怒ってみて...
寺田寅彦 「障子の落書」
...母親を馬鹿にするような素振を見せ出した...
豊島与志雄 「古井戸」
...とかえって真の風流人を馬鹿にするための芸である...
夏目漱石 「草枕」
...東西相応じておれを馬鹿にする気だな...
夏目漱石 「坊っちゃん」
...「何? やっけえのけえ六? ――馬鹿にするねえ...
野村胡堂 「大江戸黄金狂」
...ことによったら馬鹿にするなと立腹されぬものでもない...
久生十蘭 「魔都」
...馬鹿にするな、ああ、小森君、握手しよう、可哀そうなのは人民だ、人民こそ純真無垢にして偽らざるものだ、と杉山氏は急にはらはらと落涙した...
火野葦平 「糞尿譚」
...その人はおそらく「馬鹿にするなツ」と憤慨するに相違ない...
牧野信一 「明るく・暗く」
...」「余り人を馬鹿にすると……」と私は今にも立ち上らうとした時...
牧野信一 「嘆きの孔雀」
...どうも田舎者を馬鹿にする傾向が多い...
柳田国男 「故郷七十年」
...旦那が無事に通れますかどうか」「アハハハ、馬鹿にするない、俺が殺したんじゃあるまいし」女運転手はニヤリと冷たく笑った...
夢野久作 「冥土行進曲」
...馬鹿にするというては語弊があるが先づ輕く見る...
吉川英治 「折々の記」
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