...彼女は鐚(わるび)れた様子もなく...
海野十三 「棺桶の花嫁」
...鐚公と神尾の前の小さな盃(さかずき)についで行きました...
中里介山 「大菩薩峠」
...鐚助も恐縮――どこで聞いたとおたずねになりましても...
中里介山 「大菩薩峠」
...「鐚(びた)が――そそのかしに行ったはずだ」と同人の一人がまた言いました...
中里介山 「大菩薩峠」
...さればこそ、鐚の奴も、命からがらああして逃げては来たが、やっぱり本性は違(たが)わずに、落着くべきところへ落着いたのだ...
中里介山 「大菩薩峠」
...その旦那が次のような歌をお詠(よ)みになりまして、鐚、どんなもんだ、点をしてくれろとおっしゃる、内心ドキリと参りましたね、実のところ、鐚も十有五にして遊里にはまり、三十にして身代をつぶした功の者でげして、その間(かん)、声色、物まね、潮来(いたこ)、新内、何でもござれ、悪食(あくじき)にかけちゃあ相当なんでげすが、まだ、みそひともじは食べつけねえんでげすが、そこはそれ! 天性の厚化粧、別誂(べつあつら)いの面(つら)の皮でげすから、さりげなくその短冊を拝見の、こう、首を少々横に捻(ひね)りましてな、いささか平貞盛とおいでなすってからに、これはこの新古今述懐の――むにゃむにゃと申して、お見事、お見事、ことに第五の句のところが何とも言えません、と申し上げたところが、ことごとく旦那の御機嫌にかなって、錦水を一席おごっていただきやしたが、実のところ、鐚には歌もヌタもごっちゃでげして、何が何やらわからねえんでげす、後日に至りやして、三一旦那から再度の御吟味を仰せつかった時にテレてしまいますでな、どうか、その御解釈のところを篤と胸に畳んで置きてえんでございます...
中里介山 「大菩薩峠」
...あなた、三一旦那は定家卿(ていかきょう)でも、飛鳥井大納言(あすかいだいなごん)でもございません、そう、殿様のように頭からケシ飛ばしてしまっては、風流というものが成り立ちません、第一、初心のはげみになりませんから、何とか一つ、そこは花を持たせていただきてえもんでござんして」「黙れ黙れ! 言語道断の代物だ――笑って済むだけならまだいいが、見て嘔吐(へど)が出る、ことに、第五句のところ……」「そこでげす!」「そこが、どうした」「鐚がそこを賞(ほ)めやしたところが、ことごとくお大尽のお気にかないました」「馬鹿野郎!」「これは重ね重ねお手厳しい、そういちいち、馬鹿の、はっつけのと、あくたいずくめにおっしゃっては、風流が泣くではございませんか、第一殿様の御人体(ごにんてい)にかかわります、お静かにおっしゃっていただきてえ」「その第五句の南面という言葉がはなはだ穏かでない、町人風情のかりそめにも用うべからざる語だ」「へえそんなたいそうな文句を引張り出したんでげすか」「南面というのは天子に限るのだ、この文句で見ると、三一旦那なるものは、何か蒸気船に乗って南の方へでも出て行く門出のつもりで、こいつを唸(うな)り出したものだろうが、南面して行くとは、フザケた言い方だ、勿体ないホザき方だ――ただ笑うだけでは済まされない、不敬な奴だ!」「へえ――大変なことになりましたな」「これ、ここへ出ろ、鐚、おれはこう見えても――物の分際ということにはやかましい、痩(や)せても枯れても神尾主膳は神尾主膳だ、鐚は鐚助――三一風情がドコへ行こうと、こっちは知ったことではないが、南面して行くとホザいたその僭越が憎い! おれは忠義道徳を看板にするのは嫌いだが、身知らずの成上り者めには癇癪が破裂する、よこせ!」と言って神尾主膳は、鐚の油断している手から大事の短冊をもぎ取って、寸々(ずたずた)に引裂いて火鉢の中へくべてしまい、「あっ!」と驚いて、我知らず火鉢の中をのぞき込む鐚の横っ面を、イヤというほど、「ピシャリ」「あっ!」鐚助、みるみる腫(は)れ上る頬っぺたを押えて、横っ飛びに飛んで玄関から走り出しました...
中里介山 「大菩薩峠」
...鐚(びた)は鐚で...
中里介山 「大菩薩峠」
...その姿を見て、鐚が、なるほど姪を孕まして、板下に書いて売出しそうなおやじだ、至極お人よしだなと思いました...
中里介山 「大菩薩峠」
...手頃な瓶に鐚錢(びたせん)でも詰めてよ...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...鐚錢(びたせん)が一枚飛んで來て...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...こいつは鐚(びた)一文出す氣づけえはねえが...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...鐚(びた)錢一つ入つては居りません...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...鐚(びた)一文欲しゅうはないよ」「そんなら...
火野葦平 「花と龍」
...保管中のベシイの財産から鐚(びた)一文もまわすことはできないと断然拒絶したのだ...
牧逸馬 「浴槽の花嫁」
...おらあ鐚(びた)も持っちゃあいねえんだから」「お酌してちょうだい」「ここも勘定が溜(た)まってるんだぜ」「お酌して」とお蝶は云った...
山本周五郎 「ちゃん」
...いまの餅屋のおつりのうちから鐚銭(びたせん)を一枚なげて...
吉川英治 「神州天馬侠」
...梯子を上がると鐚文(びたもん)部屋...
吉川英治 「鳴門秘帖」
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