...京都には一一三二年に建てられた建造物の遺趾の上に立つ...
エドワード・シルヴェスター・モース Edward Sylvester Morse 石川欣一訳 「日本その日その日」
...江戸に趾(あと)をとゞめず...
京山人百樹刪定 「北越雪譜」
...何かのけだものの朽ちた大きな趾(あし)うらのように...
ソーロー Henry David Thoreau 神吉三郎訳 「森の生活――ウォールデン――」
...城趾が桑畑になつてゐる...
種田山頭火 「行乞記」
...そしていつもの八町の杉並木を通り拔けて舊關所の趾から箱根町の方へといつた...
近松秋江 「箱根の山々」
...星野(ほしの)滞在中に一日小諸城趾(こもろじょうし)を見物に行った...
寺田寅彦 「あひると猿」
...その学校は昔の朝鮮の宮殿の趾に立っていた...
中島敦 「プウルの傍で」
...右(みぎ)の趾(あし)には...
グリム 中島孤島訳 「杜松の樹」
...即ち、舊城趾なり...
長塚節 「草津行」
...起きて見ると思ひの外で空には一片の雲翳も無い、唯吹き颪が昨日の方向と變りがないのみである、滑川氏の案内で出立した、正面からの吹きつけで體が縮みあがるやうに寒い、突ンのめるやうにしてこごんだ儘走つた、炭坑會社の輕便鐵道を十町ばかり行つて爪先あがりにのぼる、左は崖になつて、崖の下からは竹が疎らに生えて居る、木肌の白い漆がすい/\と立ち交つて居る、漆の皮にはぐるつとつけた刄物の跡が見える、山芋の枯れた蔓が途中から切れた儘絡まつて居る、小豆畑といふ小村へ來た、槎たる柿の大木は青い苔が蒸して幾本となく立つて居る、柿の木の下には小區域の麥が僅に伸び出して、菜の花が短くさき掛けて居る、ところ/″\に梅が眞白である、小豆畑を出拔けると道は溪流に沿うて山の峽間にはひる、笹はぼつさりと水の上に覆ひかぶさつて、山芋の蔓がびつしりと絆つて居る、頬白が淋しく啼きながら白い翅を表はして飛び出る、十三四位の女の子がついて小束の矢篠を背負つた馬がぼくたり/\とやつて來る、脚から腹まで一杯に泥がついて見すぼらしい姿である、素性よくしげつた杉のほとりを行く、此あたりの道は規則正しく拵へたやうに、横に一文字に低くなつては高くなり、又低くなつては高くなつてる、どこまでも同じやうである、低い所は蹄の趾で馬は必ずそこを踏む、泥水が溜つて居る、余等は飛び/\に高い所を踏んで行く、杉の木の部分を過ぎると左に又山の峽間が見えて僅かばかりの田がある、流には土橋が架つて岐路がそれへ分れて居る、三辻の枯芝に獵師が三四人休んで居る、炭をつけた馬が五六匹揃つて來た、田の間からも馬が二匹來た、五六匹の仲間は遠慮なしにさつさと行き過ぎる、二匹の方は土橋の際で若い馬士がしつかと馬の口もとを押へた、馬は口もとをとられながら後足をあげて一跳ね跳ねた、背中の材木が荷鞍と共に水の中へ落ちた、曩きのやうに右手の麓について進む、足へぽく/\と觸はるものがある、振り囘つて見るとあとから犬が來る、犬の鼻の尖が觸はるのであつた、獵師のうちの一人が蹤いて來た、狐色の筒袖の腰きりの布子で、同じ色の股引を穿いて居る、黎黒な肌に光りのある顏の五十格恰の巖疊な親爺である、犬は遙かのさきへ行つた、對岸の山の中程には炭竈の煙が枯木の梢をめぐつてこちらに靡いて居る、もう程なく燒け切るといふ鹽梅に淺黄の煙である、「此奧でしたか狸穴といふ所がありましたな、私等が貉を掘りに行つたことがありました、二匹捕つて三匹目の奴が出て來たのを、手で捉へちや喰ひ付かれるといふので木挽の斧でぶんなぐつたら、すつと引つ込んぢまつて夫れつ切り出て來ない、居るも居る三日三晩ばかり燻ぶしたがとう/\出ない、居ねえ筈は無いと思つたが辨當は無くなるし、夫れ切りで歸りましたが、腰越の獵師等がその趾を掘つて五つ捕つた相でした、穴の口から少し下つて一匹死んで居たといふ話です、滑川氏が獵師に話し掛けた、「さう仰しやればあすこには幾ら居たか知れねえんです、いつかもそんなことが有つたんですが、貉といふ奴は妙な奴で、直ぐに死んだ振りをします、人がひよつと見るとごろつと轉がつて、少し見ねえ振りをして居るとそろ/\起き出して見て、又ひよつと見るとごろつと轉がつてしめえますが、手拭で喉を括つて引つ擔いで來ても騷がねえんですからをかしな奴ぢやあありませんかねどうも、行く/\話が途切れない、獵師の言葉は思ひの外に丁寧である、たま/\路傍に甲の落ちた炭竈がある、土は眞赤に燒け切つて居てそこら一面に粉炭が散らばつて居る、燒けた土をとつて見た、小石交りの砂目である、かういふ良い土で一つ炭竈を築いて見たいと思つた、綻び掛けた梅がほの白く見えるのみで、人の氣も無いやうな腰越といふ小村へ出た、上り坂になる、振り返ると小さな山々を見越して眼界は漸く濶々として來たが霞が一面に棚引いて居るので明瞭に分らない、見える筈だといふ海が灰色に空と一つである、あれが磯原の松林であるといふのが、さう思へばさう見えるといふ位に過ぎない、坂を登りつめて休んだ、足もとを見おろすと僅に麥畑が作られて、そのさきには段々の高低を成して田が形つてある、麥畑のめぐりには垣のやうに拵へた無雜作な駒除がある、放牧の馬が五六匹そここゝに餌をあさつて居る、土中に在つて鳴くかと思ふやうな微かな蛙の聲が聞える、山と山との間から僅に露はれた頂には雪が眞白である、二三日此方降つたものであらう、田の向うには周圍が皆燒山で只一つ芝も燒けず常緑木の僅にしげつた小山がある、獵師はそこを指して語り出した、「あすこで秋から兎を十六七も打つたんですが夫れでまだ七八つも居るんです、周りがあの通りですから遊び廻つちやあ、あすこへ來ると見えるんです、兎といふ奴は馬鹿な奴で追ひ廻はされると、しめえにや元の所へ來つちまふんですから根氣よく追つ掛けりやあ屹度捉へられるやうなもんです、夫れでも又能のあつたもので、犬が追つて行つて今一息といふ所になるとひらつと脇へ開く所がどうでしよう、それを二度もやられると犬は飽れて追はねえんですがね、「さういふものですかね、此間は茶圃に兎が眠つて居たといふと、丁度法事の時なものですから若い衆が三四十人で取卷いてとう/\魚扠(やす)で突つ殺してしまひました、全體ことしは兎が居るやうですな、獵師は物をいふ度に揃つた長い眞白な齒を剥き出す、坂を少し下る、十八九の娘が馬を曳いてのぼつて來た、米桃のやうな頬の赤い肉つきのいゝ娘である、襷がけの草鞋拵へで、荷鞍には二升樽位の大さの夫れよりは稍長い古ぼけた樽が兩方に一つ宛つけてあつた、行き違ひに手綱をしごいて、左の手で馬の轡をとつてむつとした顏で過ぎ去つた、目の下には大北川の流が奔つて居る、對岸に少しの平地があつて、水の流がその平地を蹄の形にめぐつて居る、古い小屋のやうなものがところ/″\に見える、炭竈の趾である、樹木は大抵伐採されて、櫟であらうか人の立つて居るやうな木の株がぼつり/\殘つて居る、凄凉たるさまである、流のほとりまで下る、鼻を突くやうな向ひの山は悉く落葉木であるから狹いにしてはあたりがからつとして居る、萱のなかに馬が一匹じつとして立つて居る、「あれは私が放して置くんですが、舊正月の二日からうつちやつてあるんです、子が止まつてから三月四月になりましよう、奇態なことにあの馬は生れながら後足が三寸ばかり短いのでとても役に立たねえのです、腰越あたりの奴等はそこらの馬を捉へちや萱を背負はしたとか、代を掻かしたとかいふんですがあの馬ばかりは手をつけません、自分でまた體が不自由なものですから決して遠くへ行かねえんです、えゝなに、食ひ物さへありやどの馬でもそこに居るもんですがね、獵師の話は嘗て自らした伯樂のことに移る、路の傍には二抱三抱の楢の樹が聳えて、下には山吹が簇つて青い枝が交叉して居る、小さな坂を幾つか越したり、駒除のそばを過ぎたりして再び大北川の流に達した、橋がある、こつちに石を積んで、向うにも石を積んで、大きな杉の板が二枚ならべて水面に近く架け渡してある、水には夥しく鋸屑が交つて流れる、橋を渡ると杉の五分板をつけた馬が五六匹揃つて來た、河原礫の上に立つて暫く馬を避けた、岸へ上ると山桑の老木がならんで居て、老木の下の枯芝には火が二坪ばかり燃え廣がつて居る、馬士供の板面である、段々行くとシユウツ/\といふ音が聞える、水車小屋の中から響くのである、小屋へはいつて見た、機械で木材を挽くのである、外で大きな水車が廻轉すると、小屋の中の齒車がめぐる、他の車がめぐる、車から車へかけた袈裟のやうな象皮は中央の丸い鋸をめぐす、人が鋸をさし挾んで居る、鋸の傍には四角な柱が建てゝある、榾を鋸へあて、こちらから押す、さきで取る、瞬く間に一枚挽ける又挽ける、榾はいつでも柱へ密接せしめてあるので板は常に柱と鋸との間だけの厚さに出來る、榾一つ挽くのが烟草二三服の暇である、水車の脇から又のぼる、坂の上から見ると小屋の外には挽きあげた板が又字なりに組みならべたのが一面に白く見える、ずん/\登る、南京米の袋で縫つた衣物に荒繩をぐる/\卷きにした老爺が榾を背負つて來た、小村が目の前に表はれた、才丸である、遙かあなたには焦げたやうな一脈の禿山がつゞいて居る、山のこなたは左右の山と山との間がひろ/″\として居る、狹い間ばかり見て來た目には殊に心持がよく感ぜられた、一縷の烟も立たない三四十の萱葺の丈夫相に見える家が一つ所に聚つて居る、産土の森のやうなものも見える、周圍の平らみは皆田である、田には高低が無いやうで、馬が十匹ばかり放してある、どの馬も下を向いて頻りになにかあさつて居るやうである、孰れを見ても閑寂な沈んだ趣である、禿山の頂近くには一筋の土手のやうなものが仄かに見える、「山は磐城の國境で山の陰には杉の木が一杯に植ゑつけてある、幅一間の堀を穿つて土手を築いて才丸あたりの馬が入り込まない用心をして居る、茲から見えるのが其土手であると獵師がいつた、「此迄は丸であの山へ出たもんです、行きますともあれからぢやあずつと先まで行つたんです、それでまあ才丸ぢや大きに困るやうなわけなんです、一間位の堀なんぞぢやあ馬が飛び越えて行くんです、夫れを山番がふんづかめえて來ちや談じつけられて、才丸の奴等時々飮まれるんです、獵師はかう笑ひながら言ひ續けたが坂の中途でどつかりと芝へ腰をおろした、脚絆を締め直すのである、脚絆は丁度竹を細く裂いて編んだものへ漆でも塗つたといふやうな鹽梅のものである、紙撚りで拵へて、猪の血を塗つて固めたものだといふのであつた、草鞋の代りに猪の毛皮で作つた沓を穿いて居た、獵師は才丸の入口の桑の木が立ちならんだ小さな流のほとりで別れた、突然けたゝましい聲がした、田の中に草をむしつて居た馬が尻を突き合せて跳ねたのであつた、(明治三十八年五月二十九日發行、馬醉木 第二卷第三號所載)...
長塚節 「才丸行き」
...さうかと思(おも)へば或(あるひ)は水(みづ)は一滴(てき)もなくて泥(どろ)の上(うへ)を筋(すぢ)のやうに流(なが)れた砂(すな)の趾(あと)がちら/\と春(はる)の日(ひ)を僅(わづか)に反射(はんしや)して居(ゐ)る處(ところ)がある...
長塚節 「土」
...玉置の城趾に集ったのは...
野村胡堂 「古城の真昼」
...この城趾へ謎を解きに来て...
野村胡堂 「古城の真昼」
...四趾を駢(なら)び生ずるあり...
南方熊楠 「十二支考」
...過去世の馬の多趾な足に似ず...
南方熊楠 「十二支考」
...合併社趾の鬱蒼たりし古木は...
南方熊楠 「神社合祀に関する意見」
...出入りの趾(あと)...
吉川英治 「三国志」
...笛を吹くような独特な騒音と五個の円形の趾型からなる途轍もなく大きな足跡がそれらと関連づけられているようだった...
H. P. ラヴクラフト H.P.Lovecraft The Creative CAT 訳 「時間からの影」
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