...茫然と家々の空を見上げた...
芥川龍之介 「あばばばば」
...あの茫然とした験者(げんざ)や術師たちの姿と一しょに...
芥川龍之介 「邪宗門」
...上野まで茫(ぼ)んやりして参りました...
犬養健 「姉弟と新聞配達」
...蒼茫(そうぼう)とくれゆく海面に黒煙をうしろにながくひきながら...
海野十三 「火薬船」
...四面蒼茫として、往きかふ舟も無し...
大町桂月 「月の隅田川」
...越雪の真景に於て茫然たり...
京山人百樹、京水百鶴 「北越雪譜」
...私は自ら茫然としているうちに...
豊島与志雄 「或る男の手記」
...茫とした盲いた明るみになった途端...
豊島与志雄 「小説中の女」
...明暗定かでない空間の下に、茫とした地面が、大地があります...
豊島与志雄 「碑文」
...マリユスは茫然(ぼうぜん)として彼をながめた...
ビクトル・ユーゴー Victor Hugo 豊島与志雄訳 「レ・ミゼラブル」
...「ああ」茫然(ぼうぜん)として米友は見廻す...
中里介山 「大菩薩峠」
...然らざれば茫々たる芒である...
長塚節 「佐渡が島」
...起き上がつてこの茫(ばう)とした子分の顏を面白さうに眺めるのです...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...海の真中へ乗りだしてしまったような茫然とした気持ちで...
林芙美子 「泣虫小僧」
...ひどい熱のため彼の病室は茫と蒸れてゐた...
原民喜 「虹」
...顔ばかりが茫(ぼん)やりと客の椅子の上に見えるばかりであった...
室生犀星 「われはうたえども やぶれかぶれ」
...「おしのさん、どうするんです」彼は歩きながら、茫然と呟いた、「貴女はどこへいったんです、これからどうしようというんですか、いったいなにをするつもりなんですか、おしのさん」二「貴女と初めて逢ったのは正月の二十日ですよ、覚えていますかおりうさん」「覚えていますとも」おりうと呼ばれた女は、男をながし眼に見ながら、舌がだるいとでもいうような、あまえた口ぶりで云った、「――だってあたしのほうで呼んだんですもの、そうでしょ」「それから五月まで月に一度か二度、夏のうちは音沙汰なしで今月はもう十月、もうすぐ一年になるんですよ」「また年を一つとるのね、いやだこと」「おりうさん」「飲んでちょうだい」と女は云った、「月なんか数えるから年のことを思いだしちゃったじゃないの、いやなお師匠さん」「ふしぎだ」と男が云った、「その声のまわしようと、左の肩をおとして躯をかしげるしなは、そっくり沢田屋の得意の型だ」「またあんなことを」「そらその眼つき、――お嬢さん、貴女はきっと沢田屋とわけがおありですね」男は盃(さかずき)を置いて云った、「いいや、ただのひいきじゃあない、舞台を見ているだけで、あの東蔵の声まわしや身振りが、そんなにぴったり写るものじゃあない、私も岸沢蝶太夫(ちょうだゆう)です、そのくらいのことは見当がつきますよ」「そんなふうにからむんなら、あたし帰るわ」「図星というわけですか」「いいこと」女は坐り直した、自分では無意識かもしれないが、坐り直すと却(かえ)って、躯の線のやわらかさと、嬌(なまめ)かしさとが際立つようにみえた、「いいこと、お師匠さん」と女はあまえた口ぶりで云った、「あたしは芝居は好きだし、見ることはむろん見るわ、沢田屋の舞台だって見ているけれど、役者衆とは誰に限らず、これまでいちども逢ったことなんかありゃあしなくってよ」「それはお師匠さんとこんなふうに逢っているんだから」と女は続けた、「どんな浮気者と云われてもしかたがないでしょう、でもお師匠さんにそんな女だと思われるなんて辛いことよ」「それが本当なら」と男が云った、「どうしていつまでこんなふうに、蛇のなま殺しのようなめにあわせるんですか」「お師匠さんにはあたしの気持がわからないのね」「おりうさん」と男は手を伸ばした...
山本周五郎 「五瓣の椿」
...「いたずらに茫(ぼう)としてはおられない!」有村は形相(ぎょうそう)をかえて庭へ下りた...
吉川英治 「鳴門秘帖」
便利!手書き漢字入力検索