...彼は立つ瀬がなくなるのだ...
有島武郎 「星座」
...私の立つ瀬はありやしない...
伊藤野枝 「惑ひ」
...いま上長と戴いている先輩諸氏に迷惑などを懸けることになっては僕として本当に立つ瀬がないのだ...
海野十三 「深夜の市長」
...迚(とて)も立つ瀬が無かつたから...
薄田泣菫 「茶話」
...白状のしついでに私の出家遁世の動機をも、いまは包まず申し上げますが、私はあなた様たちのお仲間にいれてもらって一緒にお茶屋などに遊びにまいりましても、ついに一度も、もてた事はなく、そのくせ遊びは好きで、あなた様たちの楽しそうな様子を見るにつけても、よし今夜こそはと店の金をごまかし血の出るような無理算段して、私のほうからあなた様たちをお誘い申し、そうしてやっぱり、私だけもてず、お勘定はいつも私が払い、その面白(おもしろ)くない事、或(あ)る夜やぶれかぶれになって、女に向い、「男は女にふられるくらいでなくちゃ駄目(だめ)なものだ」と言ったら、その女は素直に首肯(うなず)き、「本当に、そのお心掛けが大事ですわね」と真面目(まじめ)に感心したような口調で申しますので、立つ瀬が無く、「無礼者!」と大喝(だいかつ)して女を力まかせに殴り、諸行無常を観じ、出家にならねばならぬと覚悟を極(き)めた次第で、今日つらつら考えると私のような野暮で物欲しげで理窟(りくつ)っぽい男は、若い茶屋女に好かれる筈(はず)はなく、親爺(おやじ)のすすめる田舎女でも、おとなしくもらって置けばよかったとひとりで苦笑致して居ります...
太宰治 「新釈諸国噺」
...でも色が白すぎて、そこんとこが気にいらないけど、でも、それでは貞子もあんまり慾張りね、がまんするわよ、兄ちゃん、こんど泣いた? 泣いたでしょう? いいえ、ハワイの事、決死的大空襲よ、なにせ生きて帰らぬ覚悟で母艦から飛び出したんだって、泣いたわよ、三度も泣いた、姉さんはね、あたしの泣きかたが大袈裟で、気障(きざ)ったらしいと言ったわ、姉さんはね、あれで、とっても口が悪いの、あたしは可哀想な子なのよ、いつも姉さんに怒られてばっかりいるの、立つ瀬が無いの、あたし職業婦人になるのよ、いい勤め口を捜して下さいね、あたし達だって徴用令をいただけるの、遠い所へ行きたいな、うそ、あんまり遠くだと、兄ちゃんと逢えないから、つまらない、あたし夢を見たの、兄ちゃんが、とっても派手な絣(かすり)の着物を着て、そうして死ぬんだってあたしに言って、富士山の絵を何枚も何枚も書くのよ、それが書き置きなんだってさ、おかしいでしょう? あたし、兄ちゃんも文学のためにとうとう気が変になったのかと思って、夢の中で、ずいぶん泣いたわ、おや、ニュースの時間、茶の間へラジオを聞きに行きましょう、兄ちゃん今夜、サフォの話を聞かせてよ、こないだ貞子はサフォの詩を読んだのよ、いいわねえ、いいえ、あたしなんかには、わからないの、でもサフォは可哀想なひとね、兄ちゃん知ってるでしょう? なんだ、知らないのか...
太宰治 「律子と貞子」
...ほんにもう立つ瀬がない」「そんなこととは少しも知りませんでした」「亀岡屋は丸つぶれ……父母へなんともお気の毒...
中里介山 「大菩薩峠」
...わたし立つ瀬が無いわ」「だッて……女だって...
中里介山 「大菩薩峠」
...あなたまで冷かしては立つ瀬がありませんわ...
夏目漱石 「吾輩は猫である」
...そっちとこっちは立つ瀬が別ッ個――考えてみりゃあ俺も馬鹿よ...
長谷川伸 「瞼の母 二幕六場」
...立つ瀬がないからね」三池の焼餅と早合点は有名なもので...
久生十蘭 「川波」
...仲人になったこの俺も立つ瀬がないというもんだして……」「わしもそう思うです...
矢田津世子 「凍雲」
...お孝としてはこう云うよりほかに立つ瀬がなかったのである...
山本周五郎 「寒橋」
...私はいよいよ立つ瀬がない」そう言って...
吉川英治 「江戸三国志」
...これでは立つ瀬がないと...
吉川英治 「神州天馬侠」
...お吉は立つ瀬のないような寂寥(せきりょう)に衝(う)たれた...
吉川英治 「鳴門秘帖」
...白い激浪の泡立つ瀬戸に...
吉川英治 「鳴門秘帖」
...立つ瀬がないじゃないか...
吉川英治 「松のや露八」
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