...雨中出立、そして雨中行乞(今日、牟岐町で、初めて行乞らしく行乞した)、雨が本降りになった、風が強く吹きだした、――八坂八浜を行くのである、風雨のすきまから長汀曲浦を眺めつつ急ぐ、鯖大師堂に参詣する、風で笠を吹きとばされ、眼鏡もとんでしまって閉口していたら、通りがかりの小学生が拾ってくれた、ありがとうありがとう、雨いよいよしげく、風ますますすさぶ、奥鞆町で泊るより外なくなったが、どの宿屋でも泊めてくれない、ままよとばかり濡れ鼠のようになって歩きつづける、途中どうにもやりきれなくなり、道べりの倉庫の蔭で休んだ、着物をしぼったりお昼をたべたり、二時間ばかりは動けなかった...
種田山頭火 「四国遍路日記」
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