...「三 木曽山脈と相対して、高峻を競い、之を圧倒して、北の方越後海辺まで半天に跳躍犇放(ほんぽう)するものを飛騨山脈となす、(中略)中央大山脈は鋸歯状に聳えて、四壑のために鉄より堅牢なる箍(たが)を匝(め)ぐらしたるもの、曰く鍋冠山、曰く霞沢山、曰く焼嶽、或ものは緑の莢を破りて長く、或ものは、紫の穂に出て高きが中に、殊に焼嶽(中略)は、常春藤の繞纒(じょうてん)せる三角塔の如く、黄昏(たそがれ)は、はや寂滅を伴いて、見る影薄き中に屹立し、照り添う夕日に鮮やかに、その破断口の鋭角を成せるところを琥珀色に染め、(中略)初めは焼嶽を指して、乗鞍と誤認したるほどなりき、乗鞍に至りては、久しく離別の後に、会合したる山なり、今日大野川に見て、今ここに仰ぐ、帽を振りて久闊を叫びしが、峰飛びて谿蹙(せ)まる今も、山の峻峭依然として『余の往くところ巨人有り焉』(My giant goes wherever I go)と、そぞろ人意を強うせしめぬ、(下略)(拙著『鎗ヶ嶽紀行』)この一群中に卓絶せるを、鎗ヶ嶽となす、その矗々(ちくちく)として、鋭く尖れるところ、一穂の寒剣、晃々天を削る如く、千山万岳鉄桶を囲繞せる中に、一肩を高く抽(ぬ)き、頭(あたま)に危石あり、脚に迅湍あり、天柱屹(こつ)として揺がず、洵(まこと)に唐人の山水画、威武遠く富士に迫れども、大霊の鍾(あつ)まるところ、謙(へりくだ)りて之を凌がず、万山富士にはその徳を敬し、鎗ヶ嶽には其威を畏(おそ)る...
宇野浩二 「それからそれ」
...それは峨々(がが)たる峭壁(しょうへき)があったり岩を噛(か)む奔湍(ほんたん)があったりするいわゆる奇勝とか絶景とかの称にあたいする山水ではない...
谷崎潤一郎 「蘆刈」
...尾谷川の閃々(きら/\)と夕日にかゞやく激湍(げきたん)や...
田山花袋 「重右衛門の最後」
...ただ一方の口から流出さしてる急湍があるけれど...
豊島与志雄 「山上湖」
...彼の力はあたかも岩の間の急湍(きゅうたん)のように...
ロマン・ローラン Romain Rolland 豊島与志雄訳 「ジャン・クリストフ」
...こんどは太い急湍(きゅうたん)の中に...
ロマン・ローラン Romain Rolland 豊島与志雄訳 「ジャン・クリストフ」
...これはまた湍々しい冬青樹の若葉の下影に...
豊島与志雄 「地水火風空」
...至る所に急湍を作り...
豊島与志雄 「山吹の花」
...五十丈の飛瀑(ひばく)を直下して急湍(きゅうたん)に赴(おもむ)いた青年がある...
夏目漱石 「草枕」
...カリフォルニアの金は奔湍(ほんたん)となってアメリカ中に...
服部之総 「汽船が太平洋を横断するまで」
...これ以後ポウの不幸は急湍の如くに彼をおし流し...
牧野信一 「『ユリイカ』挿話」
...巌高く湍(せ)速く谷深きを物ともせず飛び越え跳び越え駈け廻る...
南方熊楠 「十二支考」
...急湍の響(ひびき)は絶えず耳に入る...
森鴎外 「みちの記」
...嵐弦(らんげん)の滝(たき)の深湍(しんたん)に...
吉川英治 「神州天馬侠」
...英田川(あいだがわ)の上流をなしている奔湍(ほんたん)は...
吉川英治 「宮本武蔵」
...鮎(あゆ)すらも上(のぼ)れないといわれている岩石と奔湍(ほんたん)である...
吉川英治 「宮本武蔵」
...満目悉く奇岩と銀湍のみである...
吉田絃二郎 「八月の霧島」
...白い奔湍となって流れ下っているのを見る...
若山牧水 「みなかみ紀行」
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