...春汀と相逢へる也...
大町桂月 「十和田湖」
...どんな?」掬汀氏は頤(あご)を突出(つきだ)した...
薄田泣菫 「茶話」
...岸の枯草には雪が積つてゐて汀には氷が張つてゐる...
高濱虚子 「俳諧師」
...ほんの申しわけみたいに、岸ちかくの浅いところへ、ざぶりと網を打ったりなどして、そうして、一人二人、姿を消し、いつのまにか磯には犬ころ一匹もいなくなり、日が暮れてあたりが薄暗くなるといよいよ朔風(さくふう)が強く吹きつけ、眼をあいていられないくらいの猛吹雪になっても、金内は、鬼界(きかい)ヶ島(しま)の流人俊寛(るにんしゅんかん)みたいに浪打際(なみうちぎわ)を足ずりしてうろつき廻り、夜がふけても村へは帰らず、寝床は、はじめから水際近くの舟小屋の中と定めていて、その小屋の中で少しまどろんでは、また、夜の明けぬうちに、汀に飛び出し、流れ寄る藻屑(もくず)をそれかと驚喜し、すぐにがっかりして泣きべそをかいて、岸ちかくに漂う腐木を、もしやと疑いざぶざぶ海にはいって行って、むなしく引返し、ここへ来てから、ろくろくものも食べずに、ただ、人魚出て来い、出て来いと念じて、次第に心魂朦朧(もうろう)として怪しくなり、自分は本当に人魚を見たのかしら、射とめたなんて嘘だろう、夢じゃないか、と無人の白皚々(はくがいがい)の磯に立ってひとり高笑いしてみたり、ああ、あの時、自分も船の相客たちと同様にたわいなく気を失い、人魚の姿を見なければよかった、なまなかに気魂が強くて、この世の不思議を眼前に見てしまったからこんな難儀に遭うのだ、何も見もせず知りもせず、そうしてもっともらしい顔でそれぞれ独り合点して暮している世の俗人たちがうらやましい、あるのだ、世の中にはあの人たちの思いも及ばぬ不思議な美しいものが、あるのだ、けれども、それを一目見たものは、たちまち自分のようにこんな地獄に落ちるのだ、自分には前世から、何か気味悪い宿業(しゅくごう)のようなものがあったのかも知れない、このうえ生きて甲斐(かい)ない命かも知れぬ、悲惨に死ぬより他(ほか)は無い星の下に生れたのだろう、いっそこの荒磯に身を投じ、来世は人魚に生れ変って、などと、うなだれて汀をふらつき、どうやら死神にとりつかれた様子で、けれども、やはり人魚の事は思い切れず、しらじらと明けはなれて行く海を横目で見て、ああ、せめてあの老漁師の物語ったおきなとかいう大魚ならば、詮議(せんぎ)もひどく容易なのになあ、と真顔でくやしがって溜息(ためいき)をつき、あたら勇士も、しどろもどろ、既に正気を失い命のほどもここ一両日中とさえ見えた...
太宰治 「新釈諸国噺」
...夏は凉風の吹き入る曲浦の汀に...
谷崎潤一郎 「金色の死」
...先刻植込みの間だの池の汀(みぎわ)だのにあんなに沢山きらめいていた蛍が...
谷崎潤一郎 「細雪」
...主峰が大きな溪によつて二つに分れてゐる處から流れ落ちて來る急角度の傾斜を成した比良川の溪流が直ちに湖水に迫つて汀に土砂を押流したところに出來てゐる...
近松秋江 「湖光島影」
...汀に茂る葭の斷間に釣をして居る人があつた...
寺田寅彦 「寫生紀行」
...すぐ眼の下の汀(みぎわ)に葉蘭(はらん)のような形をした草が一面に生えているが...
寺田寅彦 「夢」
...哀歌同じ昨日の深翠り廣瀬の流替らねどもとの水にはあらずかし汀の櫻花散りてにほひゆかしの藤ごろも寫せし水は今いづこ...
土井晩翠 「天地有情」
...かがやく汀(みぎわ)の波に足許を洗わせながら...
中里介山 「大菩薩峠」
...細雨に烟(けむ)る長汀(ちょうてい)や...
中島敦 「環礁」
...藤棚の下を通り抜けて池の汀までやって来た...
久生十蘭 「魔都」
...茫然として汀の石灯籠の傍らに...
牧野信一 「天狗洞食客記」
...ひろい六甲の山野から打出ヶ浜の長汀(ちょうてい)へかけて急なうごきがみえだしていた...
吉川英治 「私本太平記」
...武行者は二度も三度も谷水の汀(なぎさ)にすべってズブ濡れになった...
吉川英治 「新・水滸伝」
...汀(なぎさ)に刎(は)ねた魚の影を見て...
吉川英治 「親鸞」
...汀(みぎわ)にさざ波一つない日の湖と山雨を孕(はら)んだ時の湖とぐらいな相違があるのではなかろうかと...
吉川英治 「宮本武蔵」
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