...正直のところまだその時分までほんとうにおしずさんを貰(もら)うという意志はなかったのでござりましてそれよりもじつは見合いにかこつけて一遍でも余計おゆうさんに会いたかったのでござります...
谷崎潤一郎 「蘆刈」
...そう云えばいつか本家の姉から、雪子ちゃんは幸子ちゃんの子ばかり可愛がって内の子供をさっぱり可愛がってくれないと嫌味(いやみ)を云われたことがあって、返答に困ったのであるが、正直のところ、雪子はちょうど悦子ぐらいの年頃の、悦子のような型に属する女の児が好きなのであって、本家の子供達と云うのは、なるほど大勢いることはいるけれども、女の児は今年二つになる赤ん坊が一人だけで、あとは男の児ばかりであるから、彼女の関心を惹(ひ)く程度は、とても悦子とは比べものにならないのであった...
谷崎潤一郎 「細雪」
...正直のところ歌のよしあしはどうでもよいのだが...
谷崎潤一郎 「武州公秘話」
...正直のところ、懸引きのないところ、私の発明したあのぜんまい仕掛の人形は、ボタンの押し方さえ知っていれば、石炭でも、ブドウ酒でも、また時間表だろうが、生きた雇人等よりは何層倍も早く、あなたの手許へ運びますよ、しかし、私は、これはここだけの話ですが、あれにも一つ不便な点のあることは否定出来ませんなア」「へエそりあほんとですか? あの人形には何か出来ない事でもあるんですか?」「その通りです」とスミスは平気な顔で、「あやつ等は私の部屋へ誰があの脅迫状を持込んだか、語る事は出来ないのですよ」豆自動車は彼自身のように小型で、快速だった...
チェスタートン Chesterton 直木三十五訳 「見えざる人」
...こんなことを申し上げると、いかにも馬鹿野郎のようでございますけれど、正直のところ、私共なんぞはそれでございますよ、行く末、英雄豪傑になれるというわけのものではなし、また大した金持になれようという見込みもあるのじゃあございませんですから、いいかげんのところでごまかしてしまうんでございますよ...
中里介山 「大菩薩峠」
...自重(じちょう)してくれ給えよ……しかし、宇津木、それはどうあろうとも、正直のところは、拙者は君を敵に持つことを怖れているのだ...
中里介山 「大菩薩峠」
...正直のところ、銭形平次三百八十三編も、第五十話あたりが、最も骨が折れた...
野村胡堂 「胡堂百話」
...それくらゐのことなら言へるだらう」「正直のところを申上げますと...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...正直のところ、金五郎は、心内、すこし狼狽していた...
火野葦平 「花と龍」
...識合いのブダペストの石油屋が破産しましてね、何うせ要るものですし、あまり安価いから五桶ほど引き取ったんですが、正直のところ、すこし持て余していますよ」これが町のゴシップを消火するに役立って、間もなく人々は、この、キスの家にある五個の錻力製の大きな桶のことを、忘れるともなく忘れた...
牧逸馬 「生きている戦死者」
...勇敢でしつような抵抗論者としての清水幾太郎(しみずいくたろう)を、私はかねて尊重しているが、正直のところ、この人はただ単なるアップ・ツウ・デイトなジャーナリストにすぎないのではないかと思うことが、ときどきある...
三好十郎 「抵抗のよりどころ」
...まったく正直のところ...
ミシェル・エーケム・ド・モンテーニュ Michel Eyquem de Montaigne 関根秀雄訳 「モンテーニュ随想録」
...(a)まったく正直のところ...
ミシェル・エーケム・ド・モンテーニュ Michel Eyquem de Montaigne 関根秀雄訳 「モンテーニュ随想録」
...けれども正直のところ...
ミシェル・エーケム・ド・モンテーニュ Michel Eyquem de Montaigne 関根秀雄訳 「モンテーニュ随想録」
...それにまた正直のところ...
ミシェル・エーケム・ド・モンテーニュ Michel Eyquem de Montaigne 関根秀雄訳 「モンテーニュ随想録」
...正直のところ女房子に満足な着物も着せられなかった」松の話はたどたどしく...
山本周五郎 「嘘アつかねえ」
...……何を隠そう、かく云う吾輩(わがはい)自身の事なんだが、おかげでこうして大学校の先生に納まりは納まったものの、正直のところ、考えまわしてみると吾輩は、一種の研究狂、兼誇大妄想狂に相違ないんだからね...
夢野久作 「ドグラ・マグラ」
...正直のところ、筆者もこの衆口に一致してしまいたいので、この以上に能のヨサの説明は出来ない事を自身にハッキリと自覚している...
夢野久作 「能とは何か」
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