...はて? ……と一同も解(げ)せぬ顔して、「なんのおん涙やら」と、疑い、「あすは尾濃(びのう)平原に馬を立て、徳川どのという大敵にまみゆるに、つねの殿ともおもわれぬ」と、主人の愚痴(ぐち)を案じあったが、枕につくや、秀吉の高いびきに変りはなく、憂うるをやめよ、といわぬばかりに、快睡(かいすい)わずか二(ふ)タ刻(とき)、天もまだほの暗い早暁にここを立ち、その日のうちに、第一梯団(ていだん)、第二梯団とも、続々、岐阜に着いていた...
吉川英治 「新書太閤記」
便利!手書き漢字入力検索