...ほがらかな晴れ、俊和尚と同行して警察署へ行く、朝酒はうまかつたが、それよりも人の情がうれしかつた、道場で小城氏に紹介される、氏も何処となく古武士の風格を具へてゐる、あの年配で剣道六段の教士であるとは珍らしい、外柔内剛、春のやさしさと秋のおごそかとを持つ人格者である、予期しなかつた面接のよろこびをよろこばずにはゐられなかつた、稽古の済むのを待つて、四人――小城氏と俊和尚と星城子君とそして私と――うち連れて中学校の裏へまはり、そこの草をしいて坐る、と俊和尚の袖から般若湯の一本が出る、殆んど私一人で飲みほした(自分ながらよく飲むのに感心した)、こゝからは小城さんと別れた、三人で山路を登る、途中、柚子を貰つたり、苺を摘んだり、笑つたり、ひやかしたり、句作したりしながら、まるで春のやうな散歩をつゞる(マヽ)、そしてまた飲んだ、気分がよいので、景色がよいので――河内水源地は国家の経営だけに、近代風景として印象深く受け入れた(この紀行も別に、秋ところ/″\の一節として書く)、帰途、小城さんの雲関亭に寄つて夕飯を饗ばれる、暮れてから四有三居の句会へ出る、会する者十人ばかり、初対面の方が多かつたが、なか/\の盛会だつた(私が例の如く笑ひ過ぎ饒舌り過ぎたことはいふまでもあるまい)、十二時近く散会、それからまた/\例の四人でおでんやの床几に腰かけて、別れの盃をかはす、みんな気持よく酔つて、俊和尚は小城さんといつしよに、私は星城子さんといつしよに東と西へ、――私はずゐぶん酔つぱらつてゐたが、それでも、俊和尚と強い握手をして、さらに小城さんの手をも握つたことを覚えてゐる...
種田山頭火 「行乞記」
...・ゆふ空の柚子二つ三つ見つけとく・わたしひとりのけふのをはりのしぐれてきた・寝覚まさしく秋雨であつた(即興)夜中にふと眼がさめたら雨がふつてゐた...
種田山頭火 「其中日記」
...松茸と柚子と新菊との三重香、秋の香気が一碗の中にあつまつてゐる、秋は匂ひだ、その匂ひの凝つたのが松茸の香であり、柚子の香である...
種田山頭火 「其中日記」
...味覚の秋、しかも香気の秋だ、紫蘇、柚子、橙、松茸...
種田山頭火 「其中日記」
...それは柚(ゆ)の花の侘(わび)しく咲いている...
萩原朔太郎 「郷愁の詩人 与謝蕪村」
...赤い振柚に花簪、帯のだらりも金襴に……と、歌の文句のように、浮世絵の極彩色の美しい姿で松並木のなかほどのところまでやってくると、上手(かみて)から飛脚が飛んで出る...
久生十蘭 「顎十郎捕物帳」
...お仲間ですもの」「お仲間って?」柚子は唇の端をひきさげると...
久生十蘭 「雲の小径」
...マジマジと柚子の顔を見つめた...
久生十蘭 「雲の小径」
...ないでしょうね」「柚子とはターミナルで別れたきり...
久生十蘭 「雲の小径」
...あれはあれなりに、花の咲かせようもあったろうと思って、ね」「結婚式という儀式だけのことなら、柚子さんも、やっていたかも知れないぜ」「なにを馬鹿な」「すると、君は、なんの感度(かんど)もなかったんだな」「感度って、なんのことだ」「これはたいしたフェア・プレーだ...
久生十蘭 「春雪」
...おれに柚子さんの代理をしてくれということなんだ...
久生十蘭 「春雪」
...いつかの青年と柚子が枠の中にべつべつにおさまって笑っていた...
久生十蘭 「春雪」
...むしろ柚のかをりのする Sentimental Journey である...
堀辰雄 「「浴泉記」など」
...柚太の脚どりは切りと宙を飛んで...
牧野信一 「剥製」
...柚(ゆず)橙(だいだい)の如きはこれである...
正岡子規 「くだもの」
...「赤井の柚子(ゆず)」といわれるくらい巨(おお)きな柚子がたくさん生(な)っていた...
山本周五郎 「百足ちがい」
...柚はたいがい伐られてしまひ...
吉川英治 「折々の記」
...一碗(いちわん)の柚湯(ゆずゆ)をすすめて...
吉川英治 「柳生月影抄」
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