...ふと、そんなことを思つたといふのも、去年「塔影」といふ繪の雜誌で、京都に建つ榊原紫峰氏の新築の、庭木や、石や、木口の好みの、思ふがままに、實に素晴しいものが、易易と、實に神業のやうにうまく調ひ、しかもその豪華さが、奧ゆかしいまで目立たずに、自然らしく、組みたてられてゆくやうな話に、わたくしは、自分のものでもないのに、自分のもの以上な、樂しみと悦びを感じて、未知な方ではあるが、京都へゆくことがあれば、その新築を、ぜひ見せて頂かうと自分勝手に樂しんでゐたからで、いかにも豐富といふこと――この世にも、こんな好いことがあるのかと心樂しく思はせられたからだつた...
長谷川時雨 「家」
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