...この小さい者の為めには何物も惜しまないと云ふ感激が不断に繰り返されるのであつた...
伊藤野枝 「乞食の名誉」
...少しで仕あがるところを惜しいのだけれど――」「さう...
岩野泡鳴 「泡鳴五部作」
...我が子の腕にある平中の歌に一掬(いっきく)の涙を惜しまなかった母は...
谷崎潤一郎 「少将滋幹の母」
...これとお経の読みかたとを習うために惜しいところで妹背山(いもせやま)の芝居を切り上げて...
谷崎潤一郎 「蓼喰う虫」
...だが、牧のことを考える時のように、憤りが、口惜しさが、湧き立って来なかった...
直木三十五 「南国太平記」
...萬年青も煙管も臺なしだ」「だつて口惜しいぢやありませんか...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...お鶴は口惜しさも涙も隱さうともせず...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...言ひやうもなく寂しく口惜しい思ひを感じた...
萩原朔太郎 「中央亭騷動事件(實録)」
...じっと名残惜しそうに海岸の椰子の林をながめている...
平田晋策 「昭和遊撃隊」
...負け惜しみにでも...
宮嶋資夫 「恨なき殺人」
...なにか惜しいような氣もしたのだから...
三好十郎 「肌の匂い」
...俗縁のあった方に惜しんで泣いていただくのはともかくもだがというような意味を...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...無駄にするのは惜しいものなんだ...
夢野久作 「オンチ」
...休みのはてに己(おの)が子と別るる鄙(ひな)の親達は夏の尽くるや惜しからん...
與謝野晶子 「晶子詩篇全集」
...「よくよく命は惜しいものだ」われながらその執着(しゅうじゃく)には感心する...
吉川英治 「黒田如水」
...不肖高定を惜しんで下さるとのことに...
吉川英治 「三国志」
...「――そして、この観音堂に、お母(っか)さんと私を待っていた妙な侍は、ややしばらく、怖がる私の手をとって、ジッと涙ぐんでいましたが、そのうちに、今度は、お母(っか)さんに、シンミリと別れの言葉をいいのこして――そうでした――旅へでも立つように、名残を惜しんで、幾度(いくたび)も幾度も振り返りながら、花吹雪(はなふぶき)の闇の中へ、姿が消えてしまったのです……影絵みたいなそのお侍の姿が行ってしまったのでした」「ふウむ、そして?」「それから先は、小さい私は無我夢中、おはぐろ溝(どぶ)の裏店(うらだな)で、お転婆娘(てんばむすめ)に育ってきましたが、お母(っか)さんと死に別れた頃から、時々、その影絵のお侍が、妙に思いだされてくるんですよ――、そしてね万吉さん、どうして私のお母(っか)さんが、そのお侍と別れる時に、あんなに泣いていたのだろうか? ……とそれが解けない謎(なぞ)でした」「ウム、そう話されて、俺にはうッすら分ってきた」「私も年頃になってから、それを覚(さと)ってきたのです」「花の散る晩に、ここへ別れにきた侍は、お前(めえ)の――」「私の、ほんとの、父親(てておや)でしょう? ……」「そうよ、それに違(ちげ)えねえ」「養い親の人情で、虎五郎は私にそれを秘(ひ)し隠(かく)しにしていましたが、息をひきとる時になって、初めて、それを明かそうとしたのじゃないかと思うのです」「なるほど……、そうすると、お前(めえ)に渡した刀と一緒に、何か由緒(ゆいしょ)が書いてあるかもしれねえ」「このお堂の御廂(みひさし)を仰いで、ふいと思い浮かんだのも、何か深い因縁ずく……と、急に開けてみたくなったもんだから……」「まア、とにかくそれじゃ、早く中をあらためてみるがいい」「ええ……」と、いって、お綱はまた現実のときめきにうたれながら、膝にのせていた刀の包み紙を、クルクルと、静かにはいでゆくのであった...
吉川英治 「鳴門秘帖」
...お髪をお惜しみなされませよ」「……うん」頼朝は頷(うなず)いた...
吉川英治 「源頼朝」
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