...夾竹桃と饒舌(おしやべり)な白蓮の間(あはひ)をすべりゆく夢みる大きい白鳥は、大変恋々(れんれん)してゐます、その真つ白の羽をもてレダを胸には抱締めます、さてニュス様のお通りです、めづらかな腰の丸みよ、反身(そりみ)になつて幅広の胸に黄金(こがね)をはれがましくも、雪かと白いそのお腹(なか)には、まつ黒い苔が飾られて、ヘラクレス、この調練師(ならして)は誇りかに、獅((しし))の毛皮をゆたらかな五体に締めて、恐(こは)いうちにも優しい顔して、地平の方(かた)へと進みゆく!……おぼろに照らす夏の月の、月の光に照らされて立つて夢みる裸身のもの丈長髪も金に染み蒼ざめ重き波をなすこれぞ御存じアリアドネ、沈黙(しじま)の空を眺めゐる……苔も閃めく林間の空地(あきち)の中の其処にして、肌も真白のセレネエは面(かつぎ)なびくにまかせつつ、エンデミオンの足許に、怖づ怖づとして、蒼白い月の光のその中で一寸接唇(くちづけ)するのです……泉は遐((とほ))くで泣いてます うつとり和(なご)んで泣いてます……甕((かめ))に肘をば突きまして、若くて綺麗な男をば思つてゐるのはかのニンフ、波もて彼を抱締める……愛の微風は闇の中、通り過ぎます……さてもめでたい森の中、大樹々々の凄さの中に、立つてゐるのは物云はぬ大理石像、神々の、それの一つの御顔(おんかほ)に鶯は塒(ねぐら)を作り、神々は耳傾けて、『人の子』と『終わりなき世』を案じ顔...
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー Jean Nicolas Arthur Rimbaud 中原中也訳 「ランボオ詩集」
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